第一話 「天羅」
夏休みも明け、俺達は始業式が行われている講堂の中に居る。
『夏休みも明けた所で、皆さんにいいお知らせがありま〜す!何と!この剣ヶ丘学園に転校生が来ました!アルテミシアさん、入って来て!』
生徒会長のハイテンションな紹介に対し、生徒の間にはにわかにざわめきが広がる。
「転校生、か……」
「魔術学院で転校生は、かなり珍しいのですよ?」
「どういう事だ?」
よく分からない、と言う雰囲気を察してくれたのだろう。マリアが軽く解説してくれるが、俺とて理由は良くわかる。
魔術学院はその国の技術の最先端、下手したら実用化されていない実験技術までがカリキュラムに入っている事がある。その生徒が外国に行くというのは、機密の流出と同義だ。
「それは……っと」
転校生が入ってきた為、話を中断する。
「あれが転校生か……?」
「そのようですが……」
転校生の顔を見て、まず驚愕する。金を直接鋳溶かしたかの様な金髪に、マリアのそれより少し色が濃い蒼眼。
何より、その少女は俺にも身に覚えが無い位に鍛え抜かれていた。同質の人間を見てきた分一目で分かる。
「あいつ……デキるな」
「あぁ……」
集の言葉に頷きを返し、少女の自己紹介を待つ。
『私は、EUMF第一師団所属第一○特殊機械化歩兵中隊隊長、アルテミシア・リンドベル少佐だ。今回は貴官等と任務を共にさせて頂く。以後、宜しく頼む』
「……EUMF(欧州連合多国籍軍)だと?」
欧州連合多国籍軍は、UUSAAF“米連空軍”に次ぐ規模を誇る現行最強の軍隊の一角だ。
第一師団は空戦部隊、特殊機械化歩兵とは魔術師の事を指す。
一部隊を任される人間だ。強いのは間違い無いだろう。
さて、面倒事が増えるから一組に来るな……
『アルテミシアさんは、一年一組に行っていただきます。それでは、解散!』
あ、終わった。
「改めて、アルテミシア・リンドベルだ。宜しく頼む」
素っ気無い自己紹介と共に頭を下げるアルテミシアを見ながら、生徒会長に恨みの言葉を心の中で送る。
「補充」されてきた新しい担任の誘導で座ったのは、俺の左後ろ。
「アルテミシア・リンドベルだ。宜しく」
「一条士だ。宜しく」
穏便に自己紹介を済ませ、授業表を見る。
(一時間目は……げ。戦闘授業か)
軽く萎えかけた気持ちを抑え、SHRの号令を済ませる。
戦闘授業とは言っても服装は自由で、接続具を搭載できる服ならどれでも良いと言う決まりになっている。
俺は制服(防弾服)で授業に出るし、マリアも最近は制服で授業に出るようになった。
暗然とした気持ちのまま廊下を移動し、第一アリーナに入る。どうやら俺は中くらいの時間に来たようで、チラホラと話している人が目に入った。
「……全員揃いましたね?授業を始めます」
担当教師の号令で授業が始まる。
「各自ギアを展開して、円周機動でアリーナを十周だ。いいな!」
その言葉と共に各自のギアが展開され、色とりどりの霊力光が咲き乱れる。
(んじゃ、俺も……)
先日から行っていたアロンダイトの近代化改修が終了し、漸くお披露目になったのだ。
ギアは機械的な信頼性を確立する為に、技術的に一世代分の開き(大体十年くらい)を持った部品で製造される。
現在一線級のギアは第二世代の部品で製造されているが、アロンダイトは発掘されてから今まで使い手が現れなかった為、第一世代の部品が使われていた。今回は、その部品を第二世代のものに交換し、細かな調整を加える事で、近代化改修としている。
(展開ーーーーアロンダイト・エクステンド)
『起動意思を確認。転送術式を起動します』
全体のフォルムとしては元と変わっていないが、新たに肩に搭載されたギアウェポンラックとレッグバックスラスターが大きな変更点か。
オーバーロード状態の装甲分割システムも改良されている。
スペック的には元の数十%増しを記録しており、最新鋭(部品が第三世代)の試作機と比べても遜色無い数値だ。
肩部ウェポンラックにギアウェポンを預け、両腕をフリーにする。
多方向推進翼に改装された肩部ラックは、元の肩部スラスターの倍以上の推力性能を誇る。
両腕をフリーにし、空いた手にブレードを展開。
「準備は良いな?飛翔!」
ギアを展開した教員の号令と共に一斉に上昇する。
ギアウェポンの演算処理機構と霊力放出システムを活用する事で、ブースターの出力を更に上げる。
アロンダイトの基本戦術は超音速近接戦闘だ。その加速力は従来のギアを大きく凌ぐ。
しかし、それに追随してくる機体がいた。
(データ表示……近中距離特化型ギア、『リンドブルム』。AF(Ablation Fractal)社の最新型か)
肩にウイングスラスターを装備し、槍と銃を複合したような武装を手に装備している。
アロンダイトの近代化改修を担当したAMI社と違い、AF社は堅実な機体構成で知られる。
しかも、データを見る限り第三世代のパーツを一部流用した第二・五世代の様だ。
スペックはアロンダイト・エクステンドに劣る物の、万能性を追求した武装群は、敵に回したらかなり厄介だろう。
アリーナの内縁を周回する軌道のままこちらに追随してくる『リンドブルム』を知覚しながらそう考えるーーーーと、唐突のロックオン警報。
『照準レーザー照射確認!座標逆算……「リンドブルム」からです!』
答える間もなく光条が放たれ、バレルロールしながら回避機動を行う俺の横を掠めていった。
(チッ、全く……)
「おい。このメニューに戦闘は含まれていないぞ」
「……ハッ!?済まない。つい、癖で……」
まぁ、前方で動く物体があったら撃ち落としたくなるのは軍人の性だろう。
アルテミシアの様子に嘘は見られない為、詰問は終わりにし、推進系に霊力を流して更に加速する。
そのまま後続を引き離し、俺が一位のままアップは終了した。
「それでは、代表者による戦闘訓練だ。今日はリンドベルの実力を見る。リンドベル、誰と戦うか指名しろ」
今日の内容は一対一の戦闘訓練の様だ。
面倒な事になるから俺を指名するな……
「さっき私の攻撃を避けていたので、一条さんに相手を務めてもらいたいと思います」
ほら来た。
国の一部隊の長だ。苦戦するのは目に見えているが、何よりも……
(下手に面子を潰したら何を言われるか分かったもんじゃない)
そんな危険がある。
いっそ瞬殺されてやろうかとも思い始めたが、こちらに歩いてきた1-1担任の囁きに驚く。
「当主からの伝言です。『存分に』と」
「……『有難う』と伝えておいて下さい」
これが本当なら、生徒会長はそのリスクも織り込み済みでこちらにアルテミシアを寄越してきた事になるが、この時点で俺は生徒会長の目的を大凡把握していた。
(恐らく、目的はアルテミシアを「こちら側(日本派閥)」に引き込む事だろう。俺は、その『楔』と言った所か)
詰まる所、俺にアルテミシアをくっつかせる事が目的……の筈だ。
アロンダイト・エクステンドは展開しっぱなしなので、そのまま上昇する。リンドブルムも同様だ。
防護ジェルが客席とフィールドの間に充填され、エネルギーバリアが起動していく。
特殊なパネルを使用した液晶ディスプレイが、ファイブカウントを開始する。
『5』
ーーーー戦闘システム、立ち上げスタート。
『4』
ーーーー思考交感率、60%に設定。
『3』
ーーーー駆動出力、模擬戦闘モードへ。
『2』
ーーーーFCS、IFFの設定変更完了。『リンドブルム』を敵機と認識。
『1』
ーーーー全システム、オンライン。
『戦闘開始』
ーーーー戦闘、開始!
瞬間的にブースターを最大出力に入れる事による高速の踏み込み。加速しながら放った一閃はバックブーストによって躱され、同時にライフルが火を吹く。
『回避です!』
「分かってる!」
こちらもバックブーストで離脱し、三次元空間機動で弾丸を避け、ライフルが効かないと判断するや否やリンドブルムは突貫してくる。
「せえぇぇいっ!!」
「チィッ!」
ランスによる突きをいなして至近距離で光弾を発射するが、肩部スラスターから引き出されたエネルギーシールドに防がれ、それに驚愕する間もなく肩部ユニットが割れ、砲口が露出する。
「……ッ!?」
「殺った!」
片側五門の発射口から射出される光線を体を捻って躱し、ギアウェポンを殲滅形態で待機させる。
刀身の左右を180度回転させて弓形を形作るのが通常の射撃形態だが、ギアウェポンの機関部に存在する砲口を露出させる様に上下に展開するのが殲滅形態だ。
今回の改修を経て追加された特殊機能でもある。
体を捻った体勢のまま右脚のレッグバックスラスターを作動させ、回し蹴りの要領でリンドブルムを蹴り飛ばすが、リンドブルムは蹴り飛ばされる最中にライフルを連射し、ブースターを噴射する事で蹴りのエネルギーを相殺する。
『反応速度が高すぎです……』
(全く……同感だ)
アルテミシアの判断速度が早すぎるお陰で、激突による気絶を免れる事が出来た。並の相手なら今の一撃でチェックメイトだった筈だ。
「今の一撃には驚いた……が、次で決める!」
その言葉と共に放たれる両肩、両手の全火力射撃。
対し、こちらは一点集中。
『ブラスター、レディ!』
「発射ッ!」
両肩二門の収束ブラスターで範囲迎撃。収束されたエネルギー砲は、マシンガンとマイクロライフルの射撃を容易く食い破り、慌てて回避したリンドブルムを掠め、防護シールドに大穴を開ける。
が、リンドブルムは体を捻った推力をベクトル変更によって加速力に転化。
ライフルの速射、続いてランスによる突貫。サイドブーストで射撃を躱し、ランスを防護術式で迎え撃つ。
ガギュイィィン!
鈍い音を立ててシールドが砕けるが、これで良い。
「なっ……」
ランスを機械腕で引っ掴み、そのまま引き込む。同時に、
『霊力充填完了。オーバーロード・タイプブースト、起動します』
オーバーロードを起動し、自身に凄まじい加速を与え、ベクトル交換術式を起動。
ベクトル交換術式とは、その名の通り二つの物体が持つベクトルを交換する術式だ。
結果、
ドォンッ!!
「きゃあぁっ!?」
玉突きの様な感じでリンドブルムが吹っ飛んでいき、バリアに背中から激突する。
『試合終了。勝者、一条士』
試合終了のアナウンスが鳴り、吹き飛ばしたリンドブルムに向かう。
リンドブルムは機体からスパークを迸らせていたものの、目立った損傷は無かった。アルテミシアの判断が早かったお陰だろう。咄嗟に防護術式を展開したようだ。
「大丈夫か?」
「あぁ。だが、内部機構の損傷が10%を超えている。継続戦闘は難しいだろう」
ギアは戦艦のようなダメージコントロール機能などついていないので、損傷率が20%、30%、㊵%で、小破、中破、大破と定義される。
戦艦のように馬鹿でかい躯体でなく、内容面積も少ないギアには、必要最低限の応急処置システムしか搭載できないのが主な理由だ。
で、内部機構の10%とは、電装系のほぼ殆どが沈黙したことを指す。ギアは精密な機器が多重並列接続されて電装系を作っているので、その中の例え10%でも損傷したら、鼠算式に故障、或いは機能不全が頻発するのだ。
「ぶっ飛ばした身で言うのもなんだが……動けるか?」
「難しいな……さっきから思考操縦システムが云とも寸とも言わない。さっきの一撃でお釈迦になった様だ」
「誰かに運んで貰うか……お、マリア」
丁度ファフニールがアリーナに飛び込んできた為、彼女にリンドブルムを託す。
「彼女を頼めるか?」
「お任せあれ」
頷いて請け負ったマリアに礼を言い、これからの事を考えた。
あの後、戦闘訓練は恙無く終了し、放課後になった俺、集、マリア、アルテミシアは生徒会室に呼ばれていた。
「さて、突然で悪いのだけど、貴方達に魔術師協会から指名依頼が届いているわ。開封して」
そう生徒会長が切り出して俺達の前に一通ずつ配られた封筒を開封すると、中央に六芒星が描かれた魔法陣の周りにオリーブと言う魔術師協会のエンブレムが上に描かれた辞令書が入っていた。
取り敢えず軽く目を通すと、信じられないような内容が目に飛び込んできた。
「何々?……『現時点を以て貴官を、新設する「魔術師協会第二師団第一○独立中隊」の所属とし、遂に発見された侵食者の巣を殲滅する作戦に従事する事を切に願う』……辞令が出てる以上『切に願う』じゃ無くて『絶対に来い』だろうに」
「私も同じ内容です……」
「俺もだ……」
「私もだな」
四人揃って顔を見合わせる。
「兎に角、その辞令の通り、貴方達には侵食者の巣を殲滅する作戦に入って貰います。今現在、艦隊の旗艦は第十三号増設島に停泊していますので、先ずはそこまで移動しましょう」
生徒会長の言葉と共に魔法陣が出現し、凄まじい勢いで回転を始める。
「これは……『転移』魔法!?」
誰か驚きの声を上げ、俺達は光に飲み込まれた。
「……おっと」
「キャッ!?」
浮遊している感覚から、重力に体が捕まる感覚に切り替わったのを感じ取り、着地の態勢を整えた直後に地に足がつく。
常日頃から平衡感覚を鍛えている俺と集、それと、軍事教練で対策をしているであろうアルテミシアと生徒会長は上手く着地できたものの、マリアは自由落下が苦手なのか、はたまた着地をミスしたのかは分からないが、横倒しに倒れ、丁度俺に尻を突き出すような格好になっていた。
形の良いヒップの形から純白のショーツまで、それはもうバッチリと見えた。湧き上がってくる興奮を抑え、マリアに声を掛けようとしたが、
「〜〜〜〜ッッ!!!」
声にならない叫びを上げ、マリアが凄まじい勢いで立ち上がった為に声を掛けるタイミングを逃した。
「お、眼福で頭蓋ぎゃあァァ!!」
言ってはいけない事を口走った集に対し、反射的にこめかみを左右から挟み込んで圧縮。
ミシミシミシ……
そろそろ頭蓋骨が潰れるだろうと言うレベルまでやってから離すと、集は目を回して崩れ落ちた。
どうするべきか考え、
「オブフゥッ!?」
鳩尾に正拳を叩き込む。
「ちょっ、てめ、士!」
「そこそこの強さで殺ったのに起きなかったお前が悪い。あと、マリアの体を舐め回すように見たお前が悪い」
「理・不・尽・だッ!!断固改善を要求する!」
青筋を立てて詰め寄って来る集を見て、俺も軽率だったと思い直す。
……最近、マリアに関する事で精神のコントロールが上手く行かない。病気だろうか?
「全く……少しは落ち着け」
「悪かったよ」
溜飲を下げてくれた集に感謝し、俺達が乗るであろう船を見る。
「あれが俺達が乗る艦……統合多目的戦艦『天羅』か」
集の呟きに頷きで返し、瑠璃色と白と黒で構成された鋭角的な船体を眺める。
自衛隊艦級は統合多目的護衛艦IMPD(Integrate Multi Purpose Destroyer)-110。
明らかに造波抵抗や空力抵抗を無視して設計されている船体は、通常ならばまともに機能するはずが無いのだが、UUSAAF(米連空軍)の開発した「新型エネルギー」によって航行出来るだけの性能を備えているらしい。また、ギアとの連携運用を行う為にだろうが、艦橋から艦首に向けてカタパルトを搭載しているのが見て取れた。
武装も、侵食者との戦闘を行う為に最新の物が搭載されていた。
メインカタパルトの奥側左右に配置された二連装フレミングブラスター(電磁加速砲)と、艦橋の付け根左右に搭載されたMk.45θ/2×3六連装ミサイルランチャーが主武装のようだ。
他には、ドイツ製CIWS「フォールクヴァング」が艦首に四基、艦尾に二基、艦橋に二基。四連装ミサイルランチャーがカタパルトの艦首部分左右で合計二基。英国エンフィールドファイアーアームズ社製多連装レールガン「イノケンティウス」が艦橋の左右……恐らく格納庫……の更に横側に折り畳まれて配置され、Mk.41VLSは格納庫の後ろ左右其々に4×4で16基、合わせて32基が配置されていた。
「……ハリネズミかよ」
「全くだぜ」
思わず漏らした呟きに集が苦笑しながら反応する。
と、唐突に「イノケンティウス」が動き出す。
「う、動いてますよ!?」
マリアの声が聞こえるが、そんなものは見ればわかる。
二つ折りにされていた砲身が一つに戻り、宛がわれていたバレルカバーが、接続された砲身の上に収まる。照準器が機関部の上から迫り出し、展開が完了した。
何をするのかと思っている内に、仰角をほぼ真上に取って発砲。
ドオンッ!!!
「チッ!」
「うぉっ!?」
「きゃあ!?」
「うわっ!」
「クッ……」
発生した衝撃波を緩和する為に術式を展開するが、殺し切れなかった衝撃が全員の体を揺らした。
「相当頭がハッピーな奴が居るみたいだな……」
俺達が魔術学院の制服を着ているのにも関わらずこちらに対する示威行為……はっきり言って馬鹿だ。国際関係を何一つ考えてない。
「だ〜れがハッピーだっつーの!取り敢えず死ねや侵入者あぁぁぁ!!」
「何っ!?」
若い女性の声と共に、ついさっきまで俺達が立っていた場所にクレーターが穿たれる。
「アロンダイト!」
「グラディウス!」
「ファフニール!」
「リンドブルム!」
「リヴァイアサン!」
吹き飛ばされる途中で即座にギアを展開し、戦闘態勢を取る。
「あんたは……」
「多目的戦艦『アマルガム』所属、アーリア・サバナスだ!良い度胸してんなぁオイ!」
クレーターの中心に居た少女に声を掛けると、自信たっぷりな答えが帰ってきた。
「あれは……ランデア・タイプブースト!?」
「知ってるのか?」
集の驚愕に対し質問する。
「あぁ。グラディウスの元となった機体だ」
「……マジか」
『成程、あれがですか……』
言われて見れば、確かに形が似てなくもない。
「何ゴチャゴチャ言ってんだクソが!」
『来ます!』
その言葉に返す暇も無く正拳突きが放たれる。ブースターに点火して避けると、積み上げられていたコンテナに巨大な穴が空き、内容物が散乱した。
「殺る気満々じゃねぇか……」
『知能指数が猿未満ですね……』
少なくとも話し合いをする気では無いのは確かだ。と言うかラピアの言葉が地味に辛辣だ。
「集!」
「了解!」
俺の一言で察してくれたのか、集がアーリアの前に躍り出る。
「悪いが、ちょっくら付き合ってもらうぜ?」
「良いねぇ……粉砕してやらぁっ!!」
『術式反応探知。反応をマップ上に表示します』
集とアーリアが戦闘に入ったのを確認してから、俺はこちらにステルスで近付いて来るギアへの対処を始めた。
アーリアの対処を士に任された俺は、ざっと内容を頭の中で反復する。
(目標は戦闘の収拾。但し殺すのは厳禁……)
『アマルガム』は軍の戦艦であり、そこに乗っているアーリアも無論軍属である。
軍と魔術師協会の折り合いが悪い現状で、軍属の魔術師を傷つけるような事があったりしたら、それこそ関係が悪化する。
……それと、侵食者の大元を叩く以上、戦力は一機でも多い方が良い。
例え連携が出来無かろうが、捨て駒としてなら使う価値があるのだから。
(機体を傷付けないように戦意を喪失させるってのは難しいが……やるしか無い、か)
「せりゃぁ!」
「おぉっ!」
アーリアの右フックをいなし、その反動を使って蹴りを叩き込むが、
「甘ぇ!」
シールドが展開され、蹴りを防がれる。
「チッ……」
『巧い……』
(その通りだ……)
言動こそ馬鹿だが、その実力は本物。右脛を狙い蹴りを放つが、バク転で躱され、急激に加速しながらジャブを打ち込んでくる。
『マスター、行ける?』
(当然!)
左をいなし、右を躱し、左を頭を下げて避け、右を外に払いーーーー!
「よっ!ほっ!はっ!」
「ちょこまかと!死ねえぇぇ!!」
痺れを切らしたのか、アーリアの大振りのストレートを真っ向から迎え撃つ。
ガギイィィン!!!
明るい火花があちこちに散り、拳を押し合う。
「チッ……」
「んのやろぉ!!」
サマーソルトキックを敢えて受け、慣性制御術式を起動。腕が跳ね上がるベクトルを体を回すベクトルに書き換え、裏拳を叩き込む。
「うわっ!!」
吹っ飛ばしたアーリアに間髪入れず追撃。倒れた状態から放たれたヨレヨレのパンチをスライディングで躱し、後ろを取った瞬間、
「潰れろ!」
『フルバーニアン!』
「あぐうぅぅぅっ!?」
グラディウスの全推力を以てアーリアを前後からサンドイッチ。
当然グラディウスも只では済まない。最大加速からの最大減速だ。致命的な損傷こそ無いものの、機体の損傷状況を示す電子警告音が喧しい程に鳴り響いていた。
(損傷状況は?)
『外部装甲損傷率5%、内部機構損傷率8%』
(あっぶねぇ……ギリギリじゃねぇか)
簡潔なリリアの答えに寒気を覚えたが、無事に勝てた事に安堵し、士の方に向かって移動を開始した。
「ふぅ……それで」
「本っ当にすみません!罪は必ずこの馬鹿の命で償いを……!」
こちらに向かって頭を下げてくる茶髪の女性(と、無理矢理頭を下げさせられているアーリア)を見て、軽く溜息を吐く。
所変わって今は艦橋。先程まで、俺達はアーリアと戦闘していたのだが、ステルスで近付いて来たギアを発見し、話をした所血相を変えてアーリアを止めに掛かった。
……そうして、なんやかんやあって今に至る(生徒会長はもう帰った)。
「……んで、何で辞令が行き渡ってなかったんですか?」
「申し訳御座いません!何回も止めたんですが言うことを聞かずに……本当にすみません!」
俗に言う『新入りの歓迎会』的な奴だろう。実際にやられるとこれ程までに面倒くさい物だったとは……
(もうアホで良いんじゃないかな)
『本物のアホだな』
『アホですね』
集とマリアにまでアホ認定されるアーリア(アホ)。
「っだ〜!馬鹿馬鹿言うんじゃねムギュッ!?「この馬鹿が!あんたのせいでこっちは首が飛ぶかも知れないのよ!?少しは自分がしでかした事の重大さを知りなさい!」……え?どういう事?」
ぽかんとしているアーリアに、茶髪の女性は血管を浮き上がらせながら詰め寄る。
「いい!?この人達は『魔術師協会第二師団第一○独立中隊』なの!魔術師協会の直属部隊よ!?最精鋭なのよ!?只の軍人の私達とは格が違うのよ!?この人達が私達を訴えでもしたら、私達は責任取らされて蜥蜴の尻尾切りよ!!何してくれてんのこの馬鹿!」
「そ、そんな偉い奴だったのか……」
サァッと血の気が引いていくアーリアを見ながら、更に深く深く溜息を吐く。
「……と言うか、剣ヶ丘学園の制服を全員着用してたのに、何で襲われるんですか?」
「そりゃ、お前が変な格好してるからだろ!」
ここぞとばかりに俺を責め立ててくるアーリアを見て、少しばかりイラッと来た。
こいつ、俺達が訴えたら即座に首が飛ぶのが分かってないのか?分かってたら相当な馬鹿で、それなのに挑発的な態度を取るのは自殺志願者だけだ。
「ヒッ!?」
転送術式で呼び寄せた暮刃を右手で喉元に突きつけ、左手で抜いたオートマグを眉間に突きつける。
「お前みたいな馬鹿を処理する為だよ」
笑顔を作って脅迫してやると、アーリアは首が取れそうな勢いでブンブンと頷いた。
「そんな事は置いといて、作戦決行に関する情報を下さい」
転送術式を起動し、暮刃を元に戻してから茶髪の女性に話を振る。
「え、えぇ……作戦決行は九月十日で、時間は〇九四六。座標は西経一七五度六分二秒、北緯二三度一分五秒」
「太平洋のほぼド真ん中か……」
集の声に茶髪の女性は満足気に頷き、話を続ける。
「味方は日本帝国軍海軍、UUSASF、UUSAAF、EUMF第三師団、OUSF(オセアニア連合海軍)、アフリカからも幾つか出て来ますね」
「大盤振る舞いだな……それだけ本気か」
「しかし、それでも予想される敵勢力の規模からすると安全とは言えません。なので、優秀な学生で埋める事にしたのです」
「で、俺達、と言う事ですか……」
「そうですね。改めまして、自己紹介をさせて頂きます。米連海軍一等海尉兼日本帝国軍海軍第七師団所属、芹沢恵里菜です。以後お見知り置きを」
「……魔術師協会第二師団第一○中隊所属、一条士です」
所属部隊と名前を告げ、握手をする。
「私は現在、この統合多目的戦艦『アマルガム』……日本名では『天羅』の通信オペレーターをしています。気軽に何なりとお申し付け下さい」
「宜しくお願いします」
そう返した所で、艦内にアナウンスが鳴り響く。
『これより、本艦は出港シークエンスに入る。総員席に着くか、近くの物に掴まれ』
スピーカーから聞こえて来る初老の男の声に、座る場所を探そうとするが、芹沢さんが引き出してくれた椅子に座る事で事無きを得た。
「出港シークエンスを開始します。機関始動、パワーをアキュムレーターに接続。定格出力まで三十秒」
オペレーター席に座った芹沢さんの前に、艦の全体図と出力表、保安状況等が映し出される。
「……定格出力到達を確認。アキュムレーターからメインスラスター1番、2番、3番にパワーを優先的に分配。プライマリーシールド起動。出力を二種類に分割」
ウオォォォン……と低い駆動音が聞こえ、船体が僅かに持ち上がった。
「プライマリーシールドの形状を変更……完了。スラスターの初期出力安定を確認。全武装システムを起動。レーダー、FCS、イージスシステムを相互接続。CIWS、VLSの目標予測システムとの連動を開始」
船体が静かに下がり、ゆっくりと後進し始める。
「……ドック出港完了。百八十度回頭後に船体ピッチ角二五。『システム・アルスマグナ』を起動します」
船体が右に向けて回頭し、駆動音がにわかに大きくなる。
「エネルギーを後部概念翼へ伝達。概念翼からの補助翼伸長を確認。一二番、一三番垂直スラスターを起動。ピッチ角を四五度へ引き上げます」
駆動音が彼方此方から聞こえ、艦首が更に上がっていくのを感じ取る。
「空間機動用システムへの切り替えを開始……完了。最終チェック、完了。IMPD-110『天羅』全システム、接続完了。メインスラスター、最大出力」
芹沢さんの一言で、飛行機の様な加速と共に船体が動き出し、段々と上昇して行く。
「上がった……?」
まさか、航空艦だとは思わなかった。
「外の景色、見ますか?」
「……頼めますか?」
質問に質問で返す形となってしまったが、芹沢さんがこちらに展開した空間投影ディスプレイで、その疑問は解消された。
「おぉ……」
「これは……」
丁度俺の近くに居た集とマリアがディスプレイを覗き込んで声を漏らす。
もうここまで上がってきたのかと言う程に蒼い空。
「上空二万五千メートルがこの艦の巡航高度なの。航空機と接触しない為ね」
航空機の巡航高度が八千メートル程だから、その三倍近く上と言う事だ。
「最大戦闘速度は凡そマッハ1.7。巡航速度は時速950キロメートル。かなりの高速艦よ」
「……高速艦なんてレベルじゃありませんよ」
呆然とする。こんな馬鹿でかい艦をどうやって飛ばしているのか疑問が残るが、そんな事は脇に置く事にする。
「もう巡航に入った様ですし、部屋に案内して貰えませんか?」
「あぁ、そうね。こっちよ」
芹沢さんに問うと、快く案内してくれた。
「……この三つが貴方達の部屋よ。四人で考えて使ってね」
そう言い残して去っていく芹沢さんを見送りながら、部屋割を考える。
「集は一人部屋にするとして……アルテミシアとマリアはどうしたい?」
「おい待て、何で俺が一人部屋決定なんだ」
「お前女子と二人部屋だったら女子を襲うだろ」
「俺を猿みたいに言うんじゃねえよ!」
「ほ〜、へ〜、ふ〜ん」
「あ、いえ何でもないです」
集を目で黙らせてアルテミシアの方を見る。
「……それで、アルテミシアはどうする?」
「私とマリアが二人部屋でも良いのだが、うっかり何かあったらたまったものじゃない。私が一人部屋で良いだろうか?」
「あ〜……そういやそうだった」
アルテミシアは軍属だ。うっかりマリアを敵と間違えて射殺してしまったら目も当てられない。
「じゃ、残りが俺とマリアか……」
「うぅ……」
恥ずかしげに俯くマリアを見ながら、俺は考えを巡らせる。
「……何このバカップル」
「黙れ」
尤も、その心配は杞憂だった様だが。
リアルでの都合により、更新が不定期になると思われますが、ご理解の程をよろしくお願いいたします。




