第二話 「人外同士の戦い」
戻ってきた店主に早速剣のことを聞いてみる。
「ねぇ、おっさん。僕達が注文した剣は?どうなったの?」
「分かったよ。出してやるからちょっと待て」
そう言って店主はカウンターの奥から二本の剣と鞘を取り出して僕達の前に置いた。
僕の前には日本刀と西洋剣を足して2で割った様な100cm位の剣。
集の前には糸鋸、ピック、斧等が刃渡り150cmはある刀身に詰め込まれている大剣。
「この剣、……名前が彫ってある?」
少なくとも僕はそんな物は頼んでいない。集と目を見合わせる。
「こっちで勝手に決めさせて貰った。
士の方が“暮刃”。
集の方が“ギラナタトス”だ」
……何か中二っぽい名前だ。まぁ名前がある方が愛着も湧くから良いか。
「ありがとう。おっさん」
「サンキュー。助かるぜ」
「応よ、毎度あり。お前らはうちのお得意さんだからな。死んでもらっちゃ困る」
剣を受け取る。代金は既に支払ってあるので金を払う必要は無い。
「じゃあね」
「またな、おっさん」
「あ、ありがとうございました」
お礼を言って店(?)から出て、ビルを抜けて少し歩いてからギアの通話回線を開く。
『マリア、聞こえる?』
『はい?何ですか?』
それもそうだ。いきなり回線を繋がれれば誰だって驚く。
『集は知ってるけど、僕達は尾けられてるみたいだ』
『…ええ?!』
『だから訝しまないで。ここで話すと気づかれるから、通話回線を使わせてもらった』
折角ここまで誘き寄せたのにこれだけで簡単に水の泡になるのは避けたかったからね。僕は集とも通話回線を開く。通話はギア同士で行われる個人回線なので盗聴される心配は無い。
『集、誰だと思う?』
『さあな。只最近名を上げてる新進気鋭の賞金稼ぎが居るらしい。恐らくはそいつだ』
『雇い主は?』
『アメリカ連邦捜査局(FBI)』
流石集。とうの昔に調査済みだったらしい。
『名前はグレアム・ギルドフェルド。巨剣を使うパワーファイターだが爆薬のスキルも高い。恐らく数日前から網を貼ってるな』
仕掛け爆薬に注意って事か。
『近接戦の腕は?』
『記録を見た感じそこそこ。まぁ俺位だろう』
なら心配は要らないかな。集もかなりの使い手だけど、僕に比べたらそこそこだ。と言っても常人より十数倍は上だが。
『マリア、聞こえた?今の感じだと、敵は多少の政治問題を押してでも仕掛けてくるみたいだ』
『士さんを殺して私も口封じという事ですね?』
『そういう事』
国力的にクラノディアはアメリカに太刀打ちできない。国連で訴えても抹消されて終わる(と言うか国連という組織自体が既に形骸化している)。仕掛けた相手の周囲の人間が“たかが一国の皇女”でも気に病む必要は無いと言う事だ。
『どこで応戦する?』
『あそこの廃ビルはどうですか?』
マリアが素早く視線を向けた先には、幾つか崩れているビルの中でどうにか原型を保っているビルがあった。
『分かった。そこにしよう。集はマリアを守っておいて』
言ってから僕は少し自分で驚き、短く苦笑する。自分が人の心配をするなんてちっとも思っていなかったからだ。随分と僕は彼女に絆されているらしい。
ビルに入り暫く進むと唐突に人影が現れた。先回りしていたようだ。
「……オレはグレアム・ギルドフェルド!一条士、その首、貰ったぁぁッ!!」
言うが早いか巨剣で大上段を仕掛けてくるので、腰に吊るしていた暮刃を抜刀。鍔から刃先に滑らせて受ける。
「シェャァッ!!」
切り返しの巨剣と真っ向から打ち合う。ズガン、と言う音が響いて僕は吹き飛ばされる。遠心力によって本来の力以上にインパクトパワーが上がっている為だろう。打ち上げられた僕は二階の壁を使って受け身を取りそのまま壁を突き放して20m程離れた所に着地する。
今度はこっちの番だ。暮刃を霞に構えて突進するが巨剣の腹で受け止められる。グレアムは横にしていた巨剣を横薙きに振るが僕の方が一歩早い。グレアムの後ろに回り込も……うとして90°回った所で中断。後ろに飛ぶ。直後、クレイモア地雷がグレアムの後ろで爆発した。
僕は短く舌打ちする。近くに刺さったベアリング弾が近年に開発されたばかりの対装甲貫徹弾だったからだ。あれが直撃すれば幾ら僕とはいえ暫く行動不能になっていただろう。
とは言え、ここまでの間、僅か4秒。マリアは唖然としている。
「おぉ、流石は災厄の剣神。評判は伊達では無いと言う事か」
地雷を防ぐ為に巨剣の腹でガードしていたグレアムがこちらを向いてそう言う。全く不本意ではあるが、この“災厄の剣神”と言うのが僕のあだ名だ。これは昔のある行動に由来する名前なのだが、僕はその名が嫌いなので呼んでほしくない……と言っても無意味だが。
「しかし、その剣。凄まじい切れ味であるな」
グレアムの巨剣には二つの傷があった。刃は削られ、使い物にならなくなっているし、巨剣のど真ん中には僕がつけた剣先の痕が残っている。余りにもあっさりと切断した為に僕も一瞬分からなかったくらいだ。
「だが、オレの戦力を削ぐには至らなかった様だな」
そうだ。元来、巨剣と言うのは、鋭く切断するのでは無く重量で圧し斬る為の物だ。刃が潰されたからといって余り影響は無い。
「さて、では続きと行こうかぁッ!!」
腰を低く落として右下段から跳ね上がる様な一撃をグレアムは巨剣で受けるが刃が深く抉れる。その切れ味に驚きながら唐竹割り、下から逆袈裟、回転して左薙ぎを繰り出し、グレアムが巨剣で弾き返す度に巨剣は切り刻まれていく。
「ハァァッ!!」
十合程打ち合って横薙に暮刃を薙ぐと遂にグレアムの巨剣が真っ二つに裂けた。
「オラァ!!」
グレアムは巨剣を投げ捨てる。僕は暮刃で切り飛ばすが、グレアムは右手に手にした新たな剣で斬り掛かってくる。
「甘いっ!」
すかさず一太刀入れるが、割とあっさりと斬り裂けたため一瞬硬直する。
「そちらも、なぁ!」
グレアムは左腕の剣を振り下ろし、僕は暮刃を振り上げる。轟音と共に火花と衝撃波が撒き散らされ、ギリギリと中間点でせめぎ合う。
「このまま押し切ってやる!」
「そうはさせないよ!」
グレアムの剣を弾き上げ、即座に突きを入れようとするが、それよりも一歩早くグレアムは距離を取っていた。
不可解な移動速度の速さ、変動する筋力、瞬間的に出現する剣……そうか。
「グレアム・ギルドフェルド、お前……魔術師だな?」
「……なぜ分かった?」
「その剣、金属錬成で作った剣だろう?強度が変動していたのは、込めた霊力の差だ」
錬金術の亜種である金属錬成、その上位術式が刀剣錬成で、霊力を金属に変化させ、さらにその金属を剣に変化させる、と言うプロセスの術式だ。
もっとも、金属を生成するのにも、変化させるのにもそれ相応の力量が必要で、使える術者はほとんど居ない……筈だ。
「ふん。これを見破ったのはお前で3人目だ。一条士」
「そりゃどうも」
「だが、何故オレが魔術師だと言われていないのか、とでも言いたそうな顔だな」
魔術師としてなら、一生は無理でもそこそこの期間遊んで暮らせる額を手に入れることは可能だ。
なのに、何故……?
「……オレは刀剣錬成しか能がなくてな。それは多様性を旨とする魔導学院の教育方針に合わなかったのさ」
「……成程ね」
これ以外のスキルを持っていないということは、逆に見ればこれに特化しているという事じゃないか。
(……これは、要警戒だな)
僕は頭の中でグレアムに対する危険度を引き上げ、言葉を待つ。
「オレは魔術師生命を絶たれた。だが、この才能は腐らせておくには勿体無さ過ぎでは無いか?」
「……そう考えての賞金首狙いか」
「然り」
「……で、わざわざ話してくれたんだ。何か理由があるんだろう?」
むしろ出てこなかったらヤバイだろ。
「あぁ、これから死にゆく者に、冥土の土産にしてやろうと思っただけだ」
「……なに?」
「ここで先程の質問の答えを返すぞ、一条士。オレが魔術師だと言うことは知られていない。何故か?ーーーー簡単だ。オレを魔術師だと見破った人間は全員死んでいるからだ」
「はぁ……やっぱりこうなるか」
正直、この答えは十分予想の範疇だった。
でも、それは僕にも言える事だ。
「予想していた……とでも?」
「生憎と、僕も同じ思考回路でね。秘密を知られたのなら、殺してしまえばいい」
僕はそう言って、霊力を開放した。無秩序に放たれた青白い光が壁やビルに衝突し、針のような穴が開く。
「成程。その自信はどこから来るのかと思っていたが……面白い」
「減らず口を……ッ!」
グレアムの正拳突きをクロスブロックし、跳ね飛ばすと同時に懐に飛び込んで食らわせた回し蹴りがヒット。
左フックが躱され、グレアムが繰り出す前蹴りを腕でブロック。カウンターでアッパーカットを決めるが、こちらもバク転で蹴飛ばされる。
「ハァッ!」
飛ばされている最中に暮刃の柄を引っ掴み、大きく溜めを取って放った居合は、霊力を纏ったナックルガードで弾かれた。
「それが奥の手か……」
「そうだ」
互いの体から放出される光が最高潮に達したとき、何方とも無く動き出した。
「オォォッ!!」
踏み込んで放った中段突きがナックルガードに叩き落され、切り返しの刃は体を捻って躱される。その捻りを利用した回し蹴りを左腕で反らしながら右手で逆袈裟を御見舞するがナックルガードに防がれる。
「脇が甘いッ!」
未だ痺れの残る左腕でナイフを抜き脇腹に突き立てようとするが、右腕のナックルガードで弾かれ、ナイフを手放してしまう。
「万策尽きたか?!」
「士さん!?」
マリアの叫び声が聞こえる。
タイミングはミスれない……今だ!
全力で暮刃を振り上げグレアムの左腕を斬り飛ばす。返す刀で右手も同様に。
「グッ…!」
脂汗の滲んだ顔から絞り出されるグレアムの呻き声を無視し僕はグレアムの胸に交差させた双手を宛てがう。そして、一瞬の溜めの後に、動き出す。
まず、足、膝、腰。それから腹、胸、肩、手首へと、力を流動的に伝達させ、双手へと収束させていく。同時に身体強化術式を使用。骨肉の強度を底上げする。
この技は、僕が我流で編み出した技。身体の筋肉を適切な順番で、適切な力で、寸分の狂いもなく動かすことで生み出されるそれは、対戦車ミサイル程度なら軽く凌駕してしまう程だ。
まさしく、閃き、刹那に、修羅の如く、殺す技。
「ーーーー羅刹ッーーーー!」
その技を食らったグレアムは即座に身体の中央から放射状に消し飛んだ。頭が巻き込まれたのは見えた為、もう生きてはいないだろう。
「集、マリアを頼むよ」
僕はそう言い残してモノレール駅にダッシュで移動した。
気恥ずかしかったのか、マリアの反応を見るのが怖かったのかは、よく分からなかった。
私は士さんが立ち去った後も暫く呆けていた。
あれが士さんの生きていた世界ーーーー殺し殺される事が日常にあるセカイ。そうしていると、ふいに彼方さんの声が聞こえた。
「……なぁ、イレイナさん。士を支えてやってくれないか?」
「……え?」
私はそんな素っ頓狂な声を出してしまう。
「士は……こう言っちゃ悪いが、あんたに依存している。今回だって、普段の士ならスルーしてイレイナさんを敵を誘き寄せる餌にしたりしてただろう」
「それは……」
たしかに、その通りです。普段、と言うか何時もの士さんなら、私を囮にしていたでしょう。
「でも、それをしなかった。士は、自分の想像以上にあんたに惚れ込んでんだよ」
「そう、ですか……」
正直、嬉しいとは自分でも思う。
「ですが、何故“支えてやってくれ”なのですか?」
ただ、理由が分からない。
彼方さんは、暫く考え込んだ後に話し始めた。
「あいつは……なんて言うか、凄く脆い。俺も詳しくは知らないが、士は10歳の時、親を亡くしているんだ」
知っているにしても、彼方さんから告げられた言葉は、やはり重みがあるものでしたが、これではっきりしました。
「あいつには精神的な支柱が無いんだ。でも、今はあんたがいる。だからこそ、あんたが居なくなった時にどうなるか分からない」
「……!」
「だから、頼む。不躾かも知れないが、あいつの側に居てやってくれ」
その答えは、とうに出ていました。
「勿論です」
「……良いのか?」
怪訝そうな顔で聞いてくる彼方さん。
「ええ。私は…士さんの事がーーーー大好きですから」
きっと私は満面の笑みを浮かべていたと思います。
「……あ゛〜〜。……ったく、好きな人の友人の目の前で大胆に告白するねぇ。砂糖100㎥吐きそうだぜ」
頬をボリボリ掻いて視線を逸らしながら言う彼方さん。それは凄まじい量ですね。とは言え、私も凄く恥ずかしく、穴があったら入りたいのですが。
「……頼むぜ。士の事」
「勿論ですとも」
それから、私と彼方さんはモノレールで学園に帰りました。
……士さんはどんな反応をするのでしょうか?明日が楽しみですね。




