第198話 魔力が切れたヒカル
俺たちが第六階層に足を踏み入れると、ヒカルがふと呟いた。
「一ノ瀬さん。さっきは魔法を全力で放ってしまったから、少し魔力が減った気がするわ」
「お、MP切れか?」
「完全に切れたというわけではないのだけれど、何というか少し脱力感があるというか、もうあまりたくさん魔法を使えない気がするの。たぶんさっきと同じ威力の火鳥乱舞は打てないと思うわ」
「なるほど。まあ一日で一気に進み過ぎたな。それじゃとりあえずコボルドを何体か倒してレベル5になったら戻ろうか」
そんな話をしていると、メイが一体のコボルドがこちらに向かって接近してくるのを発見する。
「一匹来ました」
「どうする、メイちゃんが戦うか?」
するとそこにヒカルが手を挙げた。
「私にやらせてもらえないかしら?」
「でもさっき魔力が減ったって……」
「ここまでずっと火の鳥を使ってきたけど、私の魔力伝導がどこまで通用するか試してみたいの」
魔力伝導。剣に魔力を纏わせて攻撃力を上げる技術だと言う。たしかにヒカルの技を見てみたい。
「それに魔力伝導なら、消費魔力も少なそうだから……」
「分かった。それじゃお嬢が攻撃を一撃でも喰らったら、すぐに助けに入るけどいいか?」
「ええ。それでいいわ」
剣で接近戦をするというヒカルをメイが心配そうに見つめていたが、試してみたいと言うのだから一回くらい良いだろう。
どうせ相手はコボルドだ。こん棒で殴られてもひどくても骨折程度で済むはずだ。ポーションだってあるし、ヒカルの治癒魔法もある。
だからヒカルの剣術がどこまで通用するかを見届けることにした。
こん棒を片手に俺たちの先頭に立つヒカルに向かって歩いてくるコボルド。
ヒカルも木剣を構える。
コボルドはこん棒を振り上げ、走りながらヒカルへと襲い掛かった。
振り下ろされるこん棒を体を捻って交わすヒカル。そしてすれ違いざまコボルドの胴体へ向けて木剣を振りぬく。インパクトの瞬間、ヒカルの木剣が赤く光り輝いたかと思うと、なんとコボルドの上半身が胴体から離れて地面へとドサリと落ちる。
血が噴き出す間もなく、コボルドは消滅した。
「えっ?両断?」
俺は目を疑った。
両断と言えばイオリが得意だが、イオリは研ぎ澄まされた真剣を使っている。
ヒカルは鋭い刃がついていない木剣。そう、木でできた剣だ。木剣でコボルドの胴体を両断してみせたのだ。
俺は開いた口がふさがらなかった。
「ふう。私の剣術も捨てたものでは無さそうですわ…… 」
「お見事ですヒカル様!」
拍手しながら健闘を讃えるメイ。
いや、捨てたもんじゃないどころの話ではないぞ。
そう言えばヒカルもなんだかんだ第二剣術部で真面目に練習をしていた。他にもいろんな部活の見学に行っていたから紫村のように毎日通っていたわけではなさそうだが、それでもイオリから教わった基礎がしっかりと身についているようだ。
「俺は最初お嬢の事を魔法使いタイプだと思っていたんだ。だけど治癒魔法も手に入れてしまって賢者タイプなのか?と考えるようになったんだが……」
俺の言葉に不思議そうな顔を浮かべるヒカルとメイ。
「さらに剣まで使えるって、何なの?チートなの?」
俺は戦士タイプだ。魔法が苦手だが武器を使った戦闘が得意だ。
紫村は攻撃魔法と剣が得意なので、俺は勇者タイプと分類している。
ユノは治癒魔法使い、マイカは攻撃魔法使い、イオリは侍(戦士タイプ亜流)、メイは斥候タイプというように、俺はそれぞれの特性をゲームキャラに見立てている。
だがヒカルは俺の知るゲームキャラに当てはまらない。こんな強いキャラがいたらバランスが壊れてしまうからだ。
混乱する俺にメイが一言呟いた。
「ふふふ、ヒカル様は、最強タイプなのだ」
「なんなのそれ?最強っていう職業あるの?」
「フフッ。それじゃメイ、今度はあなたの番よ」
「はい!」
俺のリアクションは無視されて二人は先に進んでしまう。
次に現れたコボルドは、メイの隠密による接近で背後から首すじを切られて絶命した。
メイのスキルは、一対一ならめっぽう強い。
「あ。今レベルが上がった感じがしたわ」
「私もです」
そしてヒカルの解析で、二人がレベル5になったことを確認する。
「これで今日の目標は達成したな。それじゃどうする?ここから引き返して第四階層のポータルで戻るか、それとも……」
俺はもう一つの選択肢も伝える。
「第六階層主を倒して、第七階層のポータルで地上に戻るか?」
「そっちにしましょう」
・・・・・・・・
第六階層主はコボルドキャプテン。
通常のコボルドよりも体が一回り大きく、そして武器も鉄の剣を使っているため非常に危険だ。
「一ノ瀬さん、弱点は何ですの?」
「いや、特に弱点は……。俺は力ずくでなんとか倒したんだが」
「ではメイ、最初に私の魔法で攻撃した後、二人で戦いましょう」
「分かりました!」
二人は剣を構える。部屋の中央に革鎧を着て鉄の剣を持ったコボルドキャプテンが出現する。
ヒカルが火の鳥を放つ。
コボルドキャプテンは剣で迎撃しようとするが、火の鳥は剣を避けてコボルドキャプテンにさく裂する。
衝撃で転倒するコボルドキャプテン。肩口の体毛が燃え火傷しているが、まだ戦えそうだ。
そして立ち上がると同時に背後からメイの一撃が決まる。
背中を切られ悲鳴を上げながら出血するコボルドキャプテン。
振り返ってメイの姿を認識した瞬間、今度はヒカルの剣が襲い掛かる。
攻撃を受け悲鳴を上げるコボルドキャプテン。
二人による交互の攻撃に、反撃できずにいた。
そして何回かの攻撃を受けた後、コボルドキャプテンは消滅した。
「強敵でしたわ」
「ええ。でも何とか倒せましたね」
額の汗を拭うヒカルと、そんなヒカルににっこりとほほ笑みかけながら刀を鞘にしまうメイ。
……一度も攻撃を受けていませんね。ノーダメですね。
「一ノ瀬さん、ありがとう。これで今日の目標は達成ですわね」
「え……ええ。そうですね……」
凄すぎて思わず敬語になってしまう。
よく考えれば、俺もこいつを倒して第七階層に行ったところが今の記録だ。つまり一日で追いつかれてしまったことになる。
これは俺ももっと頑張らないといけない……。
第七階層に降りた俺たちは、すぐにポータルを見つけると地上へと戻るのだった。




