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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第九章 遅咲きの雷 -Late Blooming Thunder-
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第133話 招かれざる客と、不屈の男

 放課後の喧騒が廊下に響く中、俺――一ノ瀬シロウは、いつもなら足早に向かうはずの迷宮入り口とは逆の方向へ歩いていた。


「……はぁ、まさか自分のホームグラウンドに行きにくくなるとはな」


 独り言が漏れる。

 理由は明白だ。自衛隊の特殊探索部隊、須佐タツノリが学園に正式な調査として入り込んでいるからだ。奴は今、迷宮の中で「高ランクポーション」の出所を洗っている。

 迂闊に迷宮に入ればこっそり尾行されて、あの猛獣に監視されている恐怖感を味わうことになるのが目に見えている。

 あの恐怖感をまた味わうのはごめんだ。スライムを倒してランク3ポーションを集めるのは当分中止することになるだろう。

 今は雌伏の時期だと自分に言い聞かせ、俺はカンカンと木刀の音が響く校庭へと足を踏み入れた。


「あ、一ノ瀬君! 珍しいね、放課後に顔を出すなんて」


 俺の顔を見つけた紫村が、ぱっと表情を明るくして声を掛けてきた。

 止めてくれ、そういう友達みたいな反応は。

 そこは校庭の隅にある、第二剣術部の練習スペースだ。

 紫村の少し後ろでは、他の部員たちが真剣な表情で木刀を振るっていた。

 俺は紫村に返事をする。


「あー、須佐さんって人が迷宮を調査してるからな。怖くて迷宮に近寄れないから、こっちに顔出してみたんだ」


「確かに須佐さんってすごく強そうだけど、別に取って食われるようなことはないでしょ」


 それが取って食われるんだな……。

 須佐が俺のポーションランクアップを調査していることを知らない紫村は、平然としていた。


「ところで今日はコジロウさんは来てないのか?」


「コジロウさんは今日はいないよ。月一くらい来てくれるって言ってたけど、いつ来るか分からないよ」


「そっか……」


 コジロウさんの剣術は、上手く言えないが魅力的だ。コジロウさんが言う地味な修行はごめんだが、また手合わせをしてくれるようならお願いしたい。レベル6になった今なら、前よりは多少は手ごたえを感じてもらえるだろうか?

 そんなことを想像していると、なんだか耳障りな声が聞こえてきた。


「おーおー、相変わらず地味な連中が、地味な場所で、地味な踊りをしてるねぇ」


 ねちっこい、耳障りな声が校庭に響いた。

 見れば、制服を崩して着ている二人の男子生徒が、馬鹿にしたような笑みを浮かべてこちらに歩いてくる。


「誰だあいつら?」


 俺の問いに紫村が答える。


「B組の沼部君と毒島君だよ」


 沼部と毒島……初めて聞く名前だが……どっかで見たような気もする。


「おいおい、まだ”レベル1”の紫村じゃねえか!」


 背が低く目の吊り上がった男が、敢えて紫村のレベル1を強調してバカにする。そしてニヤニヤしながら紫村の前に立ちふさがった。

 俺の前では温厚な紫村が、きつい目つきに変わる。


「俺たちはとっくにレベル2に上がったっていうのになあ。学年首席さんはまだレベル1なんだってよ沼部」


「ブフフ……」


 わざと大きな声で、辺りにいるみんなに聞こえるように説明する毒島。

 今笑ったガタイの良い方が沼部というらしいから、説明している背が低い男が毒島だ。

 やつらの嫌がらせに紫村が答える。


「……今、練習中だ。邪魔をしないでくれ」


「邪魔? 違うぜ。俺たちは『アドバイス』に来てやってんだ。レベル1の無能が校庭を占領してると、目障りなんだよ。お前たちの存在が学園のレベルを下げるんだ。さっさとそこをどけよ、この『最優秀(笑)』さんよぉ」


 毒島が追い打ちをかけるように笑う。

 イオリが不機嫌そうに眉を寄せ、一歩前に出ようとした。だが、それよりも早く、一人の男が彼らの間に割って入った。


「――そこまでにしておけ。見苦しいぞ」


 低く、重みのある声。

 そこに立っていたのは、ぼさぼさの髪に、無精ひげを携えたどこか古風な佇まいを感じさせる二年生の男子生徒だった。


「あ? なんだお前……って、八戸先輩」


 毒島が苦々しい顔をする。

 八戸……どこかで聞いた名前のような?

 あ!思い出した。八戸ヘイジ。第一剣術部の二年生だ。イオリに負けて部長の磐座に怒られてたやつだ。

 八戸に注意された沼部が素直に謝罪する。


「す、すいません」


「バカ、沼部、こんなやつに謝る必要なんてねえよ!八戸先輩、第一剣術部を辞めたアンタが、なんの用っすか!」


 毒島の言葉に俺は驚く。八戸って第一剣術部辞めたんだ?

 だが八戸は、毒島の言葉に眉ひとつ動かさない。ただ静かに、だが圧倒的な威圧感を放ちながら言い放った。


「見苦しいと言っているんだ。お前たちのそういう態度が第一剣術部の品位を下げているのだぞ」


「あんたに関係ないっしょ?」


 ちびのくせに八戸に注意されても一向に引かない毒島と、先輩から注意されておどおどするガタイのいい沼部。なんだかちぐはぐなコンビだ。


「関係なくはない。部活の元後輩が間違ったことをしていたら注意するのは、当たり前のことだ」


 八戸はそう言うと腰に差した木刀の柄に手をかける。

 その一瞬の殺気に、沼部と毒島は目に見えて怯んだ。


「けっ、……行こうぜ沼部。落ちこぼれ同士、仲良く傷を舐め合ってりゃいいんだ」


 毒島が捨て台詞を残し、二人は逃げるように去っていった。

 静まり返った練習場。八戸は深いため息をつくと、俺たちに背を向けて去ろうとした。

 俺は咄嗟に声をかける。


「あんた八戸先輩、だよね? 第一剣術部を辞めたって、本当なのか?」


 八戸は足を止め、振り返った。その瞳には、挫折を知った男特有の深い影と、それでも消えない情熱が同居していた。


「ああ。そこの瀧川に敗れて、磐座さんから退部を言い渡されてな。俺も自分の未熟を恥じる次第だ」


「そんな理由で?だとしたらほぼ全員退部じゃねえの?磐座以外にイオリに勝てそうなやつなんて言ねえだろあそこ?廃部した方がいいんじゃねえの?」


 俺の言葉に、八戸が怪訝そうな顔をする。


「おまえ……」


「そもそも部長の指導がへたくそなせいで、ハッチ―が弱いだけだろ?それって部長の責任だろ。責任取って辞めなきゃいけないのは磐座の方じゃね?」


「ハッチーって……俺の事か?」


「ハッチーもそう思うだろ?」


「いや、俺は……」


 俺の言葉に戸惑う八戸に、イオリが声を掛ける。


「私のせいで迷惑をかけたな」


「瀧川……、いや、お前は関係ない。お前の実力が分からなかった俺が悪いのだ。これからは部活ではなく、個人的に修行するだけだ」


「だったら、ここはどうです?」


 すると紫村が、さわやかな笑顔で八戸に勧誘をかけた。


「ここは『地味』で『落ちこぼれ』の集まりかもしれません。でも、誰の目も気にせず、ただ強くなりたい生徒が集まってます。八戸先輩……あなたのような『不屈の男』、うちの部長が放っておかないと思いますよ?ね、高山さん」


 突然そう言われた第二剣術部部長の高山は慌てて答える。


「えっ?僕たちは別に強くなりたいわけじゃ……。八戸君が入部したいって言うならそれは構わないけど……」


 熱血なのは紫村だけだ。無理やり厳しい練習に付き合わされている部長は戸惑うだけだ。だが八戸の入部は特に問題ないらしい。

 イオリを見れば、彼女もまた興味深そうに八戸を見つめていた。

 八戸はしばらく沈黙していたが、やがて自嘲気味に鼻で笑った。


「ふっ……剣を振る場所が必要でな。もし迷惑でなければ、第二剣術部に混ぜてもらおう」

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