第四話 「激戦」
ヴォォォォォッッ!!!!!
膨大な熱量が機体の数百メートル横を通り過ぎる。
『「メネラウス」被弾!「バーナード」、「ゲオルグ」、撃沈!「アマルガム」右舷後部に被弾!ダメージコントロール中です!』
芹沢さんの声に視界を後ろに向けると、二隻の駆逐艦が煙を上げて沈みながら爆発し、天羅と大型航空母艦が内装を見せながらも水上に浮かんでいた。
「何つー威力だ……」
思わず唖然とし、隣のマリアをみる。
三十キロ以上の超長距離から駆逐艦二隻の中央を丸ごと刳り貫く威力のビーム砲だ。その威力は特筆に値する。
『「バーナード」、「ゲオルグ」の直衛は「アマルガム」の指揮下へ。F-47《イマニティ》編隊は随時爆撃を開始して下さい』
最新鋭の中距離多機能攻撃戦闘機であるボーイングF-47が次々とAIM-120(アムラーム)中距離空対空ミサイルを射出する。
『第一波着弾まで四、三、ニ、一……弾着!』
ゴゴゴゴゴォン!!
五十発を超えるアムラームが命中し、更に要塞の外郭が崩れ落ちる。
「これで大分削ったか……?」
敵要塞の外郭を削り、ギアが入りやすい状況を作った後、白兵戦で制圧する。
この作戦プランには、敵の戦力を削り取る事が必要不可欠だ。
『敵影確認。数……百五十体以上!全兵装使用自由!各員各個迎撃に当たって下さい!』
「凄い規模だな……」
アロンダイトの照準システムに表示された敵影の数は、二百四十六体。
今回の作戦に従事しているギアは千機程。全世界に配備されているギアの四分の一だ。対して侵食者の戦力は一般的なギアのおよそ四倍。安全マージンを取ったら比率は更に開く。
「……まぁ、やる事は変わらないけどな」
『フォールディング・ブラスター、射撃モードへ。セレクターは照射にセットします』
(有難う)
静かに礼を言い、照準システムを敵が密集している所に向ける。
『霊力充填率50……70……90……充填完了。パワーバランサー開放。同時に機体の空間座標を固定』
溢れ出した余剰霊力がアロンダイトの周りに稲妻を迸らせる。
『照射!』
通常のビームよりも更に太いエネルギー砲が照射され、敵を次々と撃墜していく。
間髪入れず肩部ユニットのギアウェポンをアクティブ。速射性を重視して発射されたエネルギー弾が敵に命中し、敵の硬い骨格板が次々と砕けていく。
初段加速プロセスと二次加速プロセスで弾体の構造を二重にして貫通力を上げた新型弾頭の面目躍如と言った所か。
『手が空いている機体は、アロンダイトの火力支援を!』
オペレーターの声に合わせ、味方の持っているライフルから、ハンドガンから、滑腔砲から、数多の光の筋が放たれる。
(戦況予測、随時解析続けて!)
『了解です!』
アロンダイトの撃墜数が十を超えた時点で、ギアウェポンの出力配分を航行制御に振り直し、腰部ラッチから一本の剣を引き抜く。装飾は二の次で実用性を求めたブレードの感触が不思議と手に馴染んだ。
「突貫します!」
通信回線に向けて言い放ち、推進系統の出力を全開。メインブースター、ウイングスラスター、腰部ブースターユニット、脚部全バーニアから、凄まじい勢いで光の奔流が吐き出される。
コンマ五秒で音速を突破し、五キロの距離を七秒で詰め、敵の胴に横薙ぎの一撃を叩き込んだ。ブレードが敵の胴に深々とめり込み、体内から青い血を吹き出す。
(さすが、機能拡張型。今までのアロンダイトよりも速度が上だ)
心の中で呟きながら、ブレードを更に振り切る。胴が斜めに両断され、血と内臓を撒き散らしながら海に落ちていった。
ブレードを腰のラッチに戻し、フォールディング・ブラスターをブレードモードに変形させる。砲身下部から眩い光が溢れ出た。
(オーバーロード!)
『オーバーロード、起動します』
霊力を叩き込み、オーバーロードを起動。改善された出力伝達系により、アロンダイトよりも更に短い時間で音速を突破。近くに居た敵に向け、フォールディング・ブラスターをぶつける。
「ギュギャッ!?」
驚愕の声をきれいに無視して、右ウイングスラスターの出力を全開。遠心力によって敵の胴が今度こそ両断される。
そのまま慣性に身を任せ180度回転しながら腕を引き絞り、真後ろを向くと同時に敵の首に向けて突きを放つ。
「グッ……ガッ!」
ブレードを押し込み、首を千切る。力が抜けた死骸を、ブレードをラッチに戻した左手で引っ掴みジャイアントスイング。切断された首から血が飛び散るのをお構いなしに他の敵に向けてぶん投げる。
「チャージ!」
『充填、完了しました』
フォールディング・ブラスターをブラスターモードに変形させ、ぶつかって身動きが取れなくなっている敵二体(一体は死骸だが)に向けて照準。
間髪入れずにトリガーを引くと、エネルギー弾は二体の敵を一度に貫いてそのまま抜けて行った。
「セレクタチェンジ!」
『セレクターを散弾にセットします』
セレクターを散弾にセットして腰部ブースターユニットを180度回転させ、バックブーストで後退する。
追い縋ってくる敵を纏めて照準し、引き金を引く。
轟音と共に敵の体が弾け飛び、肉片と血を撒き散らしていくのを見ながら、ウイングスラスターに火を入れて加速、上昇する。
『上から十、下から五。挟撃、来ます!』
上から高高度フリーフォールを敢行する敵を視線に入れ、自己判断で光弾の術式を起動。放った光弾は避けた敵を追尾するようにして直撃し、爆発した。
『バレットランチャー、展開!』
ラピアも同様に術式を起動し、上から落ちてくる敵を一掃する。
『主砲「アドヴェント」、発射用意終了。射線を表示します』
その通信が届くと同時、アロンダイトのデータリンクシステムに紫色の帯が表示される。
『発射』
言葉少なに放たれたそれは、音速の六倍で侵食者の体を粉微塵にし、周囲に屯していた敵の肉体を衝撃波で切り刻んだ。
(ターンブースター起動!)
『肩部ブースターを起動。右ウイングスラスターを推力80%』
音声起動に従ってプログラムされた手順が遂行される。
体全体がシェイクされるような不快感を感じながら反転しきった俺は、再度ブースターを全開にし、重力のアシストも加えて超高速で加速する。
ギアウェポンを殲滅形態で待機させ、右前方九百メートルの地点に居る敵の体を引っ掴み、フォールディング・ブラスターの対空機銃を顔面に向けてぶち撒ける。
「ギャアァァァァ!!!!」
悲鳴を上げてのたうち回る敵の首を折って始末し、近くの敵に向かってバット宜しく叩き付ける。
二、三回で使い物にならなくなったのでバットを手放し、殲滅形態のチャージが完了したのを確認して発射。
青く輝く二条の閃光が敵の体を爆散させた。
『上から四体、下から五体、後ろから七体です!』
接近警報が鳴り響き、敵がFCSにロックされていく。
(対物障壁!)
『障壁、展開します!』
物体非透過の効果を持つ領域術式を球状に展開して前方に突っ込む。
物体同士が衝突する場合、威力は相対速度によって計算される。共に音速の数倍で機動している場合、その威力は計り知れない。そして、
(一点集中!)
術式の範囲を極小規模に縮小する事でそのエネルギーに耐え切れるだけの改変強度を手に入れる。
音速の六倍で衝突した俺と敵の行く末は、敵が粉々に砕け散るという結果に終わった。
後ろにポジショニングしようとしている敵に対し、空間制御術式で体の回転軸を固定し、ギアウェポンを応用した肩部大型スラスターの噴射によって僅かな時間で反転する。
敵の首を鷲掴みにし、パワーアシストを全開にして首を引き千切り、スラスターを吹かして上昇。
メインブースターの推力を徐々に上げていき、ウイングスラスターの推力を偏向しながら山成の軌道を描くようにして味方の陣地に帰還する。
『主砲照準、撃てえぇぇぇ!!』
俺に追い縋ってきた敵は、全て主砲の雨に撃ち落とされた。
「士さん!大丈夫ですか?」
一息ついた所に、マリアが話し掛けてくる。
「大丈夫だよ。それより……」
「……来ます!」
左右に散開した俺とマリアの間を数体の敵が通り抜け、艦隊に向かって行く。
「照準!」
『ルーチン破棄。直接照準!』
ディスプレイに表示されたレティクルが敵の一体に合わせられると同時にトリガーを絞り、一機を撃墜。残りの敵は天羅のVLSによって蜂の巣にされた。
『「イノケンティウス」、「アドヴェント」、照準連動。随時砲撃を開始します』
多連装レールガンと大口径レールガンの徹甲弾が侵食者を次々と消し飛ばして行く。
一撃で粉微塵にされていく侵食者を確認しながら、機体関節部に搭載された霊力貯蔵庫に霊力を優先的に回す。先程の突撃で随分と使ってしまった為、早めに回復する必要があるのだ。
『エネルギー保存中。全快まで残り120秒』
術者と機体を繋ぐ魔術的回路から飛行術式とシステム制御分の霊力を引いた分の霊力を機体背部の霊力炉で別のエネルギーに変換し、急速充電していく。
『チャージ、後40秒で全快します』
ラピアからの通信が届く。それと同時に探知魔術を起動して索敵を補強。対空警戒に目を光らせる。
(………………………ん?)
不穏な霊力の流れを感知した俺は、ハイパーセンサーの可視光望遠システムを使って要塞の外周付近を確認する。
ーーーーだからだろうか、それに、気付いたのは。
「あれは……要塞型?」
「そのようですね……」
巨大な脚が何本もくっついた鯨、と表現すれば良いのだろうか。
単騎で大都市を焼き払う能力を持った、侵食者の中でも特に珍しい移動型の侵食者だ。
人類側との接触報告は過去に二度。アメリカのロサンゼルスで一回、オーストラリアのメルボルンに一回の、計二回だ。何れの例でも人類側は大敗を喫し、ロサンゼルスに至っては都市が丸ごと消滅している。
今回の戦闘で遭遇する可能性は指摘されていた物の、そこまで気には留めていなかったのだが………………………アレは、不味い。
『要塞型三体を確認。各自編隊を組んで迎撃を!』
その言葉で、要塞型に近い部隊が編隊を組む……!?
「突出した!?」
「ダメッ!!」
他の侵食者が攻撃行動を中止し、次々とパイロットに群がっていく。
他の侵食者の攻撃を掻い潜りながら接近し、瞬時に照準を合わせるその技量は、流石としか言い様が無い。
ーーーー急激に伸びた食腕に、腕を貫かれなかったのなら。
腕を吹き飛ばされたパイロットの顔が、苦痛と恐怖に歪む。
スラスターを吹かして離脱するよりも早く、腕を吹き飛ばしたそれよりも細い触手に纏わり付かれ、頭部の口のような器官に引き寄せられて行く。
口に放り込まれたパイロットは、歯の代わりにびっしりと生えた触手に生きたまま解体されていき、四肢をギアのユニットごと引き千切った後に残った胴体が、要塞型の奥に呑み込まれる。
「つ、士さん、あれは……」
「落ち着いて、マリア」
パイロットが見せた恐怖の表情が瞼に焼き付いているのか、僅かに震えているマリアの頭を撫でてやると、幾分か落ち着きを取り戻したようだ。
「有難う御座います。士さん」
「どういたしまして」
……とは言え、アレをどうにかしないと禄に戦略をも組めやしない。
『アレは俺と集で相手をします。他の要員は各個迎撃を!』
戦術ネットワークに音声を流し、集に向けて通信を繋ぐ。
『殺れるな?』
集の返答は、断定だった。
『当然!』
唇から笑みが溢れるのを自覚しながら、俺はアロンダイトの霊力炉に火を入れた。
「邪魔ッ!」
剣を横薙ぎに振るって敵を叩き落とし、殲滅形態に変形させたギアウェポンを要塞型の土手っ腹に撃ち込む。
……が、
『チッ……やっぱり駄目か!』
「みたいだな……」
発生した霊力障壁に阻まれて、満足な攻撃も届かない。
要塞型に接近しようとした瞬間、大量の敵が俺達を優先的に攻撃してきた。
敵に反撃しながら要塞型に攻撃を加え続けてはいる物の、中々にジリ貧である。
「攻め切れない……」
『このままだと不味いな……』
俺達が要塞型にかまけている間に、どんどん戦況は逼迫し始めていく。それは出来る限り避けたい。
(ラピア、オーバーロードの準備を)
『ドライバー!?』
(兎に角、頼む)
『……わかりました。オーバーロード、起動準備』
ラピアにオーバーロードの準備をしてもらいながら、特攻するタイミングを狙う。
アレを確実に落とすには、肉を斬らせて骨を断つ戦術が必要になる。
自慢じゃないが、現行最高レベルの性能を持つギアである「アロンダイト」と「グラディウス・スパーダ」を以てしても要塞型を撃墜出来ない以上、ある程度のリスクは容認すべきだ。
『オーバーロード、準備完了しました』
ラピアにナビゲートをしてもらいながら、連続で迫り来る敵兵の体と要塞型の触手を切り飛ばしていく。
ブレードを腰部ブースターのラッチに戻し、ギアウェポンを両腕に装着しながら、背部のメインコンデンサに加え、ギアウェポンのコンデンサーに霊力を流し込む。
(霊力の消費度外視で、一気に片を付ける!)
息を吸い、吐き出し、目の前の敵を見据える。
「……オーバーロード、GO!」
『オーバーロード、起動!』
背部のメインコンデンサに貯蔵された霊力を使い潰し、瞬時に音速を超えて運動する機体が空気の壁を作り出す。
襲い掛かってくる触手に対して、左手のコンデンサーに貯蔵された霊力を、機体装甲に使われている叢玉鉄鋼に流し、直接強化する。
過剰な霊力の流入によって装甲表面から霊力の火花が散るが、構っている暇は無い。
(オーバーロード、タイプ・アサルト!)
要塞型と衝突する0.1秒前にギアウェポンが展開し、隙間から霊力を一気に放出すると同時に、霊力の存在をギアウェポンのブレードの周囲に固定する術式を作用させ、ブレードを脇に構える。
霊力に霊力で作用する事は難しく、ここまで大量の霊力を術式で操作する事は不可能に近い。術式が自己崩壊を起こし霊力が霧散するまで、0.2秒も無いだろう。普通に振るだけなら、何も出来ない。
しかし、機体が超音速で運動していて、しかも敵との接触から術式の自己崩壊まで0.1秒もの時間があるなら?
その時間のみ、この霊力の刃は何物をも切り裂く無敵の刃となるだろう。
要塞型の体表に霊力の刃が触れた瞬間、侵食者の固い装甲板が安々とバターのように切断された。
純粋な霊力と物質が衝突した時に引き起こされる対消滅現象によって、侵食者の装甲板が文字通り『侵食』された結果だ。
……そもそも、魔術とは何なのか?
霊力は概念にも物質にも成り得る特異なモノだが、その性質が世界に決定されていない以上指針はマイナスに振れる。対して、世界に決定付けられたモノはそれ以上変わり様が無い為、プラスとなる。
これが、事象改変強度だ。
魔術とは、マイナスの霊力を用いてプラスの世界を改変するプロセスの事を言う。
プラスの方が強ければ事象改変は失敗するが、マイナスが強ければ事象改変が成功し、事象改変をした時に余ったエネルギーと、プラスマイナスがゼロになった時に世界から放出されるエネルギーを使って、新たな事象を作り出す。
これが、魔術と呼ばれる現象だ。
然し、魔術の事象改変が成功した時、どんなに事象改変をしても余り有る程のエネルギーが放出されると、世界はエネルギー収支の辻褄を合わせる為に辺りの物質を空間に吸収させる、改変飽和が発生する。
今回は、アロンダイトに搭載された大容量コンデンサーから瞬間的に大量の霊力を放出する事で、『周囲に術式を作用させた』時と同じ状態を作り出し、改変飽和を意図的に引き起こしたのだ。
手応えを感じる事無く斬り裂かれていく侵食者の装甲板を見ながらスラスター系に更に霊力を回していく。
ギアウェポンの刃が要塞型を抜けたのを確認し、左ウイングスラスターの推力を増加させ反転する。完全に反転してベクトル変更術式を使用しながら上昇していくと、眼下にでは真っ二つに分かたれた要塞型の残骸が海面に着水した所だった。
(……損傷状況は?)
『霊力炉が出力超過。各霊力伝達路が過剰発熱を起こしていますが、何れも駆動に支障はありません。現在排熱中。全プロセス完了まで残り七十秒』
装甲が展開したまま白煙を吹き上げるアロンダイトを見て溜息を零す。
どうやら、回復するまでには少し時間が掛かりそうだ。
モニターの各種被害状況に目を通して、レーダーで対空警戒を続けながら、魔術師の空間把握感覚に意識の大部分を割いた。
………………………俺の近くで、「エミッション・パイル!」と叫んでもう一体の要塞型を撃墜していた集の姿は、見なかった事にして。
士がフォートレスを斃した。
その事実を確認した時、俺は歓喜し、同時に己を恥じた。
士の相棒を自負する俺としては、士が強敵を倒した事は誇らしくもあり、同時に悔しかった。
「ああ言う風になれたらなぁ……」
その呟きが虚しいものだと理解していながらも、俺はその想像を止める事が出来なかった。
人類最強ランキングで上位二十位に数えられる実力を持っていても、自分には士に無い物を持っていると心の中では解っていながらも、何処か、士と共に並び立ちたいと言う思いがある。
『なら、並べばいい』
(……リリア?)
『ギアを纏っている間は、幾らでもやりようがある。一条士との差は、それでも埋められない?』
「そう、か……そうだな」
リリアの何処か誇るような声を聞いて、色々な感情で一杯だった頭の中が、すっとクリアになる。
「なら……やるぞ。リリア」
『……うん』
真剣味を増したリリアの声に笑みを零しながら、グラディウスに回避機動を取らせる。
巨大な触腕をグラディウスの特殊武装である「ヴォルケーニック」で弾き飛ばしながら左前方に突破する。
「ヴォルケーニック」は霊力貯蔵機構である「砲身」と前方に展開して霊力の刃を発生させる「刀身」、掌から霊力を直接放出する「砲口」の三つを基礎とした複合武装だ。
肘部ラッチこそ設計の兼ね合い上使えないが、それを補って余り有る程の便利さを特徴としている。
そして、この武装の最大の機能は破格の霊力貯蔵量だ。
アロンダイトの武装内蔵コンデンサを超える容量の圧縮貯蔵システムによって、グラディウスの瞬間出力はアロンダイトを遥かに凌ぐ。
(右腕砲身、射出準備。パワーを調整機に接続)
『了解。調整機、オンライン。腕部バイパス最大開放。ユニット連結、撃発位置へ』
砲身が後ろに下がり、手の甲の装甲が手首の装甲と連結される。
手の甲の装甲が上に開き、三つの砲口を露出させたのを確認し、グラディウスの照準ウィンドウを開いて照準をイメージし、機体に搭載されている思考表示システムで範囲を調整していく。
思考で範囲を決定し、出力を調整する。思考の振れ幅を示すインジゲーターが空間投影ディスプレイに映っているのを見ながら、意識を更に集中させ、思考が只一つに染まるその時を待つ。
(ーーーーここっ!)
「エミッション・パイル!」
『内包霊力最大開放。放出と同時に冷却システムを起動』
正拳突きの要領で放たれた拳から霊力を変換した莫大なエネルギーが放出される。
赤熱した砲身が空気口を開き、白煙と蒸気を吹き上げた。
『腕部霊力バイパス損傷。機体出力に異常発生。機体駆動システムの再起動を開始……完了。予備プロセスを使用して機体スペックの維持を優先』
右肘に設置された霊力コンデンサーが不規則に点滅し、機械腕に不規則なスパークが現れるが、頭部から尾部まで半径十メートルはある巨大な穴を空けて堕ちて行く要塞型の姿を確認し、俺は密かに心の中でガッツポーズを取った。
(……これで、良かったか?)
『勿論。マスターは頑張った』
リリアの言葉に安堵しながら、調整を終えたグラディウスを動かして、空域を離脱した。
「マジか……」
『予想外ですね……』
集がぶっ放したビーム兵器の惨状を見て、辛うじて絞り出した言葉がこれだ。
「グラディウス・スパーダ」の瞬間出力が「アロンダイト・エクステンド」のそれを優に超える事は知っていたが、まさかここまでとは……
『簡易解析を開始……結果を表示します』
ウィンドウに表示されたデータを簡単に流し読みすると、驚愕の事実が記されていた。
(瞬間的な熱量が核に匹敵するって……一寸した戦術兵器だぞ?)
しかも、無差別にエネルギーを撒き散らすだけの核爆弾と違って、一点集中の大出力砲撃だ。凄まじいエネルギーが凝縮されている事は想像に難く無い。
「我が相棒ながら恐ろしい……ッ!?」
唐突に鳴ったロックオン警報に回避機動を取ると、無数の銃弾が機体の横を通り過ぎていった。
(何処からッ!?)
『レーダーに敵影無し。射角計算……左前方600×400の区域です!』
(分かった!)
算出された区域に対し、バレットランチャーで絨毯爆撃を行うと、一定の範囲内に飛ばした光弾が鈍い音を立てて砕け散る。
(全武装に霊力供給を開始。バレットランチャーを二十四連装で逐次術式待機!)
『了解!』
ラピアに指令を飛ばし、先程光弾が消えた場所を見詰める。
「………………………」
音も無く現れたのは、一機のギア。
『……あれは、レーヴァテイン!?私と同時期に開発された姉妹機が、何故こんな所に……!』
ラピアの言葉など丸で耳にも入らない。
……何故なら、
「奈々香……?」
そのギアを纏って、あまつさえ動かしているのは、俺が嘗て失ってしまった、大切なヒト。
………………………奈々香だったからだ。




