第五話 「事後処理」
僕達は学園に戻った。最低限報告の義務はあるからだ。そして寮に戻ってから生徒手帳(最新式の通話機能や電子マネー機能やらを入れた物だ)で生徒会室に呼ばれたので、途中で二人…リリアを数に含めるなら三人?…と合流して第二棟五階D区画の生徒会室に到着する。
「マリア、少し下がって」
「は…はい……」
スッと意識を集中させる。僕の存在探知を使いドアの向こうの人数を探る。
「中央の椅子に一人、机の左横に一人、ソファーの上に一人、か」
「凄いですね。これは士さんの固有技能なんですか?」
「固有技能?」
「……ユニークアビリティと言う、霊力による感覚器官の異常発達の事。現代魔術に置いて霊力と精神力は本質的に同一の物と見做されてる。精神が肉体に影響を与えるのと同じく、霊力が肉体に影響を与えても何らおかしく無いと言う事。貴方のソレはは魔術師なら誰しもが持つ霊力の感知能力の発達だと思う」
リリアに説明して貰う。
「成程……」
固有技能か。名前がついているって事は…
「他にも固有技能を持っている人は居るの?」
「ええ、居ますよ。かく言う私もその一人です」
「へぇ。大体どの位の確率なの?」
「固有技能は確率以前に霊力の量が問題の様なので、かなり稀と言う事になります。確率に直すと凡そ100人に1人らしいですよ?」
100人に1人と言うと多い様に思えるが、正式な魔術師自体がまだ80000人程しか居ない。魔術師業界の中で固有技能者は800人位しか居ないと言う事だ。
「マリアの固有技能は何なの?」
「私の固有技能は“風聴”。大気の状態を知る事ができる能力です」
それは狙撃にぴったりだ。大気が存在しない場所は無い。大気の状態を知れるというのは、見方を変えれば世界最高性能のレーダーだと言う事だ。壁の向こうだろうが部屋の中だろうが正確に探知できると言うのは凄まじいアドバンテージだ。マリアの精密狙撃技術の高さに納得がいった。
「取り敢えず行くぞ。士、扉を開けてくれ」
集の言葉に頷き扉を開ける。入った瞬間撃ち合いになる事を考慮して何時でも改造制服の中のナイフ(チタンータングステカーバイド硬合金製の逸品で、集とお揃いだ)を抜けるように構えていたが、その心配は杞憂に終わった。
「一条さん、彼方さん、フェイリスさん、それとリリアさん。入っていいわよ」
随分とフランクな話し方だ。扉を開けると大きなガラス窓を背にしたデスクトップ机と椅子に恐らく生徒会長と思われる女性が座っていた。
と言うかまだこちらに出て来て数時間しか経っていないリリアの事を知っているのは、流石名家のお嬢様といったところか。
「ソファーに掛けて頂戴な」
その女性が喋りかけてくるのでソファーに爆弾等が仕掛けられていないか軽く集と調べてから座る。
「あらあら、用心深いのねぇ。ウチの学園の防衛システムは完璧よ?」
「何処かの誰かさんにその完璧な学園の防衛システムが抜かれた物ですからね」
やや皮肉った様な感じで集が反論する。何かあったのかな?アイツは誰かの為に何か出来る奴だから後で聞いてみよう。女性は相当驚いている様だ。
「どういう事かしら?私には報告が上がってきて無いのだけれど。歌香ちゃん、知らない?」
平静を装っているのがバレバレだ。
「いいえ。私共に報告は有りません」
「そりゃそうだ。見つけてすぐに潰したからな」
集の顔がほんの一瞬だけ変わったのを僕は見逃さなかった。襲ってきた下手人の境遇が自分と似ていたんだろう。
因みにマリアには再会した時に僕達がやって来た事は全て伝えてある。最初こそ驚いていたマリアだったが、僕達の身の上を聞いて納得したのだろう。話し終えると泣いていた。理解してくれる人なんて居ないと思っていた節もあったのでその日はこちらも泣き疲れて寝てしまったのは良い思い出だ。……そんな話はさておいて。
「潰した…って、殺したの…?」
「あんた等学園側の不手際だ。別にとやかく言われる筋合いじゃ無いと思うが?」
「それでも、この事実は魔術師とそれ以外の軋轢を加速させる物よ。今後とも謹んで下さい」
何を言っているんだ?思わず笑いそうになる。
「……ハハ。アッハッハッハッハ!!」
集は包み隠さず嘲笑っている。しかも文字通り腹を抱えて笑っているのでマリアとリリアに白い目を向けられている。
「何を言っているんだ?そりゃ結果問題だろ。お前さん方が下手人を見つけたらどうするんだよ。厳重注意して追い返すってか?温すぎんだよ。お家の名が泣くぜ?」
この生徒会長はとある家の出身なのだ。
「けれど…「生憎。俺達は敵に情けを掛けるような精神性は持ってないし持つ気も無いんでな」…………」
生徒会長は苦虫を噛み潰した様な顔を向けている。
「……では、今回の件は不問とします。しかし今回の様な事は出来る限り謹んで下さい。」
それは出来兼ねる。上からどれだけ御達しがあったとは言え最終的に決めるのは現場だ。取り敢えず体面的に頷いておく。すると生徒会長は明らかにホッとした表情を浮かべた。
この少女、腹芸が苦手なようだ。
「この話はこれで終わりにしましょう。で、市街地への襲撃の話なのだけど……」
「それについては、私が担当させて貰います」
マリアが進み出る。この役割分担は襲撃後に帰る時に決めたのだ。集が学園のサーバーをハッキングして得た情報によると、僕達の方に味方が来なかったのは同時に起きた襲撃に日本支部の正規魔術師を割いたからだと言う。幾ら小規模とは言え此方の襲撃に人手を寄越さない日本支部の管理体制に多大なる異議を唱えたかったが腹の奥底に仕舞い込んでマリアの報告を聞く。マリアもこれに関しては同感で、同じような事が続けばクラノディアを通じて正式に警告するそう。皇女の胆力の凄まじさに一瞬目を疑ってしまったのはご愛嬌だ。と言うより。
改めて見ればこれは相当異常な事だ。
マリアは一国の皇女。それに見た目も良い。クラノディアは魔術六国に勝るとも劣らない魔導大国なのでマリアの姿を一目見た事のある者は相当多い筈(僕がその事を知らなかったのは単純にクラノディア関連のニュースを見なかったから)だ。そんな世界の重要人物と言っても過言では無い人が居る戦場に護衛を付けない筈は無い。下手をすれば即、国際問題に発展しかねない事態だ。それに対してなんのアクションも起こさないというのはおかしすぎる。
最低限警戒して置くに越した事は無いな。もしくは日本政府を脅し(汚職事実を盾にとって脅迫)て待遇改善を要求…いや、もしかして市街地から政府への情報が寸断されていた?何の為に……と言いたいが生憎心当たりがあり過ぎるな。兎に角後で集に聞いてみよう。悔しいが僕は電子関係に余り強くないからね。
その後は特に何も無く報告が終了して解散となった。




