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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第十二章 初期衝動-Initial Impulse-
201/212

第199話 VIP対応

 ポータルから地上への戻ると、JDMのスタッフが駈け寄ってきた。


「九条様! お疲れ様でございます! こちら、お使いください!」


 差し出されたのは、銀のトレイに乗せられた厚手の濡れタオル。

 ヒカルが埃と汗でベタついていた顔を拭うと、真っ白だったタオルがあっという間に薄汚れた。


「ごめんなさい、汚れてしまいましたわ」


「とんでもございません。それより九条様、どこかお怪我などはございませんか?もしよければ組合の治癒魔法士がすぐに対応いたしますが……」


「ありがとう。大丈夫よ」


 ヒカルはニッコリとそう答えた。

 それにしてもあからさまに対応がレベチ。

 俺が迷宮から出てきた時にスタッフが寄って来たことがあっただろうか?――もちろん無い。

 やっぱすげーわ公爵令嬢。


「無事のご帰還、心よりお祝い申し上げます!最上階のロイヤル・ラウンジをご用意いたしました。 専属のスタッフによるマッサージと、高品質のハーブティーを無料でお楽しみいただけます!また、最新の酸素カプセルや、最高級のアメニティのそろったパウダールームなどもご用意させていただいております」


「ありがとう。でも今日は、一般探索者用の更衣室でだけで充分よ」


 待って。今スタッフが言った設備は?VIPルーム的なのが有って特別なサービスがあるの?


「そうですか。ご要望であればいつでもお申し付けください。本日は第四階層まで行かれたのですね」


「え?」


「ダンジョンに入る時は普通に入り口から入って行ったのに、ポータルからご帰還されましたので」


 なるほど。だから第四階層まで行ったポータルで帰って来たと思ったのか。

 しかし俺たちが戻って来たのは第四階層からではない。


「今日は第七階層まで行ったのよ」


「え?九条様はお出かけになる時はレベル3だったとお聞きしましたが……」


「ええ、そうよ。そしてレベル5まで上がったの」


「えっ?一日で二つもレベルアップを?えっ?レベル5なのに第七階層まで?それは少し無理をし過ぎでは?」


 どうやら一日で二つレベルアップすることは異常なことらしい。

 俺も一日で二つレベル上げたことがあるが、別に普通だと思ったのだが。

 それとやはりレベルより深い階層の探索も非常識な事のようだ。

 しかし実際には全く無理をしてはいない。


「あの、差し出がましいことを言いますが、護衛の方は九条様を危険な目に会わせすぎなのでは?」


「え?俺?」


「ええ。見たところお若いようですし、九条様に良いところを見せたいのは分かりますが、少しレベリングの内容が危険なのではないでしょうか?」


 これはもしかして、俺叱られている?


「いや、あの、全然余裕でしたよ?」


「あなたはそうかもしれませんが、九条様はそうではありません。今日はたまたま大したことがなくて済んだかもしれませんが、無理なレベリングは大けがの元なんですよ」


 怒られる俺をヒカルがかばってくれた。


「彼の言う事は本当よ。今日危険な場面は一つもなかったわ」


 その通りだ。ヒカルがずっと無双していただけだ。


「あー、レコーダー見ます?」


 俺は念のためにダンジョンレコーダーの映像を提出することにした。

 後で何言われるか分からないからな。

 それにしても、ヒカルと探索に行くと何だか色々面倒なことが多いようだ。貴族も大変だ。

 その後レコーダーの映像を提出し、確認が終わったスタッフから謝罪された。


 俺たちは電車の中で今日の簡単な反省会をしながら帰る。


「お嬢の魔法は強力だけど、一日に何回使えるか確認して、調整しながら使わないといけないな」


「そうね。今後は気を付けるわ」


「あとヒカル様、魔力伝導は強力ですが、やはりヒカル様が前衛に出られるのは私は少し心配です。できれば後衛で魔法を使っていただく方が安心なのですが……」


「なるほど。それじゃ私が前線に出るのはケースバイケースにして、基本的には控えるわ」


 電車に揺られながら、思い思いに今日感じたことを話し合う俺たち。

 窓の外の空は夕陽で赤く染まって来た。


「それにしても、お嬢。今日一日でレベル5になって、それなりに自信になったんじゃないか?」


 俺の言葉にヒカルは微笑みながら答える。


「ええ。あなたのおかげよ。ありがとう」


 いや、今回に関しては本当に俺は何もしていない。二人がすごいのだ。

 はっきり言って、俺は自分の攻撃力が高いから自分のレベル+1階層という探索をしていると思っていたが、ヒカルならレベル+2階層の探索ができ、俺よりさらに効率の良いレベルアップができるだろう。メイもそれに付いて行けるだけの実力を持っている。

 東京ダンジョン学園は日本中の優秀な探索者候補が集まる学園だ。ヒカルは、そんな日本屈指の学園の中でも最強格の一人。そりゃあすごいはずだよなと、俺は自分で納得する。


「これで、次に爺さんに会った時には堂々とできそうか?」


 俺は今回のレベリングの本来の目的が達成できたかを尋ねた。

 ヒカルは一度目をつむると、再びその長いまつげの瞳を見開き、そして俺を見ながら答えた。


「ええ。私も兄に負けないくらい立派な探索者を目指してるの。もうおじい様に対して怯えないわ」


 レベルだけでなく、心も少し強くなったヒカルを見て、俺は今回の探索が大成功だったと満足感を感じたのだった。

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