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NEXUS×NEXT  作者: HS
第3章 夏夜に踊るは刃と花火
18/32

第三話 「オレが感情を暴走させたら?」

……そうして、朝に色々とゴタゴタがあったものの急いで朝食を食べ終えて準備をして、カイザー・ジ・インペリアルホテルの正面玄関前。

現在時刻は9:30分。天気は快晴。風は北東の風で微風。晴れ晴れしい程の夏天気だ。

「すみません、待たせてしまいましたか?」

「いや、そんな事はーーーー」

と言いかけた所で思わず口を止めそうになる。単純にマリアの服装が可愛らしい物だったからだ。

各所にフリルのあしらわれたシックな白のワンピース。顔には薄くファンデーションがかけられており、マリアの銀髪と白色の肌に良くあっていた。

とは言え、ここで言葉を止めてやるのも癪なのでそのまま言葉を紡ぐ。

「無いよ。マリアこそ、随分と可愛らしい服装だね」

「え?そうですか?……あ、ありがとうございます」

一寸したお返しも兼ねてマリアの服も褒めてみると、顔を少し赤くして恥じらいながら礼を返してきた。

ヤバイ、すっげえ可愛いんだけど。

「とは言え、肝心の僕がこんな服装で大丈夫かなぁ……」

僕は渋面を作りながら自分の体を見下ろす。

僕の服装は白のシャツ、黒の長ズボンとパーカー。

ぶっちゃけて言えばなんの代わり映えも無い服装であり、この服装で、十分におめかししてきているマリアに釣り合うかと言われたら微妙な話だ。

「いえ、士さんも十分に格好いいですよ?」

マリアから励ましを貰う。正直、気後れしている人間にはありがたいので素直に受け取っておく。

「ありがとう、マリア」

「どういたしまして」

そう言って微笑むマリアの姿は、何故だかとても輝いて見えた。

「所で今日はどうするんだい?僕は土地勘が無いからマリアに頼るしか無いんだけど」

「そうですね……ここからですとショッピングモールが近いので、今日はそこで何か探しましょうか?」

「成程、それで良いよ。さぁ、行こうか」

「はい。行きましょう」

十分程雑談しながら歩いてショッピングモールに到着し、そこから色々な物を見て回る。マリアが興味を示したのは、以外にもペットショップだった。

「おぉ……このフサフサとした毛並み、正しくゴールデンレトリバー!」

「珍しいね。マリアがこんなのに興味を示すなんてさ」

「そう、でしょうか……?」

「マリアがこう、何か属人的な趣味を持つことが珍しく思えてさ」

「属人的なとは失礼ですね。私だって人間ですよ?」

怒っているように見せているが、頬を膨らませているせいで台無しになっているマリアの顔を見ながら思索を巡らせる。

………………………そういえば、

「何でマリアに声を掛けて来ないんだろう」

そう。マリアは皇女の筈なのに誰も声を掛けて来ないのだ。普通ならもっと目立っても良いと思うのだけど。

その何気ない言葉に反応したのか、マリアが答えてくれた。

「いえ、普通に姿を晒して歩いているのですから皆気付いているでしょう。声だって掛けるかもしれません。でも、私と歩いている男の人が居る。つまり、私に認められた人が隣にいると言う事です。そこにもし手を出したらどうなるかは、士さんが一番良く知っていますよね?」

「………………………成程。要するにマリアに気を使っている、って事かな?」

「はい。その認識で構いませんが、自分の事も勘定に入れてくれると嬉しいですね」

そう言いながらこちらに近寄って上目遣いで見つめてくるマリア。必然的にマリアの慎ましやかだが十分な大きさを持つ胸の膨らみに目が行ってしまいそうになるが、そこは精神力で堪えてそのまま話を続ける。

「……まぁ、前向きに善処するよ」

「またそう言ってばかりですね」

ぐぁ……地味にダメージが来るなぁ。

「兎に角、その犬はどうするの?」

取り敢えず話を元に戻す。

「そうですね……名残惜しいですが諦めますか。流石に学生寮では飼えませんしね……」

学生寮で飼う気だったの!?……餌代とかはどうする気だったんだ?

「第一皇女と言う身分上、私には幾らか自由に出来るお金が有ります。それを切り崩して使おうと思ったのですが……」

流石一国の皇女。金の使い方が半端ない。

……いつか死ぬ生物の為にそこまで金を使うなんて。

(ーーーーおっと)

僕の価値観を人に押し付けたところで意味など無い。マリアは僕の雰囲気に驚いたのか、こちらの出方を伺っている様子だ。

「……取り敢えず、お昼にでもしようか?」

「……はい。そうしましょう」

間に合わせ感は拭えないが、鬱気分を払拭する事には成功した……と思いたい。










「………………………今日は楽しかったですか?」

「うん、楽しかったよ。ありがとう」

その日の夜のホテルの中で、僕達は軽く反省会をしていた。

「私としては、もう少し士さんにも楽しんで頂けるとありがたいのですが……」

「いや、そんなこと無いって。とても良く出来てたと思うよ?」

しゅんとしてしまっているマリアを慰めると、マリアはニッコリとした笑顔になって、

「なら、ご褒美位強請ってもいいですよね?」

と言ってきた。

……しまった、言質を取られた。

と思った時は既に遅く、僕とマリアは一緒の布団で寝る事になってしまった。

何故一緒の布団で寝る事がご褒美なのか気になったが、そこは努めて考えない事にした。













アルナとの模擬戦の日。一昨日練習した王立特別競技場、その第一発進ゲートで僕はマリアに見送られていた。

「それじゃ、行きますか」

軽く意気込んでそう言うが、

「はい。ご武運を」

真剣そうな目でそう言われてしまった。

……参ったなぁ。こういう空気は余り得意じゃないんだけど。

「ありがとう…………一条士、アロンダイト。発進します!」

音声入力で自動起動したカタパルトに乗って、僕は試合の場へと上がっていった。

「……さて、よく逃げずにやってきたな、下郎!」

アリーナに上がった僕を待っていたのは、アルナのそんな一言だった。高飛車な性格、傲慢な態度、見下した目、恐らく完全にこちらを舐めきってるな。

………………………まぁ、その方が「調教」のしがいがあって高くつくって事かな?政略結婚ってのはよく分からないね。

アルナが身に纏っているギア、“ヨルムンガンド”の武装を確認。両手に中距離用のエネルギーマシンガン?かなり珍しい武装構成だ。近接兵装を装備していないのは慢心か、油断か……

「相変わらず僕を舐めきってるみたいだけど、足元を掬われる用意は良いかい?」

取り敢えず挑発してみる。

「馬鹿にして!見ていなさいっ!」

どうやら慢心のようだ。

『模擬試合、開始です』

「さぁ!さっさと!墜ちなさい!」

『ドライバー!緊急回避を!』

「うわっと!」

開始の音声コールと共に放たれた三連射をサイドブーストで回避して後退する。

「危ないなぁ……」

正直、フライングギリギリだったと思う。勿論セーフじゃ無くてアウトの方。

「問答無用!」

「チッ!」

両手のマシンガンから降り注ぐエネルギー弾を鋭角的な連続ブーストで回避し続ける。

(……あれは?)

何だ?弾幕が薄くなってる?

『明らかに罠ですね』

だよね。って言うかバレバレ過ぎないか?

『誘い……と言う訳では無いでしょうし』

そうだね。あんなにバレバレな誘いなんてあるわけ無い……よね?

『もしこれが本当に誘いなら、アルナさんの戦術眼が心配になってくるレベルですね』

と言うか十中八九誘いで合ってるだろう。

……どうしようか?

『乗ってみてはどうでしょうか?機体スペック面ではこちらが圧倒。搭乗者の技量もこちらが僅かとは言え上回っています。万が一罠でも心配する必要は無いと思われますよ?』

そうだね。それが良いか。

取り敢えず弾幕が薄くなっている所にアロンダイトを突っ込ませる。

「フッ、掛かったわね!!」

大声で宣言するアルナ。一体どうしたんだ?

『ドライバー!後方からエネルギー反応です!!』

チッ、本命はこれか!……ターンブースター起動、最大出力!

『了解!』

メインブースターと左側のスラスターの推力をカットし、右側に存在する全てのスラスターを最大出力で吹かす。

グンッと言う擬音が付きそうな勢いでアロンダイトを旋回させ、どんでん返しの様にエネルギー弾をやり過ごした僕は、コンピューター補助を活用しながら思考を高速で張り巡らせる。

……ラピア、あれは遠隔発生だった?

『いえ、術式起動の反応は観測されませんでした。ギアウェポンと同様の、霊力をエネルギーに転換して射出する類の物と推測されます』

正に、姉妹揃って“魔弾の射手”か。でも、これでタネは割れた。

相手が使っているのは遠隔誘導端末で、単純にエネルギー弾を放出するタイプだ。それに光学迷彩や金属反応欺瞞等の隠蔽術式を掛けて文字通り透明にしているのか。

……ラピア、探知術式とハイパーセンサーの支援を切って。

『……成程、ハイパーセンサーでは逆に鋭敏に感知し過ぎて処理が複雑化するからですね?』

現在、僕の視界にはハイパーセンサーによって隠蔽を暴かれた端末の位置のみが投影されている。形や色等は全く分からないので点だけだが。

その処理だけでも演算リソースを食ってしまうので、いっそのこと全部切ってしまえ、と言う訳だ。

(そう。で、ハイパーセンサーとかの分の処理を全部航行制御に回してくれない?)

『了解しました。処理を開始します…………………完了』

ラピアの言葉と共に360°の視界が肉眼の視界に収束する。

よし、思考を開始してからここまでで0.1秒。素早く辺りを見回して、こちらにやってくる二条のビームを視認。

『シールド、展開します』

二条のビームはアロンダイトの霊力防壁を突破出来ずに四散し、僕は上にブースターを吹かして離脱する。普段から10%程度の処理を割いているハイパーセンサーを使っていないお陰で駆動系のレスポンスが大分向上しているので使い勝手が良い。

「……!?き、急に動きが!」

アルナが何か言ってくるが、構っている暇はない。

メモリー領域に格納している術式から、隠蔽系の対抗術式を検索し、実行に移す。

「インビジブル・レジスト」

『インビジブル・レジスト、起動します』

音声コールをラピアが復唱し、術式を起動。見えざる物を見える物へと引き摺り下ろしていく。

「た、対抗術式ですって!?どうしてこんな物を!?」

……あぁ、そうか。対抗術式は本来なら二年生の後半に習うんだっけ。でも、アロンダイトはラピアが演算を代替してくれるから細かい調整が要らない。この機能は術式に不慣れな僕にとってありがたい物だ。でも、そんな事を馬鹿正直に教えてやる必要は無い。

「さぁ、何でだろうね?」

真実は秘匿するもの。情報戦の基本だ。

視線を動かし、現れた遠隔誘導端末を見遣る。どこか羽のような形状の基部に透明なパーツが挟まれていて、そこから光が漏れていた。あのクリアーパーツが発振器みたいだ。

その端末が全部で六基、アルナの周りを浮遊していた。詳しく見れば、開戦前と今では、肩部ユニットと腰部ユニットの形が変わっている。射出した後にカバーしてバレないようにしていたのだろう。

「クッ……まだ、まだ行けます!!」

そう言って遠隔誘導端末……ビットで良いや……と両手の銃から一斉に光弾を放ってくるが、焦っているのか照準がバレバレだ。

「残念だけど、ここで打ち止めだ!」

両手の大型ブレードを連続で振るって六条の光線を弾き飛ばし、マシンガンの銃弾をシールドで跳ね返す。と同時にシールドの属性を対物障壁に変更して突撃。ヨルムンガンドを跳ね飛ばす。

「きゃぁぁぁ!!!」

20t近い金属の塊に運動エネルギーが加わった突進をモロに受けて、ヨルムンガンドが面白いような速さでぶっ飛んでいく。

「これで……!」

『腕部霊力バイパス開放。霊力炉最大出力』

ギアウェポンを弓に変形させてエネルギーを充填。開放しようとした所で爆音が鳴り響く。

ドオォォォォン!!!!!

「な、なんだ……!?」

「一体、何事なのです!?」

霊力砲のチャージを継続し、エネルギーを保持したまま爆音の発生源に目を向けると、一機のギアが飛び出してきた。

「……敵、か」

装備と機体形状を確認。種類はランデアだが、機動性特化のカスタマイズパーツを各所につけている。総合推力は恐らくウインダムに匹敵するだろう。そして敵ギアが盛大に開けた穴からワラワラとボディースーツを着た人間が出て来る。

ウゥゥゥゥゥゥーーーー!!!!!

辺りに警報が鳴り響き、通用口から王立軍の兵士が現れ銃撃を開始するが、敵のボディースーツは頑強で銃弾を貫通出来ていない。

「これだと……」

物量で押し切られる。王立軍の兵士の人数が10人程度。敵の人数は30人は居る。このままだとジリ貧だ。

「士さん!!これは一体……!?」

「まっず……!」

「姉様!!逃げて!!!」

マリアの声を聞いて思わず青ざめた。丁度そのすぐ側に敵ギアが居たからだ。

「………………………死ね」

敵ギアの操縦者から声が聞こえる。マシンボイスで改変されているはずのその声に深い怨念が篭っていたのをはっきりと感じ取った。

「い、いや、あぁ、あ、あ、あぁぁぁぁ」

拙い、マリアが完全に怯えている。これだととても逃げ出せそうにないな。

「ねっ、姉様!!」

「あ、馬鹿!」

アルナが飛び出していったのを慌てて止めようとするが、アルナは敵ギアの回し蹴りで弾き飛ばされてしまった。

「い、嫌……来ないで、来ないでぇぇ!!!」

マリアの懇願も虚しく、敵ギアはゆっくりと近づいてくる。恰も死の直前に恐怖を植え付けるかの様に。

敵ギアが銃を向ける。

マリアが目を閉じて蹲る。

このままだと、

マリアが、

ーーーー死ぬ。

「………………………何やってんだ?俺」

その途端、俺の意識は漆黒に投げ出された。

境界の間、無謬の隙間、そうとしか言いようの無い場所に投げされ、今までの事がビデオを再生する様にフラッシュバックする。

あの時に感じた物はーーーー深い後悔と、痛烈な寂寥感。

それを二度と感じたく無くて今までやってきたのに、それを再び起こしそうになっている自分がいる。

どうすれば良い?どうすればこれを止められるーーーー?

「………………………簡単だ」

あいつを、殺せばいい。

「オーバーロード・フルブースト」

左手に充填されているエネルギーをブースターに回して現状出来る最大の加速で敵ギアに突貫。右手のエネルギーを顕在化させ俺自身が一本の槍になって敵ギアに突き刺さる。発生した衝撃波でアリーナの地殻外壁が木っ端の様に捲れ上がり他の人間を吹き飛ばしていくが、気にしている暇はない。勿論王立軍の兵士とマリアは吹っ飛ばされない様に防壁で囲ってある。

敵はシールドで防ごうとしたが勢いのついた一撃を防ぐ事は出来ず、シールドを軽々と貫通して敵の腹にめり込んだ。

「グハッッ」

凄まじい勢いで鮮血を吐瀉する敵を見下ろしてトドメの一撃を与えるべく剣を振り上げた所で、

「待って下さい!士さん!!」

マリアに止められる。

そこで、急激に頭が冷えていくのを実感した。

………………………なんだ、今の感覚は?良く分からないが、今は保留にしておこう。

「おい、士!大丈夫か!?」

「一条士。大丈夫?」

こちらに走ってきたリリアと相変わらず間が良いのか悪いのか良く分からない所で登場する集の声を聞いた時には、さっきまでの激情が嘘のように遠ざかっていくのを感じていた。

「……あぁ、うん。大丈夫だ」

「そうか……なら良いんだ」

周りを見回すと敵兵は大部分が衝撃波で肉塊と化しており、残った敵も掃討が始まっていた。

「つ、士さん……さっきは、助けていただいて、ありがとうございました」

一歩、二歩と後退りながら言葉を発するマリア。何故怖がっている様に見えるのかを少し考え、その理由に思い至った。

「マリア、人の死体を見るのはこれが初めて?」

人の死体と言うのは、初めの頃は余り慣れない物だ。僕はそんな物はとっくに克服しているのでどうと言う事は無いのだが、人の死体を初めて見る人間にはそこそこ堪えるだろう。

「いえ、そうではなくて……それもそうなのですが、それ以上に…………すみません、うまく言葉にできません」

顔を俯け、言葉を絞り出す様にして話すマリアの中に、僕は深い恐怖の感情を読み取った。

「いや、大丈夫だ。先ず心を整理して落ち着こう」

でも、慰めるのは後で出来る。僕がやるべきことは、敵の巣窟に巣食う屑共を一片の肉片も遺さずに殺し尽くす事だ。

「心を、落ち着ける……出来ました。もう大丈夫です」

マリアも取り敢えずは落ち着いた様だ。

……さて、こんな事をして下さった奴等を一匹残らず駆逐しますか。

「……貴方はどうするんですか?ーーーークラノディア皇国全権統括官、アルガ・ナキア・フェイリス」

「……やれやれ。隠行は得意な筈だが、鈍ったか」

「お、お父様!?」

虚空から光を伴って出現したのは白髪の偉丈夫。歳は……50歳程だろうか。立派な口髭を蓄えたその姿は北欧の主神を想起させた。

「もしもの時は私が体を張って止めるつもりだったが、どうやら必要なかったようだな」

ニカッと破顔しながら話すアルガさんの姿は、親としての深い愛情が溢れていた。だが、

「それで、お前さんこそどうするのだ?」

僕に向き直った時には厳しい視線でこちらを見据えていた。こちらが国王としての顔の様だ。

「潰します」

僕の答えは簡潔だった。

「潰す、とな?」

視線に一層の圧力が掛かったのを感じ取る。

「友人に手を出されて黙っている程、僕は聖人じゃありません」

「では、どうすると?」

「一人残らず存在を消し潰します」

暫く、睨み合いが続く。マリアはじっと見守っている。集は……完全に蚊帳の外だから、まぁ良いか。

「……良かろう。好きにすると良い」

体感で一分位続いた睨み合いの後、沈痛な面持ちで、然し確固たる決意を持って許可を出すアルガさんに思わず面食らってしまう。

「本当に……ですか?自国の民が居るかも知れないのに?」

ついついそんな言葉が口を突いてしまう。

「ああ、そうだ」

国王は簡潔に肯定する。

「国民はマリアの事を知り、皆愛している。だが、今回の輩はマリアを殺そうとした。それは詰まり、その時点で国民ではないという事だ」

「……成程」

苦虫を噛み潰した様な顔をする辺り、苦渋の決断なのだろう。だが、為政者としての自分と、親としての自分の中で葛藤して出した結論だ。否定はしない。寧ろ尊重すべきだと思う。

「お父……様」

マリアもそれを分かっているのだろう。嬉しい様な、悲しいような、複雑な表情で己の父親を見ている。

……ただ、それは僕にとって重要なことでは無い。マリアを害した敵を殺す。その許可が出ただけで十分だ。

「……わかりました。俺達の全力を以て敵を殲滅します」

ここで漸く今まで存在が空気だった集が会話に入る。ただ、俺達、と言うのは一寸頂けない。

「御免、集。今回は僕一人で殺らせてもらえないかな?」

「なんだ?士、何言って……」

僕の方を向いた集が言葉に詰まる。何だろう?僕は普通に笑ってるだけなのになぁ。

「それで、いいかな?」

「は、はい。どうぞです」

普段のおちゃらけた仮面がすっかり剥がれ落ちている集はほっといて周りに目を走らせると、大部分の人間は腰を抜かしていた。マリアも一歩後退って怯えの感情を現わにし、唯一アルガさんは平静を装っているものの、隠しきれない冷や汗が滲み出ていた。

「じゃあ、行ってくる」

っと、その前に。

(ーーーーラピア)

『了解しました。探知魔術を起動……完了。同時にネットワーク接続を開始。街頭カメラ及び皇国上空を航行中の軍事衛星の映像を掌握。解像処理。遺体の頭部復元。モンタージュ作成。画像照合。履歴追跡…………完了。一件の該当を表示します』

表示された位置はアーセナル市の真南外縁部にある小高い丘の中腹辺りにあるビルだった。

(ここであってる?)

『確率は87.51%程です』

それなら大丈夫だろう。

『ありがとうございます』

どういたしまして。

……さて、遅れるかも知れないから、全力で移動しよう。

『全力って……まさか!?』

そのまさかだ。視界共有して目を回さないでよ!

『は、はい!!』

ここがアリーナの中で良かったよ。全力で跳躍出来る。

ドゴンッッッ!!!

凄まじい音を立ててアリーナの地殻外壁が放射状に陥没し罅が入るのを感覚で感じ取った僕は、上空100m程で辺りを見回していた。

「南は……あっちか」

演算スタート。霊力抽出。方向固定。分子収束。開放。

ドオッ!

簡単な風を発生させる魔術を使って空中を移動し、目的地へと向かう。同時にラピアの助けを借りて隠蔽術式を起動。軍事衛星からの監視を遮断する。

「演算は……もう一寸回転を上げられるな」

術式を維持するサイクルを簡略化して余剰分を加速に回す。これで大体旅客機並みの速度が出る。マリアとかなら生身でも亜音速程度まで加速できるらしいけど僕は術式に不慣れだからそこまで早くは出来ない。

二分程で目的地に到着し、五階建てのビルを見上げる。

「来い。暮刃」

転送術式で暮刃を呼び出し腰に吊るし、何時もの服の中に入っている装備があるかどうかを確認してからビルの中に入る。

……あ、そうだ。

ーーーー起きてる?零。

≪起きてるさ。で、どうしたんだ?≫

ーーーーあいつらを殺す。零に体の制御を渡すから、存分に殺って欲しい。

≪……ハハッ。サービスが効いてるじゃねぇか。良いねぇ、そう言うの。良し分かった。殺ってやろうじゃねえか≫

ーーーー前にも言ったと思うけど、マリアに手を出すのは許さないよ。

≪オーケーオーケー。分かったっての≫

「グッ……」


零に体の制御を明け渡すと、意識が遠ざかっていった。

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