お誘い
「貴方、小さいのに度胸があるのね。」
一人だけ泣いてなかったせいで、目をつけられてしまったようだ。
嘘泣きは出来ないんだよなぁ………あ、魔法があったわ。
俺が人知れず反省している中、お姉さんは猿轡を優しく外してくれた。
「苦しくなかった?」
「い、一体何が起こったんです?そこのおじさんはどうなったんです?僕をどうするつもりですか?」
今更ながら目に水をためて涙を出したようにみせてみる………どうだ?
「あれの事は忘れて良いわ、ただの石ころみたいなものよ。貴方達にはこれから、私の指示した所で働いて貰うことになるの。拒否権は無いけど、環境も良いし、お給料もとても良いし、今まで貴方達の様な子を斡旋したけど、みんな不満なく幸せに暮らしているのよ。素晴らしいでしょう?」
何かと思えば、職場を斡旋してくれるお姉さんだったのか。
良い職場なんだろうなー、とっても希望が持てるなー。
「そ、それはどんな仕事なんですか?悪い事はしなくて良い仕事ですか?」
「それも心配要らないわ。詳しくは後で説明があると思うけど、領主様の城で働ける可能性もあるのよ。でも、その前に………」
お姉さんが俺の目の前までやって来た。
こっちも立たされたままなわけだけど、お姉さんの背が高いのでもはや胸で顔が見えん。
ここまで巨大だと好みが別れる所だな。
「お姉さんと気持ち良い事をしましょう?」
「え?」
「大丈夫、どうせ首から下は自由が利かないのでしょう?お姉さんが優しく教えてあげるわ。」
お姉さんが俺の肩に手を置いた瞬間、肩に乗っていたソフィがお姉さんの手に噛みついた。
「痛っ!?コイツ………」
お姉さんはソフィの脚を指でつまみ上げると床に叩きつけ………
「邪魔してんじゃないわよっ!」
足で踏みつけた。
グシャと嫌な音がした。
「そ、そんな………僕の友達だったのに………」
「大丈夫よ、どうせこれからの職場には連れて行けなかったのだし、それに、今から全部忘れさせてあげる。」
お姉さんが俺の頭を優しく撫でる。
その撫で方が妙に艶かしい。
「いつもならは嫌々なのを無理矢理って所から始めるんだけど、お詫びに最初から優しくしてあげるわ………対価もしっかり貰うけどね」
真っ赤な舌で舌なめずりをしながら、俺の服に手をかけ………
ドォン!
俺が最初に連れ込まれた方の隠し通路の壁が、大きな音と共に砕け散った。
「何も知らぬ幼子を誑かすとは………聖職者にあるまじき外道め。」
セリフと共に現れたのは、全身まっ黒の軽鎧を身に着けた人物だ………今日は全身まっ黒な人だらけだな。
顔までフルフェイスのヘルメットのような兜をかぶっているので、顔も判別できない。
声も中性的で、体型からも性別すら分からない。
何というか、忍者的というか何とかライダー的というか、そんな感じの見てくれだ。
「あら、今日の礼拝時間はもう終わりですよ?それとも泊まる宿が無かったのかしら?」
「無駄な言葉遊びに付き合うつもりは無い。」
そのまま腰に差していた短刀を引き抜いた。
逆手持ちで構える、そうだね、忍者ならそれでないと。
「はぁ、話が通じないのも考えものね………黙らせなさい。」
お姉さんが促すと、さっきまでへたりこんでいた男が立ち上がって忍者(仮)に向かって駆け出した。
走りながら懐からナイフを出す動きは、さっきまでの情けない姿からは想像もつかない。
あいつ手練だったのか、残念盗賊くらいに思ってたぜ。
しかし今回は相手が悪い。
男が右下から突き上げたナイフは忍者の胸の防具の隙間を縫って突き刺さ、らずに止まった。
「な!?」
「“スパーク”」
動きが止まった男の顔をむんずと掴むと、そのまま電撃の魔法を食らわせる。
流石に直接頭に電流を流されちゃ一溜りもない。
男はそのまま後ろに倒れた。
完全に意識は刈り取られてる………死んでないよね?
「見え見えの隙に手を出すとは………使えん護衛だな。」
お姉さんはそれには答えず、じっくり忍者を観察している。
「電撃、という事は貴方は光魔法が使えるのね?神殿騎士団か王宮騎士団で働く気はなぁい?出世出来るわよ?」
「断る。職には困ってないのでな。」
「そう、残念ね。」
お姉さんの言葉が終わるが早いか、木の扉が轟音と共に弾け飛んだ。
木の扉を粉砕しながら飛び出したのは、俺の腕の太さはありそうな木の根っこだ。
それが4本、四方から忍者に襲いかかる。
「フッ!」
一息気合を入れると、迫りくる木の根っこを短刀でうち払っていく。
その場を動く事なく、短刀一本で文字通り斬り抜けた。
「新手と言う程でもない。さっきからドアの向こうから殺気が漏れていたぞ。」
「初撃を躱した位でいい気になるな。」
そこには、さっきの黒ローブが仁王立ちしていた。




