観光客狩り
王都の高級宿の前、建物の間の小さな路地から宿の入口を伺っている少年がいた。
名前はエル。
薄汚い布切れのような服、何日も洗っていない髪を気にもせず、ただジッと入口の様子を注視していた。
エルの目的は、昨日食糧を失敬した少年少女の二人だ。
護衛も連れず、隙だらけで観光していた所で食糧を掠めとってやったのだが、金やら薬やらも入っていて大儲かりだった。
その後二人はスられた事を気にする様子もなく、そのまま食べ歩きを続け、それなりに高級な宿に入って行った。
きっと辺境貴族か豪商の息子かなんかだろう。
あの程度ならもう一回金をスれるかもしれない。
もしバレても、ちょっと脅してやれば金を巻き上げられそうだ。
護衛を雇う金をケチッたのが運の尽き。
恨みをかわない程度に脅して、金を譲ってもらう事にしよう。
仲間とそう示し合わせ、顔を知っている自分がそのまま見張りについた。
中々出てこないな…まさか感付かれた?
「よう、エル。こんな所でなにやってんだ?」
後ろから聞きたくなかった声が響いた。
「セブ…」
「さん、だろ。」
「…セブさん。」
「よぉし、目上の人間には敬語が基本だ。どこで生きててもな。で、何やってんだ?」
「別に、ただカモになりそうなのを探してただけだよ。」
「当てがあるんだろ?」
「無いよ。」
「テオが言ってたぞ。」
あの馬鹿野郎!
同世代の仲間に心の中で罵声を浴びせる。
「テオが何て言ってたって?」
「昨日、あいつが妙に羽振りが良かったからちょっと聞いてみたんだ。そしたらお前が良いカモを見つけたって言ってたんでな。だからよ、俺も一枚噛ませてくれや。」
セブと組むなんて最悪だ。
スリでは役に立たないし、頭もそんなに良くない。
そのくせ年長者だからと分け前は一番持って行く。
力だけは強いから逆らえないし、今回は成功しても実入りは少ない。
テオ…後でボコボコにしてやる。
「ちゃんと儲けは折半だからね?」
「ああ、俺とお前で半々な。」
こっちは9人養ってるっての!
「ん、良いよ。…お、出て来た。ちびっ子二人組。」
「よし、尾けるぞ。」
セブと二人でエモノを追っていく。
狙いの二人はこっちの動きに気づいた様子も無く市場で串肉やら果物やらを買い集めている。
そしてそのまま人気の少ない路地裏へ入っていった。
…わざわざ路地裏なんて危険な所に入っていくか?
疑問に思う間もなく、セブが二人を追いかけていく。
「よし、もう直接やっちまうぞ。」
「セブ…さん、何か様子がおかしくないか?」
「大丈夫よ、あんなガキ共のどこが怖いってんだ、行くぞ。おい!そこの二人、止まれ!」
歩いていた二人がこちらを振り向く。
顔つきは無警戒な感じ、どうして声をかけられたのか分からないっといった風だ。
「坊ちゃん、お嬢さん。俺たちの身なりを見てくれよ、こんなボロしか着れなくてよ、可哀想だと思わねぇか?」
「え?そんな事言われても僕らお金なんてそんなに持ってないですよ?」
「いや、あるだけで良いんだ。あとはその服と持ってるもんを全部置いてってくれりゃ命までは取らねぇ。」
「うーん、そんなことしてもあまりお金にはならないと思うなぁ。冒険者登録でもして薬草でも摘んでくれば結構生きていけますよ。」
「はっ、冒険者なんてこっちから願い下げだ。どうして自分を虐げる奴のために働かなきゃならねぇ。だからよ、俺の機嫌が悪くなる前に言われたとおりにした方が良いぞ。でないとなっ!」
言いながらセブが少年の方を殴り飛ばした。
「ぐえっ」
「ろーがん!?ど、ドウシテコンナコトヲ?」
「いいか、今のは手加減した。もし言う事を聞かなかったら今度はこの娘の番だ。」
「イヤーたすけてー、ダレカー。」
セブが女の子の手を掴んで引っ張り上げた。
さっきから言葉がカタコトというか棒読みくさいというか、異国の出身なんだろうか?
か細い腕を振ってなんとか逃れようとしているが無駄だ、セブの馬鹿力は筋金入りだ。
「あ?」
と思ったらセブが女の子の手を放してやったみたいだ。あの力の加減が出来ないセブが珍しい。
「やべっ」
「え?あ、しまった。」
「あれ?俺の腕?」
何か様子がおかしい。
見間違いかな?セブの腕があらぬ方向に曲がっている気がする。
「ソフィ、一旦リセット!」
「らじゃっ」「グボォ!」
女の子の拳がセブの腹に突き刺さっていた、ように見えたけど一瞬過ぎてよく分からなかった。
何がなんだか分からないうちに、セブは白目を剥いて倒れてしまった。
「ああ、なんてこと、この人、石につまずづいて転んでしまったわ。」
「なんだって?それは大変だ。」
さっき殴り飛ばされたはずの少年が寄ってきた。
セブの脇に跪いて、様子を見ている。
「うん、特に悪い所は無いみたいだな。」
「よかったねぇ。」
「まさか石に躓いてしまうとは、そこのあなたも見てましたよね?」
「あ、ああ…躓いたんだったか?そこのお嬢さんが殴ったように見えたような気が」
「こんなか弱い女のコが殴って倒れるような人ですか?」
「い、いや、確かにそんなヤワでは無いと思うが、さっきセブの腕が変な方に曲がって無かったか?」
「腕?特に何も異常は無いですよ。」
言われて確認してみるが、確かにセブの腕に異常は無かったか。
「何か見間違いだったんじゃ無いですかね?」
「う、あ、そうだな、どうやらなにか幻でも見たのかもしれないな。」
「そうですね、それでも何があるか分かりませんし、この人をお医者さんに連れてった方が良いかもしれませんよ。」
そう言いながら渡してきたのは、革袋に包まれた金だった。
「できれば身ぐるみ全部は勘弁してください。」
「お、おう。いいぞ。」
「それじゃ、僕らはこれで。」
そう言って二人は去っていった。
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しばらく後
「うぅーん…ハッ!?」
「お、気付いたか、セブ。」
「アイツらは!?」
「逃げちまったよ、お前が急に倒れるから。」
「そうだ!俺の腕が曲がっ…てない。」
「ああ、俺もそんな幻が見えた気がしたけど、気のせいだったな。」
「くっそ…で、金はふんだくれたのか?」
「ああ、あいつら、金をまきながら逃げてったからな。だからそんなに多くはないぞ。」
そう言って、ポケットから金を取り出して見せた。
「よし、じゃあ折半だな。」
「おいおいセブ…さん、いくらなんでも駄目だよ。寝てただけじゃん。」
「何だ、不満か?」
「いや、そうわけじゃ…」
「だったらそれで良いだろ。」
全く役に立ってないセブに金を巻き上げられた。
でも、今見せたのは貰った分のほんの僅か。
お陰で予定より儲けられた。




