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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第十二章 初期衝動-Initial Impulse-
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第206話 金の匂い

 ジジイこと九条院内総裁は、俺を見つけると恨めしそうな顔で声を掛けてきた。


「小僧!貴様のような庶民がこんなところまで何をしに来た?」


「いやいやいやいや、こっちのセリフだっつーの!俺は九条公爵に招待されて来てるんだよ」


 ジジイに口答えする俺に、周りの議員たちがざわつく。

 売り言葉に買い言葉になってしまったが、いきなりこんなふうに喧嘩を売られてしまっては丁寧な対応などできるはずがない。

 須佐さんは呆れ顔になり、山下さんは困惑していた。

 ヒカルに至っては、ジジイに委縮して怯えている。


「ヒカル!おまえもこんなクソガキと一緒にいるんじゃない!付き合う相手はきちんと選べ!」


「す、すいません……」


 恫喝され、反射的に謝罪するヒカル。

 これは良くないと思い、思わず俺は割って入る。


「ちょっと待てよ。あんたこそ、この説明会には来ないって言ってたんじゃないかよ!」


 俺がジジイに尋ねると、ジジイはフッとあざけわらうようにして説明を始めた。


「貴様のような庶民には分からんかもしれんが、この毒消し薬事業は九条財団にとって、強いてはこの日本国にとって重要な事業となるものだ。お前のような下々の人間には関係のない話だがな。ワシのような人間はしっかりと話を聞いておかなくてはいけない会議なのだ」


「それってもしかして、金になりそうだからやっぱり来たってことか?」


「貴様、さっきから、言葉遣いには気を付けろ!」


 俺たちが口喧嘩していると、騒ぎを聞きつけた九条公爵が部屋へとやって来た。


「総裁!来ないとおっしゃっていたではないですか!」


 公爵に気付いたジジイは、すぐにその問いに答えた。


「フン!感謝しろ。わざわざワシが出向いてやったのだからな。逆にワシが不在でこのような説明会が成立するわけがなかろう」


 すごい自信だ。っていうかジジイなんかいなくたって、普通に開催できるだろう。

 公爵も呆れて苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。


「それに我ら常盤会のことも招待したのは貴様の方だろう?ワシらの力も貸してほしいということではないのか?」


「別にそういうわけでは……、ともかく先ほどは一ノ瀬君を追い出すような言葉が聞こえたのですが、止めてもらえますか?何度も言いますが、一ノ瀬君こそがこの事業のキーマンなのです」


「フン!そう思ったらワシをこの小僧と同じ待合室に案内するな!おい、そこのホテルマン。ワシをこんな『小僧』と並ばせるな。今すぐ別の控室を用意しろ」


 ジジイがわざとらしく俺を一瞥してからそう命じると、ホテルマンは顔を引きつらせて慌てて案内を始めた。

 ジジイがこの部屋から出て行ったところで、公爵が俺に謝罪をした。


「すまなかったね一ノ瀬君。気を悪くしないでくれ。総裁が来るとは私も思わなかったんだ」


「こちらこそ騒ぎ立ててすいません。次に何か言われても我慢するよう努力します」


「ハハ……、子供の君の方に気を遣わせてしまってすまないね」


 そう言い残し、忙しい公爵はすぐに会場準備に戻って行った。

 残った俺は、さっきから怯えているヒカルを心配する。


「お嬢、大丈夫か?」


 俺に声を掛けられ、ヒカルは精一杯の声で答える。


「え、ええ。だいじょうぶよ」


 ヒカルは小さく震えていた。どうやらあのジジイが苦手らしい。ジジイをギャフンと言わせるためにヒカルのレベル上げをしたつもりだったが、ヒカルの気持ちの問題はまた別なようだ。


「まあ、俺たちと一緒にいればジジイとは離れていられるだろうから、無理するなよ」


「心配させてごめんなさい……」


 そんなヒカルの言葉に対し、俺はあまり余計な事を言わずに、ただニッコリと笑って返した。

 それにしても、先ほどの騒ぎで注目を集めてしまったようだ。

 周りからの視線や、何やらあの学生は誰だとか言ってる話声が耳に入る。

 あまり目立つようなことは自重すべきだった。

 俺は反省の気持ちで恥ずかしく思っていると、そんな周りの議員たちの中から一人の男性が近寄って来た。


「一ノ瀬君、久しぶりだね。先ほどはひやひやしたよ」


 そう言われて声の主を見ると、どこかで見たような中年男性だった。

 誰だったか思い出そうと、俺は記憶力をフル回転する。


「あ!億本伯爵!」


「閣下だ……」


「億本伯爵閣下!」


 横にいる須佐さんに忠告されすぐに訂正する俺。

 億本伯爵はそんな俺を見て少し笑った。


「ふふ。相変わらずだね。そんなに改まらなくても敬称を付けず呼んでくれればいいよ」


 敬称を付けずってことは、普通に名前で呼んでいいってことかな?


「億本さん、お久しぶりです」


「ああ。それにしても先ほどは私も肝が冷えたよ。総裁に口答えするなんて、私たちですらできないことだ」


「あ、さっきはお騒がせしました。すいません。思わずカッとなっちゃって……」


 俺は頭を搔きながら恥ずかしさを必死で隠す。

 すると億本伯爵は急に真剣な顔になって、俺に顔を近づけて言った。


「一ノ瀬君、これは真剣な話なんだが、本当にあの人には気を付けた方が良い。いくら君の事とはいえ、私達でも庇いきれなくないんだ」


「え?」


「君にはまだ分からないかもしれないが、あの人はこの国で最も権力のある人間の一人だ。どうしても気が合わないのなら、近寄らないようにしなさい」


「あ……ハイ……」


 億本伯爵は言いたいことを伝え終えると、再びニッコリと元の笑顔に戻る。


「それじゃ、また」


 そして伯爵は立ち去った。

 ジジイってやっぱ喧嘩しちゃまずい存在だったみたいだ。

 そうは言っても、もう喧嘩しちゃった後だし……。

 ……仕方ないよね?

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