Report45. 牢の中
イサミがゆっくりと目を開くと、そこには石造りの天井があった。
「こ…こ……は?」
寝ていたベッドから身体を起こし、辺りをキョロキョロと見回す。
窓が一つもなく、冷たさすら感じる薄暗い部屋の中。
生活をするに当たって必要最低限のものしか置かれていない簡素な造りの部屋だった。
ここは、明らかに先ほどまでいた玉座の間ではない。
とにかく、ここから出よう。
そう思ったイサミはベッドから降り、部屋の外へ向かって歩き出す。
部屋には扉が付いておらず、一部分だけポッカリと穴が空いていた。
ここを抜ければ、部屋の外へと出られるはず。
そう思っていた。
しかしーー
ガン
「痛っ!」
イサミは何かに頭をぶつけ、クラクラとよろめく。
「なんだ…?」
今自分が潜ろうとした穴をまじまじと見つめる。そして、穴が空いている箇所に慎重に手を伸ばしてみた。
「……見えない、壁?」
穴が空いた箇所は、まるで透明な壁のようになっており、通り抜けができないようになっていた。
叩いたり、蹴ったり、モノをぶつけてみたり、色々試してはみたが、目の前の透明の壁はびくともしない。
「そんなことをしても、無駄だよ。」
「……!誰だ?」
イサミは不意に聞こえてきた何者かの声に反応する。
「ここだよ。」
その声の主は、透明な壁の向こう側の牢獄の中にいた。
「お前は確か……五龍星のハリル。」
「ああ、そうだとも。貴様のおかげで今はこんな所にいるハメになってるがな。」
ハリルは、壁越しにイサミをジロリと睨む。その両手には重々しい手枷がはめられていた。
「お前が一体どうしてここに?」
「それを聞きたいのはこっちの方だ。貴様こそ、どうしてこんな所にいる?」
「こんな所?ここは一体どこなんだ?」
「フン……自分が置かれている状況も分かっていないのか?
ここはエルト城内にある地下牢だ。僕は貴様に敗れて、ここにぶちこまれた。その後どういう訳だか知らんが、気絶した貴様がこの牢に運ばれてきた。
イサミ……貴様一体何をやらかしたんだ?」
「俺は……。」
思い出せない。
王の攻撃で心臓部を貫かれてからの記憶が、ない……
イサミはとっさに自分の左胸を触ってみた。
「傷が……塞がっている。王によって貫かれたはずなのに。」
「何?王様がここに来たのか?」
「ああ…だが、その後が思い出せない。
教えてくれハリル。俺は誰にここまで運び込まれた?皆は無事なのか?」
「フン。教えてやる義理はないね。」
「……そうか、なら仕方ない。」
そう言ってイサミは再び壁を殴り始める。
ガンガン、ガンガン。
その音によって、ハリルの隣の牢獄にいた囚人が目を覚ました。
「ふわあーーーぁ。ガンガンガンガンうるっさいのぉ。一体何事だ?ハリル?」
「僕じゃないよ。僕がそんな無駄なことをする訳ないだろう。」
「むぅ。では誰がこんなことを?む…?むむ…!お主!イサミではないか!?どうしてこんな所におるのだ!?」
目を覚ました巨大な老人、ガーレン・グランベリルはイサミの姿を見つけると、何故か嬉しそうな声をあげた。
「うるさいぞガーレン!ただでさえお前の声はデカいんだ!もっと声を抑えろよ!」
ハリルは舌打ちをして、声を荒らげる。
「ガッハッハ!すまんすまん!」
しかしガーレンは、ハリルの忠告を聞かず豪快に笑い続けていた。
「ガーレン、お前もここにいたのか。」
「ああ、ハリルと共にな。まったく…牢の中は退屈で堪らんわい。」
ガーレンもまたハリル同様に両手に手枷をはめられ、さらには足首に鉄球が巻かれていた。
「ガーレンは、誰が俺をここまで運んできたか知らないか?」
「ふむ。確かソニアお嬢と、ホムラだったな。目覚めた時に何をしでかすかわからんから念のためにとか言ってホムラがお嬢を説得しておったわい。」
「ガーレン…!貴様!敵にべらべら喋るんじゃない!」
「良いではないかハリル。器のちっさい男じゃのう。」
「ああ!?なんだと貴様ぁ……、もういっぺん言って…」
「ガーレン!そのホムラってのは何者なんだ?」
ハリルの言葉を遮り、イサミは食い気味に質問する。
「ああ。元ワシらの同僚にして五龍星の一人、剣神のホムラだ。」
「五龍星だって!?そんな奴と一緒にいてソニアは大丈夫なのか?」
「まっ、あやつは昔からお嬢を誰よりも大事に思っておったから、まず問題ないであろう。おおよそ、今回の戦乱に乗じてディストリア帝国からエルト王国に寝返ったのだろうな。」
「その通りだ、ガーレン。」
不意に凛とした女性の声が牢獄中に響き渡る。
カツカツと靴音を鳴らし、イサミたちの牢の前までやってきたのは、刀を両脇に携えた背の高い赤髪の女性であった。
「おお、ホムラか。ちょうどお前の話をしとった所だ。一体何しに来たのだ?」
「お前の大きな笑い声が聞こえたから、様子を見にきたんだよ。」
「ガッハッハ!そうであったか!」
ホムラは、豪快に笑うガーレンを無視して、イサミの方へ向き直る。
「目を覚ましたか……イサミ。」
ホムラは、どこか冷ややかな眼でイサミを見る。
「あなたが、ホムラさんか。味方……っていうことでいいんだよな?皆は無事なのかどうか教えてくれないか?」
「ソニア様は無事だ。今はエルト城内の客間で休息を取られておる。そしてエルステラ王、メアリーの姉妹は未だ意識は戻っておらず、王室で寝たきりのままだ。」
「そうか……。じゃあ、王を倒してくれたんだな。ありがとう、ホムラさん。」
「礼には及ばん。ただ撃退しただけに過ぎん。あんなもので、くたばるタマでも無いだろうからな。」
ソニアとエルステラ、そしてメアリーが一旦無事であることを知り、イサミはホッと胸を撫で下ろす。
そしてその次には、皆に会いたいという欲求が生じていた。
「ホムラさん、この牢獄から俺を出してくれないか?早く皆の顔を見たい。」
しかし、ホムラは首を横に振る。
「何故だ?どうして俺を出してくれない?」
ホムラは、イサミの疑問に答えず話を続ける。
「イサミ……。悪いがお前を牢から出す訳にはいかない。そして明日、日が昇る前にお前をこのエルト王国から別の場所へと護送する。お前はもう二度と、皆と会うことはない。」
「……!そんな……。」
ホムラが突きつけた無慈悲な現実に、イサミは呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。
AI転生をここまでお読みいただき、ありがとうございました。
大変申し訳ございませんが、今まで書き溜めたストックが底をつきてしまいましたので、
ここで一度更新を停止させていただきます。
ストーリー自体はここから新章に突入し、今年の8月から1週間に1度のペースでアップさせていただきます。遅筆で大変申し訳ございませんが、引き続きAI転生をよろしくお願いいたします。
さて、その間といってはなんですが、AI転生と並行して執筆をしております、女子高サッカーを題材とした小説「しゅうきゅうみっか!-女子サッカー部の高校生監督 片桐修人の苦難-」を明日からこちらにアップさせていただきます。
こちらもぜひ、お楽しみいただければと思います。
上記2作品ともども、何卒よろしくお願いいたします!




