第五話 「人の尊厳は時と場合によって無視される」
暫く時は過ぎ、文化祭当日。校門の投影型ホロスクリーンには『本日文化祭開催中!』と言う文字が浮き出ていて、校門から校舎まで一直線の正面通路には所狭しと露店が並んでいた。
魔術学院は治外法権と言う形を取っていても学校としての国の分類は“国立特例特務学校”なので国からは毎月補助金が出るし、“国立”である以上国の企業からの勧誘などは避けられない。
魔導産業は何処の国でも最重要視されているが、魔術学院を卒業した生徒、詰り良質な魔術教育を受けた者は数が限られている。その為、戦闘が嫌い、又は戦闘をしたくない魔術師は“魔導工学技師”と呼ばれ、専門の教育を受けて各企業に技師として赴任していく。
その技術者を獲得する為の根回し(身も蓋もない言い方をしてしまえばそうなる)として国内の先進企業が挙って出店しているのだ。
…………下らない現実逃避は止めにしよう。
僕は、
今、
人生で、
こればかりは二度とやらないと心に決めていた、
ーーーー女装をさせられていた。
「いや〜似合ってるねぇ、凄いもんだねぇ」
僕に女装をさせた張本人である少女、袖無愛歌はそういった。
僕の顔は、まぁ中性的であると自覚はしているが、何もここまで女に似せなくても良いんじゃ無いかと思う位に化粧が施されている。
「その……本当に……よく似合っていますね」
マリア、少なくともそれは僕の心を更に抉る物だと自覚してほしい。いや、本当に。
ゲラゲラ笑っていた集には睨みを効かせてやった。後でバックドロップをかけてやろう。
僕が女装を嫌いになったのは2年前の事で、暗殺対象だったとある御曹司がよく入り浸っている社交会に僕が潜入したのだ。
集よりは僕の方が適任だったから集は裏方に徹してオペレーターを勤めていてくれた。当時は女装に抵抗はなかったので女装して潜入したのだが、その御曹司が気持ち悪過ぎる程のキモ男で、挙げ句僕に襲い掛かってきたのだ。無論、性的な意味で。勿論ちゃんと殺したし貞操は守ったが、人目がある故何も反抗出来ずに連れられてベッドに押し倒されたのは流石に気持ち悪かった。帰った後丸4日寝付けなくなった位だ。
それ以来女装には精神的抵抗感があったが、この際そうは言ってられない。
僕が何故抵抗できなかったかというと、僕はどうやら女装すると思考や情動が女に近くなってしまうらしい。そのせいでキモ男に迫られた時恐怖感が前面に出てきてしまったのだ。
そうして誰にしたかも分からない解説を終え、自分の姿を見るべく鏡を見る。
先ず目に入ったのは自分の目だった。マスカラが施された目は実際より目を大きく見せていて、薄く口紅が塗られている。
髪の毛は無論カツラ。無理を言って青髪にさせてもらった。こっちの方が落ち着くからだ。
胸にはパッドが入れられている。所謂その道の人たち用の物だ。何故袖無さんが持っていたのかは敢えて聞くまい。
体を包むのは剣ヶ丘学園の女子の制服だ。普段着ている靭化合成繊維製の制服と比べると薄地で被覆面積も小さいから心許無いが、まぁ我慢するしか無いだろう。
ウエストも絞っているせいで、僕はぱっと見女と見分けが付かないレベルになっていた。最初の女装は自分でやったので拙かったが、この女装はプロのスタイリストに匹敵するレベルだ。そこに、袖無さんの本気度合いを見ることが出来た。
尤も、その苦労は徒労に終わる可能性が高いが。
『ドライバー。銃器及び爆薬携帯反応者が多数存在しています。いかが致しますか?』
格納庫にいるラピアから通信が入ったので僕は身体感覚の半分を通信用に割く……ラピア、火薬の位置反応と組成から銃器の種類を逆算して。
『解析完了。米国陸軍銃器M4の反応が21、露国軍用自動小銃AK-74の反応が23、米軍連装機関銃M134の反応が15です』
M134か……バッテリー、その余剰微弱放電はあった?
『いえ、有りません』
……成程、パワードスーツか。
『ええ。その可能性が高いと思われます』
軍用にパワードスーツが投入されたのは、別に最近のことではない。2040年に起こった世界大戦でユーラシア大陸の中央はすり鉢状に消滅し、アフリカはその殆どが無政府状態に陥っている。すり鉢状に消滅したのは、当然熱核兵器の使用があったからだ。幾つもの国が小競り合いをしていた間に大国が割り込んでパッパとその国を植民地化してしまったツケ、と言えばそうなるが。
その影響で誕生したのがパワードスーツだ。歩兵をより強く、より速くさせる為の装備で、第三次世界大戦後の列強諸国で開発が行われ、門外不出の技術となっているのでこれを使える国はかなり限られてくる。逆に言えば、相手も殺す気で此方に掛かってきていると言う事だ。
『集、今政府組織に雇われている傭兵は?』
『FBIに3人、KBGに2人、NSAに4人、SISに3人。何れも戦力としてみればお前以下だ』
集に通信回線を入れると、即答で答えが返ってきた。
『ありがとう。助かったよ』
『どうかしたのか…は聞くまでもないな』
そして察しが早い。
『ラピアのハイパーセンサーに引っ掛かった。そっちでも確認しといて』
『分かった………成程、M134か』
集もリリアに頼んで確認したみたいだ。
ギアのハイパーセンサーはレーザーや超音波、赤外線、紫外線、X線、可視光などの多重センサー群とそれを処理する情報処理中枢からなるギアのもう一つの目だ。ギアはその正式名称が指すとおり“兵器”なので、当然確実性の薄い魔術による探査と同時にこの機能も使用されている。
ハイパーセンサーと探知魔術の双方に利点があるから、と言うのが建前だが、もし何かあって操縦者が動かなくなっても味方に情報を送る為についていると言うのは魔術師の間での暗黙の了解だ。
とは言えハイパーセンサーは高性能で、今も学園中央の地下200mにある格納庫から学園敷地外周にある探知波遮断材を使用した特殊工作車両の内部を鮮明に映し出している。
『何か動きがあったら連絡して。どんな事でもいいから』
『了解しました。再度動きがありましたらご連絡致します』
ラピアに連絡を入れてから通信を切り、顔を上げる。
「どうかしたの?」
袖無さんに心配されている。何か誤魔化さないと。
「いや……このせいで親に着せ替え人形にされたことがあって、ちょっとね」
勿論真っ赤な嘘だ。僕の両親は6年前に殺されているし、両親も僕にかまけていられる程暇人では無かった。だけどその中でも精一杯愛情と呼べる物を注いでくれた事を記憶している。
「おぉ、その人わかってるぅ」
どこがどう分かっているのか小一時間位問い詰めたかったが吐きそうな溜息をこらえて前を向き姿見をしっかり見る。どこからどう見ても女の子にしか見えない蒼髪の僕が、悲しげな瞳をして此方を見ていた。
学園祭は8:30分から午後4:50分までと、六時間制である魔術学院の時制を反映した物となっている。
今は朝七時。開催前の最終準備だ。
「さぁ皆、張り切っていきましょ〜!」
「「「おおぉぉ〜〜!!!」」」
一躍クラスのムードメーカー的な存在になってしまった袖無さんに釣られ、かなりの人数が声を上げる。
「お、おぉ〜……」
一人乗り遅れてしまった僕は控えめに声を上げる。これだから女装は嫌なんだ。
パシャッ!
……集の隠しカメラが一瞬だけ光ったのを見逃さなかった。後で締めてやる。
「さて、不肖この袖無愛歌、一条詩織ちゃんをメイド隊隊長に任命したいと思います!」
「……え?!僕……じゃなくて私!?」
この一条詩織と言うのは僕が女装したときの名前だ。袖無さんにパパっと付けられてしまい、拒否することも出来ずに今に至る。
「トーゼン!詩織ちゃんルックス良いからねぇ!」
「「「ウンウン」」」
……この時程自分の女顔が恨めしく思ったことは無いだろう。
とは言え、ここで何かアクションを起こしておかないとマリアのクラスの交友関係に響く。
「ハァ……分かりましたよ。やれば良いんですよね?やれば」
肩を竦め、首を振りながらも肯定の意志を示すと、袖無さんはあからさまに安堵した表情で、
「よかった〜!!断られてたらどうしようかと思ってたよ!」
と言ってきた。口振りから察するに断っていても何かやらされていたのだろう。見ればマリアは少し残念そうな顔をしていたが、その理由については努めて考えない事にした。
「それじゃあ、隊長さん。声掛けお願い!」
そう言って袖無さんはぼくを押し出してくる。
「え?ちょ、ちょっと……!」
ジーッと見つめてくるクラスメイト達に対して何を言うべきか迷ったが、一番オーソドックスな物を選択した。
「えっと……皆さん、精一杯頑張って下さい!」
「「「ハイッ!」」」
こうして、僕達のメイド喫茶は恙無くスタートしたのだった。
「ご主人様!どうぞこちらに!」
「さぁ、お嬢様?どうぞこちらへお出で下さい」
僕と集で呼び込みをしながら外の特殊装甲車両にも警戒をしておく。執事とメイドの二人一組で行動しながら客引きをする作戦は成功のようだ。僕は満面の笑みを浮かべて、集はニヒルな笑みを浮かべてそれぞれ客引きをしている。
……それにしても随分久しぶりに満面の笑みを浮かべた気がする。愛想笑いならば体に染み付くレベルでやって来たが、満面の笑みはやはり何処か難しい。
最後に笑ったのは何時だろうか……確か両親が死ぬ数日前だと記憶している。
それにしても、集には執事服が似合っている。前から黒礼服の類は似合うと思っていたのだが、最近更に磨きがかかってきたような気がする。
「……集」
「お?なんだ?」
「……似合ってる、かな?」
「あ、あぁ!す……すげぇ似合ってる」
こちらを向いた集に軽く一回転して話しかけると、集は凄まじい勢いで首をブンブンと振りながら返答してきた。
全く。少しは普通に返答してくれても良いものを………………………ッ!?
「………………………ごめん。集」
「はぁ……気をつけろよ?」
……僕の悪い癖だ。与えられた役に必要以上にのめり込んでしまう。
周りの人は一歩引いた用にしてこちらを見つめている。視線を判別する限り、「仲の良いカップルだなぁ……」程度にしか見られていないようだ。
「お〜お〜、お盛んだねぇ!」
「「うわっ!?」」
視線にどう折り合いをつけるか悶々としていると、何時の間にか後ろに居た袖無さんに肩を叩かれた。
「いや〜、ほんとカップルにしか見えないって!何々?禁断の扉でも開いちゃった?」
「「それは無い(な)」」
「あっ……そうなのね」
即断で否定すると、袖無さんは察してくれたのかすぐに引き下がってくれた。
実際、集に対する感覚は「幼馴染」と言うより「ガキの頃から一緒の大親友」の方が強い。
集と出会ってから五年ほど経つが、未だにその感覚が抜け切っていない。それは集も恐らく同じだろう。
「それより、交代の時間だよ?遊びに行ってきたら?」
袖無さんから言われて携帯端末を見ると、確かにシフト一杯まで時計の針が回っていた。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ。行こう?集」
「あ、あぁ」
集の二の腕を引っ掴み更衣室へと向かう。袖無さんの「本当にカップルみたいだったなぁ……」と言う発言は、心の奥底深くまで蓋を溶接して沈めておこうと思う。
「さて、どうやって怪しまれず自然に出入りするか……」
それから十分程経ち、更衣室前にやって来たのはいいが、僕は現在進行形で途方に暮れている最中だった。
入る時は女子、出る時は男子と言うこの状況をどう打開するか凄まじい速度で思考処理を行うが、どっちに転んでもまず良い結果が出できそうにない。
と言うか防犯カメラが更科に抑えられている以上連中の話のネタにされるのは明々白々だ。
(………………………ギアの格納庫を使おう)
そう思い立ったのは思考を開始してから数秒後の事だった。
「さて、何処を回ろうか……」
一人そんな事をごちるが、言葉を返してくれる人間も居る筈が無く(集にはきちんとお仕置きをしておいた)、僕は軽く頭を捻る。
(まぁ、こんな所にいても無駄なだけだ)
そう思い直して移動を開始すると、暫くして興味深い看板を見つけた。
「的当て……か」
かなり懐かしいやつだ。一昔前位に蒼華と織奈とやった記憶がある。
「子供に帰るのも悪くない……か」
教室に入り、参加料(200円程だ)を払って的を見て、思わず苦笑する。
「えっと……これは?」
人形の頭と心臓に「100」が書かれており、そこから同心円状に点数が書かれている。
細部こそ違えど、軍や法執行機関の射撃訓練で良く見かけるアレの様だ。
「あ、ウチの委員長が警察にツテを持ってまして。沢山借りる事が出来たんですよ」
見た感じ案内係の様な女生徒の説明で納得がいった。
恐らく警察の在庫処分の代わりだろう。
「……警察向けの射撃標的T-19、か」
新型(何が新型なのかは分からない)のT-20に更新中のやつだった筈だ。
僕がボソリと呟いた言葉を聞き逃したのだろう。既に女生徒は使用する銃の説明に移っていた。
「使用する銃は自分のも使えますが、弾薬はこちらの弱装弾を使用してもらいます。自分の銃はお持ちですか?」
ゲリラ戦やテロ事件等が横行した第三次世界大戦で銃社会に対する偏見は綺麗さっぱり消し飛んだ為、ここ法治国家日本でも銃の携帯は認められている(あくまでも携帯だけだ)。まして、“国の卵”と呼ばれている(冗談でなく本当)魔術師はいざというときの護身用に銃を持つケースが多い。寧ろ国が積極的に奨励している節がある(マリアのように銃を持たないケースは本当に稀だ)。
「僕は自前の銃があるので大丈夫です。弾は……」
「あ、はい。これです」
差し出された二十発一箱のケースを開け、オートマグをホルスターから抜いてマガジンを取り出し、チャンバー内に残った一発をコッキングして抜き取ってから銃弾を予備のマガジン内に仕舞う。
八発の薬莢をマガジンに入れて銃に装填。スライドを引いて安全装置を解除する。
「的は二番を使って下さい。五百点以上を取れたら景品を受け取れます」
「分かりました」
距離は目測で30m、百点の的は直径15cm程度の真円状。100mの距離から敵の頭蓋をブチ抜いた事もあるので恐らく失敗はしないだろう。
いつも使うウィーバースタンスでは無く、しっかりと的に向けて正面に構えるアイソセレススタンスで照準。照星と照門を一直線にして的に向ける。反動を制御する為に膝を曲げて前傾姿勢をとって更に照準を微調整し、照門と照星と標的が一直線に並ぶ。
すかさずトリガー。
ドンッ!
「お見事!命中です!」
狙い違わずド真ん中を貫き、空間に浮かぶホログラフの得点板に100の文字が映し出される。
弱装弾による射撃感覚の変化を懸念してしっかりと照準したが、どうやら杞憂だった様だ。
弾道は把握した。後は……
ドンドンドンドンドンドンドン!
「お、お見事……」
きっちり七発。一番最初に開けた穴の側に円を描くようにして着弾した。
「いや〜凄いね!大当たり!満点を叩き出した貴方には、特別にコレをプレゼントします!」
「……ハードケース?」
差し出されたハードケースを開封すると、『Smith&Wesson Thompson・Contender Mark.ⅡCustom』の刻印が施された一丁の銃が入っていた。
「S&Wトンプソン・コンテンダー……」
米国製の拳銃であるトンプソン・コンテンダー。それをリファインしたMk.Ⅱのオーダーメイドカスタム品の様だ。
何より使用する弾薬を見て度肝を抜かれた。
「7.62×51mmNATO弾……」
普通にアサルトライフル用の弾薬だ。対人戦に使うには少なくともオーバーキル過ぎる。まぁ、それが出来るからこそのトンプソン・コンテンダーなのだろうが。
装弾数は箱型マガジンに8+1発。ダブルアクションでもシングルアクションでも撃ち分けが出来ると言う、現代の拳銃の用途を一通り押さえているものだった。
その癖してコンテンダーの特長である構造の頑強さには磨きが掛かっている。相場はかなりお高めだろう。
「有難うございます」
「い〜のい〜の。遠慮せずに持ってって」
そう言われては返せる物も返せない。もう一度「有難うございます」と言って教室を出る。
そのまま時間が過ぎ、一日目は何事も無く終了した。仕掛けてくるのは二日目か、はたまた何も無いのか……全ては神のみぞ知る、か。
一日目は特に人気がなかった僕等のクラスのメイド喫茶は二日目で大盛況を博した。
どうやらソーシャルネットワーキングサービスの掲示板に僕の画像がアップロードされたらしい。勿論、女装姿のが。
………泣きたい。いや本当に。
だって明らかに色欲が混じった目を向けてくる男が“ねぇねぇ君、写真撮らせてッ!”て大挙して押し寄せてくるんだよ?その気持ち悪い事といったらあのクソ御曹司が可愛く見える程だった。しかも店の売上の為には断れないし……気持ち悪過ぎて失神しそうになってしまった。
ちゃんと写真は取らせてやったけれど。考えてみれば簡単だった。気持ち悪いならばそれを受容しなければ良い。と言う事で最低限の身体感覚を残して他の身体感覚をラピアとの接続に向けたのだ。ただハイパーセンサーの情報処理機能を使い自分のいる部屋の立体三次元映像を作りそこから情報を得ていたので傍から見たらちゃんとしているように見えただろう。
そうしてどうにか地獄と形容しても差し支えない局面を乗り切り、僕は頑張って袖無さん達と交渉して手に入れた自由時間で、一緒に休みを貰った集、マリア、織奈、蒼華と他の店を楽しんでいた(ラピアとリリアは何かあった時の為にお留守番で、もし本当に“何かあった”場合には転送術式で此方にやってくる手筈になっている)。
「わあ、士さん!あれは何ですか!?」
「あれは射的さ。日本の縁日でよく見かける物なんだよ」
「そうですか、ではやってみましょう。これでも射撃は自信があるんですよ?尽く商品を総舐めにしてあげます」
「ちょっと待って、スト〜ップ。マリア、それは駄目だよ。他の人が困るでしょ?」
「……ああ、そうでした。すみません。浅慮が過ぎました」
はしゃぐマリアを落ち着かせたりと、まぁ色々あっても満喫していた僕達の前に、それは突然現れた。
「あれは……女の子?」
僕達は足を止めてその少女を観察する。隣で集がハァハァ言い出していたのはキニシナイ。
少女は簡素なケープコートに身を包んでいて白髪赤眼。年齢は十三才位かな。顔立ちは……
「あの娘……士に似てないか?」
蒼華の言葉に頷きで返す。
なにせその少女の顔つきは僕をさらに女顔にして幼くしたような顔をしていたからだ。
「……ねぇ、お兄さん」
少女は言葉を紡ぐ。
それと同時に少女からナニカが放たれ、僕は思わず身構える。
「………………死んで?」
ガギィィィンッ!!!
「グッ!?」
反射的に取り出して構えたナイフに少女が取り出したナイフがぶつかる。
「士さん!?」
「士!?」
マリアと集が叫んでくるが返す余裕がない。と言うより……
「くっ……何て、力だ……!」
少女はその細腕からは考えられないような力でナイフをギリギリと押し込んでくる。力を引き上げて少女のナイフを弾き飛ばすと少女は猫のような身のこなしで1回転して着地した。
「お兄様!?」
「士!?大丈夫か?!」
と、そこで再起動したらしい織奈と蒼華の声が飛んでくる。
加勢に入ろうとした集を目線で制してあたりを見回すと、
「……はぁ、本当に殺る気満々だね」
最新鋭の機動強化装甲外骨格に身を包んだ三十人程の男が僕等を取り囲んでいた。
「うわ、なんだあれ」「見せモンなのか?」「イベントだろ」「ナニナニ?」
しかも有り難く無い事に騒ぎを聞きつけた野次馬根性丸出しの阿呆達が集まってきた。
「……マリア」
「はい、何でしょう」
少し硬い声で応じるマリア。
「あそこに集まってる馬鹿野郎達をシェルターに。多少手荒でも構わないから。ここで被害が広がったら不味い」
こんな所で刃傷沙汰でも起こしたら、反魔術師派の連中に格好の攻撃材料を与える事に他ならない。それをわかってくれているのだろう。マリアは首肯し、
「……皆さん、静まって下さい。私はクラノディア王国第一皇女、マリア・イレイナ・フェイリスです」
皆が黙り、マリアの方を見遣る。マリアはそれを見て、
「現在、当学園は敵性勢力の侵攻を受けています。私達の前にいる者たちはその一団です。今は、ただ何も言わずに避難して下さい。皆様の命は、保証し兼ねます」
そこで堰を切ったようにざわめきが広がっていく。
………マリア、リリア、今だ。
『イエス、ドライバー』
『了解した』
二人の声と同時に校内に警報が鳴り響きシェルターの出入り口が開放された。
学内ネットワークは前に集がハッキングしてそのままなので、そこをもう一回同じ経路でハッキングして警報装置を掌握したのだ(最初ハッキングした事については有耶無耶にして不問となった)。
セキュリティが更新されていたら成す術は無かったが、変更されていなくてホッとした。ここで大量虐殺でもされたら確実に人類対魔術師の戦争に発展する、そんなレベルに世界情勢はなっているのだ。
マリアに通信を開き、簡潔にして欲しい事を伝える。
「シェルターが開きましたね。皆さん、押さずに静かに避難してください。軽率な行動は死に直結します」
ここまで言われて誰も言い返さなかったのはひとえにマリアが場の空気を支配していたからだ。
民を集め、民を動かし、民を支配する、為政者としての才能。
マリアが発揮したそれは、確かに場を静め、民衆を従わせる静かな威厳に満ちていた。見物人は一人、また一人と動き出しゆっくりと離れていく。完全に離れ、シェルターに向かったのを確認してゆっくりと少女の方を向く。少女が何もしなかった事に少し驚くが平静を装う。
「あれ、お兄さん。何でお客さまを逃がしちゃったの?これじゃぁ……全員殺せないじゃん」
……いや、違うな。単純に不思議がっているのか?
と言うか、随分と思考が破綻している。人を殺す事を何も思っていない。まぁ、僕も今更だが。
「……集、パワードスーツ部隊を頼む」
「……分かった。死ぬなよ」
「織奈と蒼華、マリアは逃げて。ここは危ないから」
「お兄様、お気を付けて。御武運を」
「……分かった。頼む」
「分かりました。お願いします」
この人外少女は僕にしか相手を出来ない。それをわかっているから集達は素直に頷いてくれた。僕と集は右手を突き出し、転送術式を起動する。
「来い、暮刃!」
「来やがれ、ギラナタトス!」
ラピアとリリアの助力を得て起動した転送術式ーーーー物体を一度素粒子レベルに分解して指定座標で再構成する魔術ーーーーによって僕達の手の中に剣が顕現する。
「さて、僕がが付き合ってあげるよ」
「きゃはは!わーい、嬉しい!頑張って死んでね?」
そして数瞬の睨み合いの後、僕と少女は激突した。




