第191話 議員会館
須佐さんの後に付いて階段を上っていき、地下鉄国会議事堂前駅から出る。そこは駅前とは思えないくらい人気が少なく、背の高い街路樹が続く広い道路が続いていた。
「なんかすごく独特な雰囲気ですね」
俺が話しかけると須佐さんは振り返って言った。
「そうだな。来るのは初めてか?」
「あっ、国会議事堂なら小学校の時の修学旅行で来たことがありますよ」
「そうか、でも今日はそっちじゃないんだけどな」
街路樹が並ぶ道路の向かい側を見ると、国会議事堂が見える。
あまり覚えていないのだが、修学旅行の時にはバスで来て、ここらへんから入ったような気がする。
どこだったかなあと、見える景色と記憶をすり合わせていると、須佐さんから呼ばれた。
「置いて行くぞ」
「あっ、待って!」
須佐さんの後を付いて行くと、そこには金属フェンスで囲まれた大きな建物があった。その建物こそが今日の目的地、貴族院議員会館だ。敷地に入っていこうとすると、警察のような恰好の警備員に声を掛けられた。
「ご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか」
須佐さんが行先を告げ、俺たちは身分証を提示する。
やはり須佐さんに一緒に来てもらって良かった。こういう時の対応がスマートだ。
ロビーに入り受付で改めて行先と名前を告げ、身分証(須佐さんは自動車運転免許証、俺は学生証)を提示して本人確認をしてもらうと、入館証をもらった。
透明なケースに入れられたそれを、俺たちは首から下げた。
「なるほど、こういう仕組みなんですね」
俺は終始緊張しっぱなしだ。
金属探知機のあるゲートを抜け、俺たちはエレベーターに乗って目的の階へと向かった。
俺たちは、ここ貴族院議員会館へ、ポーションランクアップの情報の保護について九条公爵に相談するために来ていた。
いろいろな事情について俺一人では上手く説明するのが難しいと思い、須佐さんに一緒に来てもらうことにしたのだ。これから公爵へ説明することだけでなく、この議員会館に入る手続きとかも大人の須佐さんが率先してやってくれるので、一緒に来て本当に良かったと安堵している。俺一人では来れなかったかもしれない。
足音を消してしまうカーペットの上を歩き、静寂に包まれた廊下を進んで公爵の部屋に辿り着くと、そこにいた公爵の秘書が対応してくれて、俺たちは応接室へと案内された。
応接室のソファに座って一息つくと、俺は須佐さんに話しかける。
「いやー、緊張しますね。須佐さんに一緒に来てもらって良かったですよ!」
「おまえ本当に緊張してるのか?この厳粛な雰囲気の中、いつも通りじゃないか……」
「ええ?」
すると、俺たちはほとんど待たされることなく、すぐに九条公爵がやってきた。
「わざわざ呼びつけてしまってすまなかったね!」
公爵は部屋に入るなり、開口一番そう告げた。
公爵の入室と同時に須佐さんが立ち上がるので、俺もつられて一緒に立ち上がり、公爵に返事をする。
「とんでもないです。お忙しいのに無理に時間を取ってもらってすいません!」
「ふふ、そう畏まらないでくれ。それでそちらが?」
「あ、こちらが自衛隊の須佐さんです」
俺が公爵に須佐さんを紹介すると、須佐さんは自衛隊式の敬礼をして挨拶をする。
「陸上自衛隊 特殊探索部隊所属、須佐タツノリ一等陸尉です。はじめまして」
「九条ケイイチだ、よろしく。まあ座って話そうじゃないか」
公爵は笑顔で挨拶をする。
俺たちは再びソファに座ると、公爵と会話を始めるのだった。
「まずは一ノ瀬君、娘の件では本当にお世話になったね。ありがとう」
「とんでもないです!」
娘の件というのはあれだ。ヒカルが火魔法スキルを手に入れた話だ。
一介の高校生である俺に対し、この国のトップである公爵が深々と頭を下げるので、俺はとんでもなく困惑してしまう。
「それと須佐さん。あなたがスキルオーブの情報を教えてくれたそうだね。本来であれば自衛隊が喉から手が出るほど欲しがるスキルオーブを、娘に譲ってくれてどうもありがとう」
須佐さんにも頭を下げる公爵。権力を笠に着ない人だ。
「頭をお上げください閣下。私はたまたま調査中に未踏破区域を発見しただけであって、基本的に学園ダンジョンのアイテムは生徒のものだと私は考えます。私が勝手に入手していいものではないのですから、当然のことをしただけです」
「ふむ。一ノ瀬君から聞いていた通り、律儀な人のようだね」
そう言われて少し驚いた顔をした須佐さんは、俺の方を見る。
別に悪口を言ったわけじゃないんだからいいじゃないか。
「それで、今日伺った用件なんですが、俺からじゃ上手く説明できないと思って須佐さんにもついてきてもらいました。実は前に公爵に売却してもらったランク3ポーションのことについてなんです」
「ああ。やっと話してくれる気になったんだね。君が話したいと思うまで詮索はしないようにしてたんだ」
やっぱり公爵も気にはなっていたようだ。でも気を利かせて聞かないでいてくれたと。
「学園ダンジョンにランク3をドロップするモンスターがいるんだね?」
「いやそれが……」
俺は助け舟を求めて須佐さんの方に振り向く。
「いいえ。結論から言うと、私が調査した結果、学園ダンジョンにランク3をドロップするモンスターはいませんでした。実は一ノ瀬君はポーションをランクアップする方法を発見していたのです」
「え?!」
須佐さんの言葉に公爵も驚きの声を上げる。
やっぱり公爵も驚くよな。
「それは本当なのかい?それはどうやって……」
「そのまえに閣下。この部屋は誰かに話を聞かれていたり、盗聴されていたりする可能性はないですか?」
「もちろんだ。この部屋は安全だよ」
公爵が第三者に話を聞かれることはないことを保証すると、須佐さんは安心して話し始めた。
「それなら安心しました。閣下もご存じの通り、高ランクのポーションは国防上とても重要なものです。ですが需要に供給が追いついておらず、価格の高騰が続いています」
「そうだね。そしてそのせいで投資目的でポーションを買い集める人が増え、さらに品不足が続いている」
「おっしゃる通りです。ですが一ノ瀬君が発見した方法であれば、そんな状況を一変できる可能性があります。しかしこの情報の取り扱いには注意が必要で、一般に公開してしまえばいきなりポーションの価格を暴落させることになってしまいますし、一ノ瀬君が将来手に入れることができるはずの利益を失ってしまいます。逆に公爵が独占して高ランクポーションを製造し続けることができれば、莫大な利益を手にすることも可能です」
この辺の話が複雑で、俺にはなかなか上手く説明できそうになかったため、今回須佐さんに一緒に来てもらい公爵に説明をしてもらったのだ。
お陰で、公爵もすぐにポーションランクアップが起こす影響を理解してもらえたようで、納得した表情を浮かべていた。
「きみが言いたいことは分かったが、なぜそれを私に?君がその情報を自衛隊に持ち帰った方が、君たちが得をするだろう?」
「それは、これ以上自衛隊に力を持たせてはいけないと、私が個人的に判断したからです」
「……なるほど。よく分かった。君はその情報を公益のために使えと言うんだね」
「ありがとうございます。ですが、できればこの方法を発見した一ノ瀬君に対して正当な報酬と、それともしよければ自衛隊へ定期的にランク3以上のポーションを一定量販売していただけたらと思っています」
「そうすると、私も莫大な利益を享受させてもらうことになってしまうが、それは問題ないのかい?」
「はい。我々は多くは望みません。その代わり、この情報を一ノ瀬君が持っていることが世間にばれた時に、一ノ瀬君を保護していたきたいと思っています」
「それはもちろんだ。一ノ瀬君はもう、九条家所縁の探索者といっても過言ではないからね」
それはカズマさんからも言われた。
まあ公爵の後ろ盾はあって困るもんでもないし、こちらからもよろしくお願いしたい。
「それでは、そのポーションランクアップの方法というのを教えてもらえるかい?」
「あっ、はい。それは……」
俺が話始めようとした時、廊下からバタバタと騒がしい音と、怒鳴り声が聞こえて来る。俺たちは、思わずそちらへと振り返る。
次の瞬間、応接室のドアがバタンと激しく開かれた。
「こんなところで油を売っていたのかケイイチ!」
怒鳴り声を上げて入ってきたのは、スーツ姿の老人だった。
「総裁!私は今、接客中です。勝手に入ってこないでください!」




