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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第十二章 初期衝動-Initial Impulse-
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第196話 メイの実力

「わぁ……」


 目の前に広がる森林地帯に、メイが驚きながら周囲を見回していた。


「初めて来たときは私も驚いたわ。これまでずっと洞窟が続いていたのに、突然森の中にいるんだもの……」


 俺と一緒に奥多摩ダンジョンの第四階層を訪れたことのあるヒカルは、そんなメイに自分が初めて来たときのことを話している。


 そう。俺たちは第四階層へとやって来たのだ。

 第一階層を抜けた俺たちは第二階層主の部屋へとまっすぐ向かったのだが、階層主のジャイアントリザードはヒカルの火魔法で一撃。

 第三階層でゴブリンと戦っても余裕すぎたので、すぐに階層主ホブゴブリンに挑戦。そこでヒカルは再び一撃で倒してしまった。

 早い。あまりにも早い進行速度だ。

 なんなら階層主の部屋の前で順番待ちをしていた時間の方が長い。

 それだけヒカルの火魔法は強すぎるのだ。


 二人はまだレベル3だが、そんな感じだから第四階層も余裕だろう。

 だが当の本人たちは、まだ不安があるようだ。


「一ノ瀬、本当に大丈夫なんだろうな?ヒカル様を危険な目に合わせたらただじゃすまんぞ」


「まだ言ってんの?第三階層であんな余裕だったんだからいけるって!」


 メイが何度も俺に念を押してくる。だんだん俺も返答するのが面倒になってきた。


「メイ、まずは戦ってみて、危険だったら戻るというのはどうかしら?」


 ヒカルも慎重なようだ。


「しかしヒカル様。この階層の魔物は毒を持っているものもいると聞きます。ヒカル様をそんな危険にさらすわけには……」


「でも以前一ノ瀬さんに連れてきてもらった時は、全て一ノ瀬さんが対処してくれて問題なかったわよ」


「一ノ瀬!今回もお前が全部戦ってくれるんだろうな?」


 なんでそんなにヒカルと話す時と俺と話す時のしゃべり方が変わるんだろう。

 そんなに怒って疲れないのか不思議だ。


「俺が戦ったら意味ないだろ?とりあえず自分たちで戦ってみなって。大丈夫だよ、ヒカルの魔法なら毒を受ける前に離れた場所で倒せるから。それに毒消しも持って来てるし」


「貴様ぁ!もっと心配したらどうだ!」


「それにここに来るまでに説明したけど、俺のやり方は自分のレベルより一つ下の階層で戦うやり方なんだ。攻撃力さえ問題なければその方がレベルアップが断然速い」


「おまえはそうやって効率ばかり言うが、安全性は大丈夫なのかと言っているんだ!」


「分かった。それじゃまずはメイちゃんが戦って様子を見ようぜ。ほら、あそこにお出ましだぞ」


 俺が指を刺した先には、木陰にもぞもぞと動くキャタピラーの姿があった。

 巨大なイモムシの姿を見たメイは、一瞬たじろぐ。だがすぐに気持ちを切り替え、俺を一睨みした後、キャタピラーに向かって歩き出した。

 メイは左手を腰に吊るした剣の鞘に触れ、右手をその剣の柄に添えたまま、足音を立てないように走り出す。

 おそらくスキル「隠密」を起動しているのだろう。キャタピラーはメイの接近に気付いていない。

 メイは静かにキャタピラーの側面に立つと、鞘から剣を抜いた。キラリと刃が光る。

 どうやらメイちゃんも真剣を使うようだ。

 両手で柄を掴むと、キャタピラーの頭の上に突き刺した。

 おそらく急所だったのだろう。キャタピラーは一撃でジェムへと姿を変えた。


「すげーじゃん!」


 一撃で倒せる刀の攻撃力もすごければ、敵を警戒させずあそこまで近づける隠密スキルもすごい。

 メイは緊張していたのか、深呼吸をしながら呼吸を落ち着かせていた。


「さすがだわメイ!」


 ヒカルからも賛辞の言葉が飛ぶ。


「ありがとうございます、ヒカル様」


 メイは刀を鞘に戻すと、キャタピラーのマジックジェムを回収した。

 その時、俺はメイの刀の形がイオリのものとは違うことに気が付いた。


「ん?メイちゃんの刀ってまっすぐなんだな?」


 イオリの太刀は長く、そして湾曲していた。しかしメイの刀は短く、そして反りがないまっすぐな形をしていたからだ。


「刀にもいろいろな形があるのだ。私は取り回しのしやすいこの刀を使っている」


 メイはそう短く説明をしてくれた。

 確かにそうだ。俺が使う鉄剣も、西洋の鉄剣というよりも平たい鉄の棒。武器は種類が多すぎて、一つ一つの名前が覚えきれないのだ。

 ともかくメイもレベル3なのに第四階層で戦えることが証明された。


「次は私の番ね」


 そう言って次の魔物を探すヒカル。

 メイも納得してくれたのか、黙って後に続く。

 そうして次に見つけた魔物は、ジャイアントスパイダーだった。

 八本の足を器用に動かし、じわじわとこちらに歩いてくる。


「気を付けろ、ジャイアントスパイダーは……」


 俺の説明が始まる前に、ヒカルの火の鳥がジャイアントスパイダーを一撃で倒していた。


「あら、ごめんなさい、お話の途中で」


「いや……いいんだ……」


 それにしても強すぎる。

 俺がレベル3の時はもっと苦戦してようやく倒していたというのに、二人ともレベル3で第四階層も余裕のようだ。


「ほらねメイ。一ノ瀬さんの言う通り、私たちの今の力でも第四階層は問題ないようだわ」


「確かにそのようですね……」


 ようやくメイに納得してもらえたところで、ヒカルが振り向いて俺に言う。


「一ノ瀬さん。この調子でこの階層で一人10匹ずつ倒せば、私たちはレベル4に上がるのですわね」


「いや……そうなんだけど……」


 返事を考える俺に二人は不思議そうな顔をする。

 俺のレベル+1階層攻略法でいけばそういうことだ。だけど……


「ここまで余裕なら、すぐに階層主に挑戦しても倒せそうだ……」


・・・・・・・・


 第四階層主ヴェノムヘアリーキャタピラー。毒を持った巨大な毛虫だ。

 櫛名田先生の話のよると、遠距離攻撃、または槍などのリーチの長い武器で戦うべきモンスターだ。

 俺は何も考えず木刀で挑戦したところ、毒攻撃を受けて撤退したことのある強敵だ。

 ヒカルの火魔法は遠距離攻撃で、相性がいい。

 イオリもレベル3で倒していたし、ヒカルも余裕だろう。

 そう考えた俺は、まだレベル3のヒカルとメイを連れて第四階層主の部屋に来た。

 部屋の中央に出現した巨大な毛虫を前に、メイが口を開いた。


「ヒカル様、最初の攻撃は私にやらせてもらえないでしょうか?」


「もちろんよ」


 ヒカルの火魔法なら余裕だと思ったんだが、メイはどう戦うつもりなのだろうか?

 メイの刀は俺の剣よりも短い。あれだと毒にやられる可能性がある。もしかしてイオリと同じように毛を刈るつもりか?

 まあ何かあったら俺がすぐにフォローに入る準備をしてメイの動向を観察するか。


「一ノ瀬、あいつの弱点はどこだ?」


「え?ちょっと待って」


 俺はすぐにメイリスに尋ねると、頭部の少し後ろ辺りに弱点があるらしい。上部のため弓矢だと狙いにくい場所のようだ。それをメイに伝えると、メイはヴェノムヘアリーキャタピラーに向かって歩き出した。

 メイは今度は刀の柄に手を掛けず、右手を懐に入れる。

 懐からそっと棒状の武器を取り出すと、それをヴェノムヘアリーキャタピラーに向かって投げた。

 投擲された武器が脳天へと突き刺さり、痛みで激しく悶えるヴェノムヘアリーキャタピラー。

 メイはもう一本それを取り出すと、暴れて動いている標的に慎重に狙いを定め、もう一度投擲した。

 再び弱点である脳天にそれが突き刺さると、ヴェノムヘアリーキャタピラーは全身を硬直させ、そしてしばらくすると消滅した。


「え?すごい……」


 俺は驚きを隠せなかった。

 メイも強い。これほどまでに強いとは思わなかった。

 ヒカルは拍手をしてメイの奮闘を讃える。

 メイは先ほど投げた武器とマジックジェムを拾うと、俺たちのところへ戻って来てヒカルの出番を奪ってしまったことを謝罪する。


「申し訳ありません。ヒカル様が戦う場面を奪ってしまって」


「気にしないで。素晴らしい戦いだったわ」


「メイちゃん、その武器は何なの?」


「これか?」


 メイは先ほど投げた武器を俺に見せる。

 それは先が尖った鉄の棒だった。


「これは棒手裏剣だ。以前ヒュージスライムを倒せずに貴様に助けてもらったことがあっただろう?だから私は自分でヒュージスライムを倒せるように、貫通力の高いこの武器を使う修行をしたのだ」


「そうなんだ……。それにしてもメイちゃんも強いんだな……」


 俺がそう言うと、ヒカルが得意満面に答えた。


「そうよ。メイは強いのよ!私の護衛なんだから」


 公爵令嬢の護衛として選ばれるほどの人材ということらしい。

 しかし、イオリ、ヒカル、メイと、学園にはすごいやつらがそろっている。

 俺も剣での攻撃力にはそれなりに自信があったが、スキルを持っているやつらと比べるとどうしても劣ると実感した。


「さあ、第五階層に行くわよ」


 メイがヴェノムヘアリーキャタピラーを倒して出現した階段に向かって歩き出したヒカルが、意気揚々とそう告げた。

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