4羽
「何か、人族が事故したって」
冒険者の様子を見に行ったハーピーの報告を、アエローが圭介にもわかるよう日本語に翻訳して伝えてくれた。
「えっ!それは大変じゃないか!すぐに助けに行かないと!」
「え?なんで?」
圭介が慌てて言うと、アエローは意味がわからずに聞き返す。
「なんでって、事故が起こったんだよね?」
「そうみたいだよ」
「その人、怪我したんじゃない?」
「大怪我みたいだね」
「それじゃ、助けに行かないと!」
「だから、なんで?」
アエローは不思議そうに目をパチパチとさせる。
圭介は、どう説得するか頭を抱える。
そして、改めてアエローの瞳を見詰める。
「アエローは、ハーピーが怪我したらどうする?」
「もちろん、助ける!だって、仲間だもん!」
「うん、そうだよね。それじゃ、怪我をしたのが僕なら?」
「助けるよ、もちろん!」
「なんで?僕はハーピーじゃないよ?」
圭介の問いかけにアエローは戸惑ったような表情になる。
それから、当たり前の事を言うように翼をバサッと広げた。
「関係無いよ!圭介がハーピーじゃなくても助ける!仲間だもん!種族、関係無い!」
アエローの真っ直ぐな瞳と力強い言葉に圭介は胸が熱くなり、微笑む。
「ありがとう、アエロー。そうなんだよ。種族なんか関係ない。困ってたら、助けるんだよ」
「………仲間じゃなくても?」
「『今は』仲間じゃないけど、未来は違うかもしれない」
そう言って圭介は「だから、助けることに意味があるんだ」とアエローに言う。
「お願いだよ、アエロー」
「わかった!助ける!」
「アエロー」
「圭介の頼みだし!任せなさい!」
フンスと鼻息を荒くして意気込むアエローの様子に圭介は笑みがこぼれる。
それからの行動は早かった。
アエローが仲間たちに何か指示を出すと、2羽のハーピーが、大木の周りに自生していた頑丈なツタを何本も編み合わせ、即席のブランコのような足場を作成した。
そこに圭介が乗り、2羽のハーピーがツタの端を力強く掴んで空へと舞い上がる。
そして、他のハーピーたちが一斉に後を追うように巣から空へと飛び立つ。
「圭介!しっかり、ツタに座るんだぞ!圭介は翼が無いからね!」
圭介と並走するように横を飛ぶアエローが声を掛ける。
「うん、わかった!」
圭介はツタをしっかりと握り締めた。
地面が米粒ほどに小さくなる。
もし、落ちたらと若干の恐怖心が沸き上がる。
「大丈夫、落ちテモ!」
「え?」
不意に彼の頭の上から声を掛けられて上を向く。
圭介のツタを掴む1羽のハーピーが彼を見下ろしている。
その彼女が喋ったのだ。
「地面ニ落ちる前ニ、キャッチしてヤル!安心!安心!」
「ハッ、ハハハ、そのときはお願い」
圭介の返事にツタを掴んでいる、もう1羽のハーピーが「任せロ!任せロ!」と話す。
圭介はアエロー以外にも日本語を覚えていた事に驚いた。
そう言えば、ハーピーは興味があることしか覚えないと言ってたなと思い出す。
(それじゃ、彼女たちは少なくとも僕に興味あるってことかな?)
圭介が、そんな事を考えていたとき、アエローの声が聞こえる。
「圭介、見えて来たよ!」
「え?もう?」
早いなと思ったが、空を飛んでいるのだから、早く着くのも当然かと思い直す。
そして、下に視線をやると小さな人影が地面に見える。
「おーい!」
圭介は片手をツルから、離して手を振る。
ここからだ!
圭介は密かに思う。
同じ人間として彼らを助けたいと思う気持ちは本物だ。
しかし、圭介には別の理由もあった。
この一ヶ月でアエローから教えてもらったのは、何もこの世界の言葉だけではない。
ハーピーと人間の関係も、その中にあった。
アエローたち、ハーピーは人間を積極的に襲わない。
しかし、荒れ地では偶に人間の冒険者が入って来ることがある。
当然、中にはモンスターに深手を負わされて死ぬ者もいる。
ハーピーは、その死体の持ち物(主に光り物や珍しい物)に興味を惹かれて側に降り立つ。
その一場面を目撃した冒険者がハーピーが人を襲い、肉を食っていると誤解して彼女たちに攻撃を加えるようになったそうだ。
アエロー曰く、いくらハーピーが食に貪欲であっても人族の肉なんて不味くて食べないそうだ。
そんなわけで、日本で言うところの害獣指定されたハーピーと人間の関係を彼らを助けることで改善できないかと考えていた。
(そうすれば、アエローたちの暮らしがもっと安全になる。……………それに、)
圭介はグゥ〜と鳴った腹を押さえた。
(木ノ実生活とはおさらばしたいしね)
彼は、この一ヶ月の食事事情を思い返す。
最初、アエローが飯だと言って1頭の牛に似た生き物の死骸を持って来た。
乾いた枝と藁、泥で作られた彼女の巣で火を起こすなんてできない。
かと言ってアエローたちみたいに生で(結構、シュールな光景だったが)食べるわけにもいかない。
結局、圭介はアエローに頼んで木ノ実を持って来てもらい一ヶ月、僧侶もびっくりするような食生活を送っていた。
(まともなご飯を分けてもらえるかな?)
徐々に大きくなる人影に圭介は、そんな事を考えていた。




