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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第十二章 初期衝動-Initial Impulse-
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第211話 クラスメイト

 さて、ジジイによる俺の日本追放宣言だが、具体的に何が起こるのか俺もちゃんと理解してはいなかった。

 学園を退学になるという話だったが、とりあえず月曜日の朝いつものように寮から通学すると、普通に教室には俺の席があった。そしてそこに着席することを誰からも咎められることはなく、今まで通りの日常がそこにあった。

 退学は今すぐという話ではないのかもしれない。


 だが、退学してから今後の事を考えてからでは遅いと思い、俺は席を立った。


「エミリー」


 そして転校してきたばかりの留学生に声を掛けた。


「おはようございます、シロ」


「おはよう。そして俺はシロではなくシロウだ」


「シロゥ?」


「……まあいい。エミリーさ、UEDに連絡って取れるか?あのジョシュって人なら日本語ペラペラだから話しやすいんだけど」


「え?それは……できますけど……」


「それかお前がいたアカデミー?そこの交換留学生としてでもいいんだけど、アメリカに行って俺の身柄を保護してくれねえかなって思ってさ」


 渡米するにしても、当てがなくてはどこに行ってどう生活すればいいか分からない。

 だから俺はエミリーを通じて、ジョシュって人を頼ろうかと考えたのだ。


「どういうことですか?」


 いきなりの俺の申し出に、エミリーは訝しげな顔で尋ねてきた。

 まあ、事情を全く話さないわけにはいかないか。


「実はさ、政府のお偉いさんと喧嘩しちゃってさ、日本にいられなくなるかもしれないんだ」


「アナタ、何をしているんですか……」


 エミリーの冷たい視線が突き刺さる。

 すると後ろから驚いた声で話しかける奴がいた。


「どういう事なんだい一ノ瀬君!」


 紫村だ。


「ああ、あの……お嬢の親父さんから呼ばれた会議に行って、お嬢の爺さんと喧嘩しちゃって……」


「ヒカルさんのお爺さんと言うと、九条総裁のことかい?」


「お……おお。よく知ってんな」


「くっ、九条総裁と言えば、ヒカルさんのお父さんと派閥が違っていて貴族主義がとても強い人物として有名だ。おそらく貴族ではない一ノ瀬君に嫌がらせをしたんだろう?」


「よく分かったな……」


 将来的に政治家志望の紫村は政治にも詳しい。逆に俺は政治経済が一番の苦手教科だ。


「それで、アメリカに行くって言うのは本気なのかい?」


「あ、ああ。日本にいられなくしてやるとか言われたからな……」


「そんな……ひどい……」


 紫村が絶望の表情を浮かべていると、教室のドアがあわただしく開かれた。


「一ノ瀬!一ノ瀬はいるか?」


 思わず俺は振り返ると、そこには何とカズマさんの姿があった。


「カズマさん?!」


「一ノ瀬!ヒカルから聞いた。祖父がすまなかった。お前の事は父に頼んで何とかする。絶対に祖父の思い通りにはさせんからな」


 カズマさんは俺を見つけるとすぐに近くまでやって来て頭を下げてそう告げた。

 いつもクールなカズマさんがとても熱い。


「ヒカルを擁護してくれたそうだな?すまん。本来は俺の役目だった。お前に損な役回りをさせてしまった」


「とんでもないです!」


 なんだかとても恐縮する。そしてカズマさんの距離が近い。

 俺たち一年生にとって三年生というとずいぶん先輩のように感じていたが、冷静に考えると2歳しか年は変わらないんだよな。

 俺はカズマさんの知らない一面を見て、なんだかおかしくて「フフッ」と笑ってしまう。


「一ノ瀬君。笑ってる場合じゃないよ」


 紫村が言う。確かにそうかもしれないが、でも


「まあ、なるようにしかならないだろ」


 俺は半ば諦め気味にそう言った。


「ちょっとシロウ!今の話本当?」


 すると、俺たちの会話が聞こえたユノが慌てた表情で近寄って来た。

 ユノだけでなくクラスのみんなに取り囲まれていた。


「シロウ君がいなくなっちゃうなんて嫌だよぉ……」


 泣きそうな顔でマイカが言う。


「シロウ、何とかならないのか?」


 普段凛々しいイオリも、とても寂しそうな表情でそう言った。


「一ノ瀬、そんな貴族の横暴を許していいのか?理不尽な要求には断固として立ち向かうべきだ」


 千堂は怒った表情でそう言った。


「一ノ瀬君がいなくなったら、僕らのパーティーは落ちおぼれになっちゃうよ……」


 授業でパーティーを組んでいる水野がそう言う。

 それはおまえたちの努力でなんとかしろ。


 クラスメイト達がそれぞれ俺の名を呼び、辞めないでくれと言う。

 なぜだろう?なぜみんなこんなに俺の事を心配するんだ?

 俺が戸惑っていると、カズマさんが俺に言った。


「一ノ瀬、お前はD組の重要な仲間なんだな。これだけクラスメイトに慕われている生徒も珍しい」


「え……?」


 俺が慕われている?

 意外だった。

 俺はいつもマイペースで、自分中心にやってきたはずだ。

 できるだけ一人行動をしていたし、自分が関わりたいときだけ関わってきた。


「こんな自分勝手な俺を仲間と思ってくれているなんて……」


 思わず俺の口から驚きの言葉がこぼれた時、紫村が俺に告げた。


「一ノ瀬君は僕らの友達なんだ」


 友達……。そんな言葉を恥ずかし気もなく正面からそう言えるのが紫村らしい。

 思えば中学の時も、クラスメイト達とはある程度仲良くやれていたと思うが、友達と呼べるほどの関係を築けていたかと言えば分からない。今でも連絡を取っているやつもいないし。

 そんな俺だけど、この学園では友達を作ることができていたらしい。


 その時、慌てながら城之内先生が教室へとやって来た。


「一ノ瀬君はいるかしら?」


「あっ、ハイ。います」


 俺はすぐに返事をする。


「一ノ瀬君。急いで応接室に来てくれるかしら?授業はいいから」


 ついに来たか。

 俺はいよいよ覚悟を決める。

 席を立ち、教室を出て行こうとすると、紫村とカズマさんが俺の後に付いてきた。

 思わず振り返り、呟く。


「えーっと……?」


「僕も一緒に行く。力になれるかどうか分からないけど、一言言ってやらないと気が済まないんだ」


「私も同じ気持ちだ。不本意な知らせであれば、いくら祖父の命令でも許せん。一方的におまえに退学を告げられるようなことがないよう、私が付いて行った方がいいだろう」


 そんな二人の申し出に、俺は何と答えていいか迷いつつ、なんとかお礼を口にした。


「ありがとうございます、カズマさん。紫村もありがとう。それじゃ一緒にきてくれますか」


「もちろんだ!」

「もちろんだよ!」


 二人は同時に答えた。

 余計な二人が付いてきて城之内先生も困惑していたが、急いでいるらしく余計な事は言わずに俺たちを連れて歩いて行った。

 そして応接室に着くと、ドアをノックして開く。


「失礼します。一ノ瀬君をお連れしました。それと二人が付いてきてしまったのですが……」


 そう言って部屋の中の人へと説明をした。

 俺も城之内先生に続いて部屋へと入る。


「どうも……」


 そして部屋の中にいた人間を見て、びっくりしてしまった。

 俺に続いて応接室に入って来た、カズマさんと紫村も俺と同じリアクションをする。


「朝から呼び出してしまってすまないね」


 そう言ってソファから立ち上がったのは、九条公爵だった。

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