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Report44. 生存本能

「グルルル……」


イサミの唸り声だけが響く玉座の間。


ホムラは刀を構えながら、すり足でイサミとの距離をじりじりと詰めていく。


『この間合いなら、やれる。』


イサミとの距離、約3メートル。


自身の攻撃範囲に入ったことを確認したホムラは刀を持つ手に力を込める。


「どうしたイサミとやら。襲いかかって来ないのか?」


「グ…ル…アァ…。」


ホムラの挑発に対しても、イサミはただ唸る声を出すだけであった。

そんな不自然なイサミの反応に、ホムラは首を傾げる。


『なんだこいつ……?何か変だ。なぜ襲ってこない?どこか…苦しんでいるようにも見える。必死で何かを押さえつけているような……抗っているような……。もしかして……』


「お前、まだ理性が残っているのか?」


「……!」


ホムラの問いに、イサミの唸り声が止む。


「私たちを襲わないように、何かと戦っているのか?」


「オ……ネ……」


「なんだ?どうした?」


「オネ…ガイ……シマス……マ…スター……。オ…レデハ……モウ……トメラレ……マセン……マス……ターノ……テデ……オレヲ……トメ…テ…クダサイ……」


「マス……ター?おい、一体お前は誰と話している?」


「マス……ター……!ハ……ヤク……!」


イサミが苦しそうに声を吐き出した次の瞬間、


プツンーーーー


イサミは糸が切れた人形のように、地面に崩れ落ちた。


「おい!大丈夫か!」


「イサミ!」


ホムラより早く、ソニアは倒れ伏したイサミの下へと駆け寄る。


そして、その小さな腕で動かなくなったイサミの背中を抱き上げる。


「しっかりしろ!目を覚ませ!イサミ!」


ソニアは、イサミの身体を必死に揺さぶってみたり、回復魔法をかけてみたりした。


しかし、意識は戻らない。


「お主、言っておったであろう……?わらわを一番近くで守ると!あれは嘘だったのか……!?わらわを……もう…守っては…くれぬのか……?」


ソニアの涙が、イサミの頬に落ちる。


それでも、イサミは安らかに眠り続けたままだった。


「イサミ……イサミぃ!うわあああっーーーーーーーん!!!」


ソニアの泣き叫ぶ声だけが、部屋中に響き渡る。


「……姫様。」


側にいたホムラは、大粒の涙をこぼす主君を歯痒そうに見守ることしか出来なかった。



------------------------------------------



日比谷研究所の実験室。


イサミの生みの親兼マスターである、日比谷 恭二は真っ暗になったモニターの前で、呆然と立ちすくんでいた。


「………。」


その手には、イサミの全機能を停止させるスイッチが握られていた。


「……こうするしか無かった。イサミを止めるためには、こうするしか無かったんだよ。」


側にいた羽倉は、日比谷を慰めるように言い聞かせる。


「あいつは、心が壊れて暴走しちまった。それでもなんとか最後の力を振り絞って、俺たちに自分を止めるように語りかけてきたんだ。だからこれで良かったんだよ。」


「……ないんだ。」


「え?」


「私は、Mode-Beastなんてフォームは作っていないんだ。」


「あの暴走モードのイサミのことか?じゃあアレは一体何だったんだよ?」


「推測だが……あれは暴走なんかではない。イサミ自身から生まれた、死にたくないという思いが形となって現れたもの……即ちイサミの生存本能だ。」


「生存……本能?」


「ああ。本来、感情を司るグローアップ・デバイスが壊れたらイサミはその活動を停止するようになっている。そのように私が作ったのだからそれは間違いない。

だが、実際はイサミは姿形を変え、私が緊急停止ボタンを押すまで活動を続けた。」


「話が見えねぇよ日比谷。じゃあ何だってイサミはあの時動けることが出来たんだ!?」


「おそらくだが……イサミはグローアップ・デバイスとは別の、人間の感情がめばえている。」


「……!なんだって……?」


日比谷はおもむろに研究室の書棚を漁り、ある一冊の本を取り出した。


「それ…。ダーウィンの『進化論』か?」


「ああそうだ。羽倉、このページを見てくれ。」


日比谷が開いたページには、猿人からヒトになるまでの過程が描かれた、かの有名な挿絵が描かれていた。


日比谷はその一番最初の猿人を指し示す。


「これが、今のイサミだ。」


「……は?」


「グローアップ・デバイスが壊れたイサミは、いわばこの猿人の状態になった。それが、Mode-Beastの正体だ。」


「いやいや、待て待て待て。じゃあなんだ?イサミはこの猿から人間に進化しようとしてるっていうのかよ?」


「その可能性が高い。イサミはグローアップ・デバイスという制御装置が壊されたことにより、自身の中に生まれていた生存本能を処理し切れなかった。だから、わずかに残った理性で私たちに助けを求めてきたんだ。」


「……その話が本当だとしたら、イサミはもうロボットの域を越えているんじゃないのか?」


「そうだ。あいつは……イサミは人間になりつつある。」


「……マジかよ。」


「もしかすると、この緊急停止ボタンももはや意味は無いのかもしれない。イサミ自身の力で目を覚ますことだって十分に考えられる。」


「はは…。まさかそんな…流石にそれは」


ないだろうと羽倉が言おうとした瞬間、


イサミモニターに再び灯りが灯る。


「日比谷。お前、緊急停止解除した?」


「いや、私は何も触っていないぞ。」


「じゃあ。なんでイサミが目を覚ましてるんだよぉ……。」


羽倉は唾をゴクリと飲み、恐る恐る映し出された映像を確認するのであった。















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