第203話 アメリカからの転校生
土日の探索を終えた次の月曜日の朝、俺は絶賛筋肉痛だった。
体中の痛みに耐えながらよぼよぼと歩き、自席に着席する。
いつもの席に座ってホームルームが始まるのをまっていると、担任の城之内先生がやってきて、教壇へと立った。
「皆さん、今日から新しいクラスメイトが加わります。紹介しましょう」
そう言われて教室に入ってきたのは、ブロンドの髪が印象的な、見るからに外国人の女生徒だった。
「アメリカの探索者育成機関である、セントクロス・アカデミーからの留学生です。自己紹介をどうぞ」
「はじめまして。エミリー・グラントです。日本語はまだ勉強中ですが、よろしくお願いします」
たどたどしいが、はっきりとした日本語だった。
教室がざわめく。
「外国人だ」「可愛くない?」「アメリカの探索者アカデミーって、すごくない?」
日本語が分かるエミリーは、そんな声を理解し、照れ笑いを浮かべた。
クラスはこんな感じで概ね歓迎ムードだったが、俺はちょっと違和感を感じた。
何でこんな中途半端な時期にわざわざアメリカから? 普通、こういう交流なら年度初めか、せめて学期区切りじゃないのか。
疑問はあったが、俺はわざわざ口に出すようなこともしなかった。
先生が説明を始める。
「エミリーさんは、日本の友好国でありダンジョン探索において先進国であるアメリカから、日米の探索者育成の交流としてやってきました。あなたたちもアメリカのアカデミーに興味があったら交換留学に行けるチャンスがあるかもしれないわよ」
城之内先生のその言葉に、再びクラスが騒ぎ出す。
アメリカの探索者育成機関か……興味はあるけど別に日本でも探索できるし、俺はいいかな。
ホームルームが終わると同時に、エミリーは周囲をクラスメイトに取り囲まれていた。
英語で話しかける者、日本語でゆっくり話しかける者、スマホの翻訳アプリを差し出す者。
教室の半分くらいがエミリーの周りに集まっているような状態だ。
俺はそんな騒ぎを遠目に眺めながら、筋肉痛の原因を思い出していた。
昨日、第八階層に行った俺は、第八階層の魔物、ウッドゴーレムと戦った。ウッドゴーレムは、木人とも呼ばれている、丸太でできた人型のゴーレムだ。
ウッドゴーレムは一定のダメージを与えると関節を繋いでいる魔力が崩れて自壊するのだが、これがまた固かった。
木人の攻撃方法はパンチのみで、これは武器のリーチがあるためにまず食らうことはなかった。
しかし、倒すためには胴体である丸太部分をとにかく強く叩く必要があり、そして太い丸太は丈夫だった。
いくら鉄の剣とはいえ何度も何度も思い切り叩かなくてはならず、叩き疲れた俺の腕はだるくて棒のようだ。
なんとか木人10体を倒してレベルアップはしたものの、体力の限界を感じそこで俺は昨日の探索を打ち切った。
そして今朝目覚めると、俺は腕だけでなく全身が筋肉痛になっていた。多分全身の力を使って叩いていたためだろう。
あー、痛い。そしてだるい。
俺が椅子に座ってしんどそうにしていると、紫村が元気よく挨拶してきた。
「おはよう一ノ瀬君!」
「おう、おはよう」
俺が挨拶を返すと、紫村が目をキラキラさせながら俺の席へとやってきた。
「聞いてよ、一ノ瀬君。昨日マモルと赤石君がレベル4になったんだ。僕も来週くらいにはレベル4になれそうだよ」
「おー!すげえじゃん。ということは、お前も昨日新宿ダンジョンに行ったのか?」
学園のダンジョンでは、俺たち一年はまだ第一階層までしか探索を許されていない。だから紫村たちも自由に探索できる新宿ダンジョンに行ったのだと分かった。
「そうだよ。一ノ瀬君も行ってたの?」
「ああ。そのせいで筋肉痛なんだ今日」
俺は全身のけだるさをアピールする。
「そんなに激しく戦ったんだ?そんなにつらいならポーションでも使ったら?」
「ポーションって筋肉痛にも効くのか?」
「分かんないけど、痛いのは治るんじゃない?」
効かないのにポーションを使うのはもったいないので、念のためにメイリスに聞いてみることにした。
俺はスマートウォッチに話しかける。
「メイリス、ポーションは筋肉痛にも効果あるの?」
『はい。ポーションを使うことで筋肉痛の痛みを取ることができます。しかし注意点として、筋肉の疲労を治してしまうために、自己治癒による超回復をしないという点があります。筋力を上げたいのであれば使わないことを推奨します』
この痛みに我慢してパワーを付ければ、次回はもっと楽勝になるけど、ここでポーションを使うと次回もまた筋肉痛になるということだ。まあレベルアップしたから同じではないだろうが。
仕方なく俺はこの筋肉痛の痛みに耐えて一日過ごすことにした。




