6羽
「信じられねぇ」
レンは開口一番、そう吐き捨てる。
そして、魔法職専用のローブのフードを脱ぐとガシガシと頭を掻きむしる。
「あ〜!信じられねぇよ!ハーピーが共通語を話すだけでも訳がわからないねぇのに!」
「人族、ハゲるぞ」
「うるせぃ!」
アエローの言葉を一喝して圭介に視線を移す。
「この荒れ地で、お前みたいな大陸外の子供が1人で彷徨っていた?そこのハーピーに保護されて、さらには、お互いの言葉を教え合ってた?そんで?たまたま危機に陥っていた俺たちを助けに来た?どれを、どこから、どう信じれば良いんだよ!」
レンは、頭がパンクしそうだと額を押さえる。
「まぁ、待てよ。今は彼らの話を信じる、信じないは大事じゃない。重要なのは、このハーピーたちは俺たちを襲わないってところだ。そうなんだな、ケイスケ?」
地面に薄い布を敷いて横になっているアルフレッドが圭介に、そう尋ねる。
「そうダ、デス。襲う、ナイ」
アエローに翻訳してもらい、圭介は彼らの言う共通語で返事をする。
圭介の言葉にアルフレッドは、そうかと頷くと自分の傍らに座るルディを見る。
「どうやら本当に大丈夫そうだ。ルディ、レンと一緒に領都に急ぐんだ」
「………でも」
「反対は無しだ。大丈夫だ。ケイスケのハーピーたちが面倒を見てくれるみたいだからな、本当に寝て待っているよ」
アルフレッドは仲間を安心させるようにニヤリと笑う。
しかし、その笑みは明らかに痛みを我慢したものだった。
「はぁ~、そうだな。まだ、行程の半分も進んでないからな」
最初に動いたのは頭を掻きむしっていたレンだった。
彼はすぐに馬の方へと行くと手綱を持って出発する準備にかかろうとする。
ルディは、いまだにアルフレッドから離れられないでいた。
「ルディ、行くんだ。もう、かなり時をロスしているんだ、グッ!」
「アル!」
言葉の途中でアルフレッドの顔が苦痛に歪む。
ルディは涙を溜めて彼の手を握る。
「ルディ、行こう。俺たちがいても何もできない。今は書簡を届けることに集中しよう」
レンが振り向かずに声を掛ける。
今、振り向いて苦しむ姿を見ると動きが鈍るからだ。
「………状況はマシだぜ。なんせ、1人で残るわけじゃないからな」
そう言ってレンは圭介を見る。
言葉がわからなくても圭介にはレンが仲間を頼むという意思が伝わるように感じる。
そこへ、バサッと1羽のハーピーが降り立つ。
口には紫色の草をくわえている。
「ほら、子分に痛みを鈍らせる草を取って来てもらったぞ。これを噛め」
アエローが器用に鉤爪で薬草を受け取るとアルフレッドの手元に落としてやる。
「ハハハ、至れり尽くせり、だな。ほら、ルディ。俺は大丈夫だから、これを頼む」
乾いた笑いを漏らしてアルフレッドは書簡をルディに握らせる。
そして、アエローから渡された薬草を口に入れて「苦いな、これ」と悪態をつく。
「………よくハーピーからもらった薬草なんて口に入れれるわね」
「ここまできたら、生き延びるために毒でも何でも食ってやるよ。………苦いが、痛みが引いてきたぜ」
2人はクスッと笑う。
そしてルディは立ち上がり、圭介とアエローに向かって頭を下げるとレンが待つ馬の方へと歩み始める。
圭介は、そんな彼らのためにまだ、何かできないかと考える。
彼らの事情は、詳しく聞いてはいない。
しかし、3人が命を賭けてまで書簡という物を運んでいる。
(きっと、重要な物なんだな)
圭介は彼らの姿と話から、この世界の文明が地球で言えば中世くらいだろうと察していた。
人や物が遠くまで移動するのが困難な時代。
歴史の授業で習った程度の知識しかないが、それぐらいは理解していた。
だからこそ、圭介は思う。
(これからルディさんとレンさんには、伯都まで長く過酷な旅が待ってるんだろうな)
無意識にズボンのポケットに手を入れる。
ーカサッ。
ポケットに入れっぱなしにしていた祖母の手紙が指に触れる。
不意にある考えが、圭介に浮かぶ。
「ねぇ、アエロー」
「ん?なに?」
気づいたときには圭介は日本語でアエローに話しかけていた。
「伯都って所、知ってる?」
「あ〜、人族のデカい石の巣の事だよね?」
「多分、そう」
「それが?」
「アエローなら、どのくらいで行ける?」
圭介の意図を理解したのか、アエローはニヤリと笑う。
「ここからなら、夕方には戻れるよ」
「アエロー。これは………僕のわがままだと思う。もしかしたら、君を危ない目に合わせるかも……………でも、アルさんたちは」
「全部、言わなくても良い。乗り掛かった風だからね!それに、あそこには興味あるんだ!いつも見つからないように高く飛んでるから、近くで見たいと思ってたの!」
アエローの言葉に圭介はありがとうと言うと顔をアルフレッドたちに向ける。
「待っテ、下サイ!」
唐突に圭介が口を開く。
「どうした、ケイスケ?」
アルフレッドが訝しむ様子で問い掛ける。
他の2人も何事かと圭介を見詰める。
「ソノ『手紙』、僕らガ届けマス!」
荒れ地の乾いた大地に圭介の宣言が風に乗り響く。
ー後に異世界郵便ギルド、最初の配達と記録される。
最初の郵便業務の始まりの瞬間だった。




