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東京ダンジョン学園  作者: 叢咲ほのを
第九章 遅咲きの雷 -Late Blooming Thunder-
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第134話 姿勢の力

 紫村による勧誘で、ハッチーこと八戸ヘイジが第二剣術部に入ることになった。青天の霹靂だ。

 紫村たちと第一剣術部の見学に行った時には、この八戸は嫌な奴だと思ったのが第一印象だったが、第一を退部して雰囲気が変わった気がする。


「ハッチーはそっちの方が素なのか?第一剣術部にいた時は部の人間として接してたってことか?」


「……その呼び方はどうにかならんのか?」


「ん?いやなのか?じゃあ八戸」


「どうして先輩を呼び捨てする?……いや、もういい、好きに呼んでくれ」


「じゃあハッチーで良いじゃん。なあ紫村?」


「いや、一ノ瀬君、それはさすがに八戸先輩に失礼だよ……」


 『はちのへ』だから愛称が『ハッチー』。我ながら親しみやすい呼び名を思いついたと思うのだが。


「あ、そっか!ハッチの方がいいのか?」


「短くすればよいとかいう問題ではない……」


 俺たちがそんな風に雑談をしていると、しびれを切らしたイオリが声を掛けてきた。


「ほらおまえたち、無駄話なら部活が終わってからにしろ」


「すいません!」


 紫村はすぐに謝罪し、先ほどまでやっていた構えの姿勢を取る。


「じゃあ俺たちもまじめにやりますか」


 俺はハッチーにそう言って、木刀を構えた。

 ハッチーもそそくさと木刀を取り出し、皆と同じように構えをした。


「八戸は第二で稽古をするのは初めてだから、まずは基本を教える。私のように構えてくれ」


 イオリは両手で木刀を持つと、正面に構えた。

 ハッチーも真似をして同じように構える。


「まじめにやれ!そうじゃなくて、私の持ち方を見てまねるんだ」


「何?俺の構えは何かおかしいのか?」


「その何とか流とかいうやつの構えじゃない。ごく普通の自然な構えをしろと言っているのだ」


「いや、これは北斗天元流とは関係がなく、普通に構えてるだけのつもりだが……」


 イオリの指摘が理解できず、戸惑うハッチー。俺が見ても違いがよう分からん。

 するとイオリが説明を始める。


「おまえは腕の筋肉で持ってるだろう!そうすると力が肘とか肩から抜けているんだ。もっと体全体と一体化して持て」


「す、すまん。おまえの言っていることがよく理解できないのだが……」


「こうだ!」


 イオリが木刀の持ち方を見せるのだが、ハッチーは混乱していた。


「すまん、お前と俺の違いが理解できん」


「なんで分からないんだ!」


 イオリが怒ったが、すまんがその説明じゃ俺も分からないぞ。

 そしてついにハッチーが口答えをした。


「その……、構えも大事だと思うのだが、俺はこれでも8歳のころから北斗天元流の剣術を学んできた。今さら構えを矯正しようとしても効率が悪い。やはり実戦。組み手こそが己の剣を磨く最良の道ではないだろうか?」


 ついに言ってしまった。俺も思っていたのだが言えなかったのに、ハッチーは言ってくれたのだ。

 するとその言葉を聞いたイオリは、怒ることなく冷静に答えた。


「それじゃ千堂、ちょっと来てくれ」


「僕?」


 イオリに呼ばれて千堂が前に出てくる。


「千堂はなかなか良い構えができている。この千堂と少し力比べをしてみてくれ」


「力比べ?」


 すぐに理解できずにハッチーは不思議そうにする。

 そんなハッチーにイオリが説明をする。


「剣と剣がぶつかって鍔迫り合いになることがあるだろう?木刀に鍔は無いが、まあとにかく剣を合わせて押し合ってみろ」


「そうは言っても俺はレベル4。そっちは一年生じゃないか。それに俺の体格に比べて、彼は見るからに小さい。体重も違いすぎるだろう」


 要するにハッチーが力比べで負ける要因がないと言っているのだ。

 対する千堂も不安そうな顔をしていた。


「力の使い方の説明をするんだ。ほら、構えろ」


 そんな二人に対してイオリは有無を言わさずに続きを促す。

 二人はしぶしぶイオリの言う通りに木刀同士をぶつける姿勢をとった。


「それじゃお互いに押してみろ」


「ふん!」


 イオリの号令と共にハッチーは腕に力を籠める。それに対し千堂も歯を食いしばって押し返す。


「ふぬう!」


 ハッチーが力み過ぎて、顔が真っ赤になっている。目を見開き、歯を食いしばり、すごい形相だ。俺が相手をしていたら思わず笑ってしまうところだ。千堂はあの面白い顔が正面にあるのに、よく笑うのを我慢できるものだ。

 というか、押し合いが拮抗している?


「分かるか八戸?お前は腕の力だけで押すから、千堂の姿勢を崩すことができない。千堂、お前も押し返してやれ」


 イオリに言われて、千堂はぐっと前に出る。するとハッチーの上体がのけぞり、ずるずると後ろへと押されていった。


「バカな?!」


 ハッチーは今起きている現実が理解できていないようだ。

 というか千堂、細身だと思ってたけど、結構力持ちなんだな。


「そこまで!」


 イオリの号令と共に、二人の力比べは終わった。

 はぁはぁと肩で息をするハッチーと、深呼吸を一回して落ち着く千堂。


「か、完敗だ。どういうことなんだ?」


「僕も何がなんだか……、思い切り押し返しただけんなんですが」


 千堂も戸惑っているようだった。

 彼自身、なぜハッチーを押し返せたのか理解していないのだろう。

 するとイオリが説明を始める。


「八戸。貴様の剣は、ただの腕力の振り回しだ。それに対し千堂は全身の重さを剣に乗せている。その違いが分かったか?」


「……何だと?」


「北斗天元流か何か知らんが、貴様は基礎中の基礎、構えからできてないんだ。そんな構えじゃ私には一生勝てないどころか、ウチの部員全員に追い抜かれるぞ」


 一瞬、部員たちの空気が凍りついた。言い過ぎじゃないか?

 ハラハラしながら見ていたが、ハッチーの反応は予想外だった。


「…………愕然とした。俺は、己の流派という看板に胡坐をかいていたようだ」


 ハッチーはゆっくり膝をつき、正座すると、木刀をそっと脇に置き、両手を地面に付けた。


「瀧川、いや、瀧川先生。俺は今この時から北斗天元流を捨てる。この俺に御指南お願い申し上げる」


 ハッチーはそう言うと、深々と頭を下げた。

 座礼だ。

 第一剣術部で見せた傲慢さは消え、年下のイオリに対して礼儀正しく指導を求めていた。

 その潔すぎる姿に、俺の横にいた紫村は何かを射抜かれたような顔で立ち尽くしていた。


「どうした紫村?」


 俺が問いかけるが、紫村は何も答えない。

 ただ、八戸の背中を、じっと見つめていた。

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