7羽
「それはできない」
アルフレッドは、そう言って首を振る。
「もちろん、助けてくれたのは感謝している。だが、これは別だ」
眉間に皺を寄せてキッパリと拒絶の言葉を口にするアルフレッド。
さらには出発の準備をしていたレンが圭介たちに近付いて補足するように口を開く。
「勘違いするなよ。俺たちは、このハーピーたちが危険なモンスターじゃないとわかってる。だがな、他の冒険者や兵士たちは違う」
確実に矢で撃ち落としてくるぞと警告する。
圭介は、その事をアエローの通訳を通して知ると「やっぱり、無理か」と視線を落とす。
「ぶ〜!あたし矢に当たるほど、鈍臭くないし!」
「あと、別の理由もある」
「別ノ理由?」
レンは、そう言うと申し訳なさそうにアエローを見る。
「俺たちの街の存亡が掛かった書簡をモンスターに渡しても確実に届けてもらえるという信用が持てない」
厳しい目つきでレンは言う。
『レンさんはなんて?』
『手紙を届ける信用できないんだって』
つまらなそうにアエローは圭介にレンの言葉を伝える。
「例え、君のハーピーは本当に辺境伯さまに書簡を届ける事ができても俺たちに、それを証明する事はできない。もしかしたら、途中で書簡を捨てて届けたと嘘を言うかもしれない」
「ぶ〜!あたし、ちゃんと届けるし、嘘言わないし!」
「それでもだ。俺たち冒険者いや、人族は、そんなあやふやな仕事はしない」
そこまで言い切るとレンは圭介そして、アエローを見詰める目つきを緩める。
「俺たちのための提案なのは、感謝してる。俺たちが、ここに戻って来るまでアルを保護してくれる。それだけでも、とても助けになってるんだ」
「ああ、そうだ。無理をして、そのハーピー。アエローだったか?危険に晒す事はない」
レンの説明を引き継ぐようにアルフレッドは言うと付け加えて言葉を紡ぐ。
「ケイスケ。君は、アエローの群れが今後、冒険者に攻撃されないようにしたいだろう?」
アルフレッドの一言をアエローから翻訳してもらい頷く。
「なら、心配はない。今回のことが片付いてギルドに戻ったら、上に報告する。荒れ地のハーピー。少なくとも、その一つの群れが我々に友好的だとな。そうすれば、ここのハーピーが手を……………いや、鉤爪をかけない限り、俺たちが攻撃する事態は無くなる」
圭介を安心させるようにアルフレッドは言うと振り返り、ルディも同じ意見だろと声を掛ける。
彼女は、自分の馬の近くで荷物を開けていた。
出発の準備をしているのだろう。
しかし、おもむろに小さめの布と小さな鞄を取り出すと足早にアエローの方に近寄ってくる。
「どうしたよ、ルディ?」
仲間の意図がわからずにレンが声を掛ける。
しかし、彼女は答えずにアエローの側で立ち止まる。
そしてーー、
ボスッ!
「ぶっ!?」
「動かないで!」
ルディはアエローに持ってきた布を頭から被せた。
「袖はあっても邪魔でしょ。待って」
ルディは、そう言うとビリっと布のある部分を引き裂く。
そして、すっぽりとルディを包み込む。
その布は、彼女の予備の服だった。
「う〜ん。やっぱり、少し大きいわね。でも、葉っぱの服よりもマシになったわ。あと、この鞄を首から掛けて」
服の次は持ってきた小さな鞄をアエローに掛ける。
「ルディ、何をしてるんだ?」
「見たらわかるでしょ。これから、辺境伯さまの所に行くのに少しでも失礼が無いようにしてるのよ」
「「ハァッ!?」」
ルディの行動と返事に驚く男2人を無視して彼女は圭介に正対する。
「お願いできる?」
「行っテモ、良いンデスカ?」
「もちろんよ。あと、これを」
ルディは圭介の手を掴み何かを握らせる。
「コレは?」
「依頼料よ。少ないけど、手持ちはこれしか無いの」
圭介が手を開くと数枚の鈍い光を放つ銅貨があった。
「ルディ!何、勝手なことをしてんるだ!」
「五月蝿いわよ、レン!これが一番良い方法じゃない!」
「良くは無いだろ!」
「アル!さっき、あなたは時間が無いって言ってたでしょ!一刻も争うって!これ以外に最速で書簡を届ける手段なんてあるの!?」
言い争いを始める3人を尻目に圭介は手にした銅貨を見つめていた。
『どうする、圭介?』
『うん……………。ねぇ、アエロー』
『なに?』
『アルさんたちは手紙いや、書簡か。それが確実に届いたって保証がいるんだよね?』
『う〜ん。要は、そう言うこと何じゃない?』
圭介は銅貨を握り締める。
『アエロー。アルさんたちに伝えて!これで、どうかって!』
圭介は意を決したようにアエローに頼む。
それからしばらくして、大空に大きな翼を広げてハーピーが飛び立つ。
『行ってきまーす!』
『気をつけてね!』
〜数刻後〜
ここは、オーウェン辺境領の領都『エンガス』
その一際、大きな城塞である辺境伯の居城のある一室。
ガシャン!
耳をつんざく、陶器の割れる音が響き渡る。
そしてーー、
「マージ!あなた、またやったわね!!」
「アワアワアワ!ごっ、ごめんなさい!すみません!」
マージと呼ばれたメイドが割れた花瓶の前でひたすら、先輩であるメイドに平謝りをしていた。
「もう!いったい、何回目なのよ!花瓶は割れる物なの!もう新人じゃないのよ!あなたにも後輩ができるんだから、自覚を持ちなさい!わかる!?」
「はっ、ハイ〜!すみません!」
彼女はひとしきり先輩から怒られた後に割れた花瓶の片付けを言い渡される。
「ハァ〜。どうして私、鈍臭いんだろ」
先輩が肩を怒らせて退室した後にため息をついて箒で片付けをする。
(何をしても動きが遅いし、物は壊すし……………、クビにならないよね、私?)
最悪を想像して青くなる。
「今、すごい音がしたけど大丈夫、お姉さん?」
「え?」
不意に声を掛けられて振り向くマージ。
そこに換気のために開け放たれた窓から、明るい栗色の髪を短くした幼い少女の顔がひょっこりと覗いていた。




