9羽
「……………確かに辺境伯さまのサインだ」
太陽が淡い夕陽になる前にアエローは戻って来た。
そして、自分の働きを誇るようにフンスと鼻息を鳴らして胸を張ってアルフレッドにグラハムのサインが入った羊皮紙を手渡していた。
「確かか?」
「ああ、前に辺境伯さまの依頼書を見たことがあるが、まんま同じだ」
「……………まさか、こんなに早いとは思わなかったわね」
羊皮紙を前に3人は呆然と見つめていた。
「ドウでしょカ?」
圭介が不安そうに聞く。
書簡が無事に届いた事を証明するためにハンコ又はサインをもらうアイデアを思いついたのは彼だった。
「いや、完璧だ。確実に辺境伯さまに届いたって証明として、これ以上の証拠はない」
「良かっタ!」
圭介はアルフレッドの言葉にホッと胸をなで下ろす。
「それにしてもアエローちゃん、よく辺境伯さまに届けられたわね。領都の兵士には見つからなかったの?」
「大丈夫だったよ!高い所で見張ってる人族は皆、空を見ないんだもん!」
「そうか、空を飛べるモンスターなんて辺境ではハーピー以外は見ないからか」
「どういう事だ、レン?」
訝しんでアルフレッドはレンに尋ねると彼は簡単なことだよと前置きをする。
「ハーピーは人の街なんか来ないだろ、普通?街や領都で警戒しているのは主に地上のモンスターだ。必然的に上よりも下の地上に目がいっちまう」
「先入観ってヤツか?」
「そうだな」
「でも、次に行くときは危ないでしょうね」
「ああ、次はしっかりと空も監視してるだろうからな」
そこまで議論するが、アルフレッドは次の機会は無いだろと言葉を閉める。
そのとき、アエローに翻訳をしてもらい議論を聞いていた圭介がゆっくりと手を上げる。
「どうした、ケイスケ?」
「アルと思いマス!」
「何がだ?」
「次ノ機会!」
圭介の言いたいことが、わからずに3人は顔を見合わせる。
『言葉が通じないのはもどかしいな!アエロー、通訳してもらえない?』
『ん!良いよー!』
アルフレッドたちにとって未知の言葉、日本語で圭介が話してアエローが伝え出す。
「アルさん、この世界では手紙をどうやって届けていますか?」
「手紙か?そりゃ、手紙を出したい方向に行く隊商か冒険者、旅人に頼んで持って行ってもらうのがセオリーだな」
「それだと時間が掛かりませんか?」
「そりゃ、そうだが………手紙なんて、そんなモノだろ?」
「それじゃ、今回みたいにハーピーが手紙を届けたら?」
アエローの口から出た圭介の言葉に冒険者たちは目を見開く。
「そんなのが可能なら、とんでもないぞ!」
アルフレッドが大それたアイデアだと驚く。
「手紙のやり取りなんて1年以上、かかるのが普通だからな、その考えは革命的だぞ!」
レンは、ハーピーたちが手紙を運ぶのを想像して身震いする。
「私は反対よ」
唯一、ルディだけが否定的な言葉を出す。
「なぜですか?」
「私も、すごい考えだと思うわ。でも、考えてよ。あなたの考えが上手く伝わらないでアエローちゃんたち、ハーピーが手紙を運んだ先で弓や魔法で攻撃されるかもしれないわ」
ルディの言うことは確かに起こり得るものだった。
なので、アエローたちハーピーが安全に人と共生できると興奮気味になっていた圭介の口がつぐむ。
「第一に!あなたの思い付きで行き成り、生き方を変えても良いの?アエローちゃんたちの意思を聞いた?」
アエローの通訳でルディの言葉が胸に刺さる。
『………そうだね。ルディさんに伝えて、すみませんって………そして、アエローも勝手なことを言って、ごめん』
『……………』
『アエロー?』
突然、アエローが通訳を止めて圭介を不思議そうに見ていた。
『聞けば良いじゃん』
『え?』
『いや、今、あたしが目の前に居るんだから、さっきの圭介のアイデアはどうかをあたしに聞けば良いじゃん』
キョトンと見つめるアエローに圭介はおずおずと、どうかなと質問してみる。
『良いじゃん!上手く行けば、人族の縄張りを色々飛べるんだよね!面白そう!』
『え!良いの?』
『当然!ねぇ、皆!』
楽しそうに笑ってアエローは、圭介たちの上空を旋回して他のモンスターが近寄らないようにしていたハーピーに声を掛ける。
『今の圭介のアイデアにビビった奴はいないよね!』
『『『ウェ~イ!』』』
『見たことのない人族の縄張りの空を飛んでみたくない奴はいないよね!』
『『『ウェ~イ!』』』
『いっちょ、やったるか〜!』
『『『ウェ~イ!』』』
空の上から、士気の高いハーピーたちの高い声が振り注ぐ。
圭介の顔に笑顔が浮かぶ。
アルフレッドとレンは突然、謎の言語(日本語)で盛り上がり出したハーピーたちに驚く。
そんな男2人を尻目にルディは圭介たちの雰囲気を察して口の端を上げる。
「話が纏ったなら、私が言うことは何も無いわ」
『はい!』
「それじゃ、私から次の依頼があるわ」
ルディの言葉をアエローが圭介に伝えて彼は大きく頷く。
「今から書く手紙を私たちの街、アルガスって所なんだけど、そこの冒険者ギルドのマスターに届けてもらえない?」
次の依頼。
圭介とアエローは声を合わせて「はい!」の返事をする。




