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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第十二章 初期衝動-Initial Impulse-
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第208話 毒消し薬事業説明会2

「総裁、これは私たちが決めたことです。あなたに反対されるいわれはありません」


 毒消し薬製法の公開について異論を唱えたジジイに対し、九条公爵が猛然と反発した。

 ジジイは席に座ったまま、公爵をあざけわらうように笑って言った。


「だからおまえは間違ってるというのだ。なぜ製法を公開する必要がある?誰でも作れるようになってしまえば、我々の利益が減ってしまうだろうが。そんな分かり切ったことも理解できんのか?」


 我々の利益?なぜジジイは毒消し薬事業の利益を自分も受け取ろうとしてるのだろうか?図々しいにもほどがある。


「お言葉ですが総裁、これは利益追求で行っている事業ではありません。そして総裁が反対されようとも、製法の権利を有する山下さんが公開すると決めたことです」


 公爵は強い口調でそう言った。

 だが、ヒカルの言う通りジジイは人の言葉を聞かない性格のようだ。これだけ言われても納得できないようで、今度は山下さんを恫喝し始める。


「おい、貴様。山下と言ったな」


「は、ハイ……」


 山下さんは怯えながら返事をする。


「製法公開を中止しろ。ワシの命令だ」


「え……でも……」


「総裁!」


 理不尽なジジイの要求に、公爵も怒りをあらわにする。


「貴様!ワシに盾突く気か?ワシが中止しろと言ったからには中止のだ!」


「ヒィッ!」


「総裁!その辺にしてください!」


 親子喧嘩が始まってしまった。誰か止められる人はいないのだろうか?


「逆になぜおまえはそこまでして情報を公開したいのだ?」


「先ほども言いましたが、製法が広まれば助かる人も増えるのです」


「なぜ貧乏人まで助けてやる必要がある?ワシらの命さえ安全なら、良いではないか?ワシらには代わりはいないが、庶民なんぞ代わりはいくらでもいるだろう。命の重さは平等ではないのだぞ?」


「違う!もういいです、この件については後で個人的に話しましょう。このままだと会議が中断してしまいます」


「何を話し合う必要があると言うのだ?なあ、ワシだけでなく、ここにいる議員たちのみんなもそう思うよな?」


 ジジイは今度は会場にいる他の議員たちに問いかける。

 ジジイに逆らえる者がいないのか、会場は無言だった。


「総裁。この件は後でゆっくり話し合いましょう。会議を続けますよ」


「ふん!」


 公爵が納得しないことが気に入らないのか、ジジイは不満そうな顔を浮かべたが、一旦口をつぐんで、椅子に深く座り直した。

 公爵が会場横にいる部下に目線を送ると、部下は頷きプロジェクターの映像が切り替わった。

 それは実際にダンジョン内で生えている毒消し草の姿だった。


「それでは話を続けます。製法を公開すると同時に、広めたいと思っている情報があります。まず最初に伝えたいのは、毒消し草は採取すると再び生えてくることはないということです。また毒消し草は、通常の植物の生態とは全く違っています。それは植物のように成長することも無ければ、種子などで増殖することもない、そして生えている間は枯れることもない。つまり毒消し草は、ダンジョン内のアイテムの一つと言われているのです」


 この説明を聞いて、ほとんどの議員は鋭い理解力によって問題に気づく。

 ジジイは公爵が何を言いたいのか分からずに不思議そうな顔をしていた。


「つまり、毒消し草は採取するとなくなってしまうということです。これはいくら毒消し薬を作ることができても、毒消し草を採り尽くしてしまえば、その後はもう作れなくなってしまう問題があるということです。しかしこの問題についても、故人である斎藤さんが解決策を伝えていてくれました」


 プロジェクターに毒消し草の拡大映像が写される。


「毒消し草は茎の途中から色が変わっています。この途中から黄緑色になっている部分、ここから切り取ると、毒消し草は再生するのです。そして切り取った黄緑色の部分だけでも、十分毒消し効果があるのです。実はこの情報は既にダンジョンナレッジに登録されているのですが、一般にはあまり広まっていない知識になります」


 ここまで話を聞いて、議員たちは安堵の表情になる。

 毒消し草獲り尽くし問題が解決し、継続した毒消し薬製造ができることが分かったからだ。

 そこであることを思い出した俺は、挙手をする。


「あ!ちょっといいですか?」


 会場の視線が俺に集まる。ちょっと恥ずかしい。


「もちろん。どうしたんだい?」


「えっと、その黄緑色の部分だけ切り取った毒消し草ですが、何日か待っても再生しますが、その場で治癒魔法をかけても再生します」


「えっ?!」


 会場がざわめく。

 一応伝えといた方が良いと思って言いました。俺が隠していても何の得にもならない情報だったし。


「一ノ瀬君、それはどうやって知ったんだい?」


「あ、それは実際に俺が治癒魔法をかけて……。実は俺も治癒魔法スキルを持っているんです……」


「え?」


 横に座っていたヒカルが驚きの声を上げる。

 須佐さんは知っていたので口をへの字に曲げたまま何も言わなかった。

 再び会場がざわつく。


「つまり治癒魔法使いがいれば、毒消し草の採取量も増やすことができるということか……」


 公爵も俺の言う事を信じてくれたようで、これでまた少し役に立つことができただろうか。

 俺が言いたいことを言い終えて着席すると、ジジイから「フン!」という不機嫌そうな声が聞こえた。


「有益な情報をありがとう一ノ瀬君。それと皆さん、ここで一ノ瀬君を紹介したいと思います。一ノ瀬君、そしてヒカル、檀上に来てくれるかい?」


「あ、ハイ」


 呼ばれた俺とヒカルは檀上に行き、公爵の横に立った。


「皆さん、ご紹介します。娘のヒカルと、学友の一ノ瀬シロウ君です。実は今回のこの毒消し薬事業については、全てこの二人の発案で始まったものなのです」


 会場が驚きの声でざわつく。今日は皆さん驚いてばかりいるようで。


「この一ノ瀬君がゴールデンウィークに奥多摩ダンジョンの探索に行ったことが事の始まりです。そこで一ノ瀬君が山下さんと出会い、そして迷宮内で斎藤さんが残した碑文を元に、大量の毒消し草を発見しました。一ノ瀬君はそれを山下さんに伝えましたが、山下さんはその時点では毒消し薬作りはもうやめようと思っていたそうです」


 公爵の説明を聞き、懐かしい気持ちになる。

 まだ二か月も経っていないが、ひどく昔の事のように感じた。


「そこで一ノ瀬君からヒカルに相談があり、ヒカルから私に工場を建てて毒消し薬作りを事業にして継続できないかという相談があったのです」


 名前を出され、ヒカルも照れ臭そうな表情に変わる。


「そこで私はヒカルを連れ、実際に現場を見に行きました。山下さんに毒消し薬作りを見せてもらい、この事業に取り組むことに決めました。つまり今回の事業はこの一ノ瀬君、ヒカル、そして山下さんがいなければできなかったという事を皆様に伝えたかったのです」


 紹介が終わると、会場から俺たちに向けて盛大な拍手が送られた。

 こうしてスポットライトが当たることに慣れていない俺は、どうしていいか分からずただ困惑してしまった。

 そんな俺たちの晴れの舞台だったが、場の空気を壊す人間がいた。

 そう。ジジイだ。


「くだらん!そんな子供の言うことなど関係がないではないか!お前が情報を知って、事業を始めた。それだけの事だろう。そうやって手柄を他人にやろうとするのがお前の悪い癖だ」


 頭が痛い。……イラつくからだ。

 公爵はこんな父親に育てられたということは、ずっと苦労してきたのだろうな。


「総裁、あなたに迷惑をかけているわけではないのですから、そうやって水を差すのは止めてもらえますか?」


「何を言っている?迷惑を被っているに決まっているだろう?そもそもそこでなぜヒカルに手柄を譲る?公爵家を継ぐのはカズマだぞ。カズマがやったことにすればいいだろう?」


「今回の件にカズマは関係がありません!」


 まずいぞ、ヒートアップしてきたぞ……。


「事実を言っているのではない。そう言う事にしろと言っているのだ!女に手柄を与えてどうすると言っているのだ!」


「いい加減にしろ!」


 遂に公爵がキレた。

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