2羽
『ワ〜タシ、の名前〜は、ケイスケで〜ス』
「ぷっ!アハハハハハハハハハ!」
太陽が昇り、ポカポカと暖かい光がさした中で巨大な大木の上に作られたアエローの巣で圭介の話す共通語のイントネーションに家主たる彼女は腹を抱えて笑い転げていた。
「ひどいぞ、アエロー!笑うなよ!これでも一生懸命なんだぞ!」
圭介は日本語でアエローに抗議する。
彼は今、この世界の言葉をアエローから教えてもらっていた。
「アハハハ!ヒィ、ヒィ、ごめんごめん!でも、ぷっ!」
すると、彼女は流暢な日本語で答える。
2人が出会って一ヶ月が経つ。
アエローは、圭介が教える日本語を完璧にマスターしていた。
その上達の速さには、圭介も舌を巻いたほどだった。
「それにしてもアエローはチートだよな」
「チート?あたし、何も反則してないよ?」
「いや、覚えるのが反則的に早いって意味だよ」
圭介は笑い終わったアエローを見ながらため息をつく。
ちなみに今、彼女は自分で用意した大きな葉を使い、圭介が作った粗末な服を着ている。
「普通だよ〜、これくらい。皆、やろうと思えば直ぐに話せるよ」
「でも、他のハーピーが話してるところなんて見てないぞ?」
そう言って圭介は周囲を見渡す。
圭介たちがいる大木の枝にはいくつものハーピーたちが思い思いに巣を作っており、くつろいでいる。
「あたしたちは興味ある事しかしないからね。無ければ、覚えないよ」
「そりゃ、そうか」
2人が会話をしていると圭介の頬に風が当たる感触がする。
顔を向けるとアエローではないハーピーが巣に舞い降りて来た。
そのハーピーは最初に圭介を見るとギョッとしたような顔をする。
アエローたちのグループとは別のハーピーなのだろう、いかにもモデルをしていますといった雰囲気の大人なハーピーだ。
普通に人間なら思わず、振り向いてしまう程に美人。
問題と言えば、彼女がハーピーである事と何も着ていない素の姿である事くらいだ。
なので圭介は、顔を赤らめて慌てて視線を逸らす。
『※※※※※※※』
『※※※※※※※』
2人いや、2羽は日本語とも普段、アエローが話す言語とは違うハーピー独自の言葉で会話する。
そして、更に2、3言話すとチラリと圭介を盗み見て飛び去っていく。
「今のハーピーは?」
「姉さんのところの使いよ」
「姉さん?」
「ええ、そうよ。3羽姉妹なのよ、あたし。言ってなかった?」
「聞いてないよ。それで、何だったの?」
圭介が聞くとアエローは大した事は無いというように羽を振る。
「人族の冒険者が縄張りの近くに来たから、気をつけなさいだって」
「冒険者!!」
圭介は目を輝かせて食いつく。
「……………気になる?」
「そうだね!この世界に来て初めての人間の情報だからね!」
嬉しそうに話す圭介にアエローは少し寂しそうな顔をする。
「やっぱり、人族が恋しい?」
「え?」
「ほら、何だかんだ言っても、あたしたちはモンスターだから……………圭介は人族だし……………やっぱり、同じ人族の所の方が良いかなって」
徐々に小さくなる声に圭介はぷっと笑いを噴き出す。
「ちょっと!何で笑うの!真面目な場面でしょ!」
「ごめんって!ほら、急に寂しがるからさ」
「寂しがってないし!」
アエローはふくれっ面になるのが、面白く更に圭介の顔に笑みが浮かぶ。
「僕はまだ、共通言語を話せないし、この、え〜と」
「『荒れ地』」
「そうそう『荒レ地』に突然、彼らの前に現れたら怪しまれて切られちゃうよ」
「そうねぇ、確かにね」
「でも、この世界の人間には興味あるな………様子を見たいけど、難しいよね」
この世界に来て圭介の世界はアエローの巣と大木しか情報が無い。
元の世界に帰る為にも、いつかは彼らに接触しないといけないと圭介は悩む。
「それじゃ、人族の冒険者を監視しようか?」
「え?それって見つかったら、アエローたちが危ないんじゃない?」
「大丈夫よ!人族は、飛べないもの!」
アエローは大きく息を吸うと圭介では聞き取れない声で何かを口にする。
すると、近くでくつろいでいた1羽のハーピーが起き上がり、アエローの巣に飛び降りて来た。
『※※※※?』
『※※※※※※※※』
アエローが何か指示を出すと、そのハーピーはコクリと頷き、バサッと羽を拡げて飛び去る。
「今、彼女に様子を見るように言ったから、直ぐに様子はわかるよ!」
「ああ、ありがとう。ところで今更なんだけど、アエローって、このグループで偉いの?」
その様子に圭介は、ここ最近の疑問を口にする。
最初の頃は心に余裕が無く、気付かなかった。
しかし、この大木のハーピーたちは皆、アエローの指示をよく聞く。
圭介の頼みで彼女たちに服を着させたのもアエローの鶴の一声だった。
(そのおかげで圭介が夜なべをして葉っぱの服を量産しなくてはいけなかったが)
「本当に今更だね!そうよ!あたしは、この群れのボス?リーダー?姉御?………女王、そう!女王なの!」
フンスと自慢気に小ぶりな胸を反らして威張るアエロー。
圭介は、へぇ~と感心する。
「僕と同じくらいなのに凄いね」
「あたしたちは10を超えて飛べるようになると一人前!」
アエローは気分よく説明し始める。
それによると、アエローのお母さんは全てのハーピーの女王らしい。
そして、アエローたちが飛べるようになり、女王から認められると成人として元の巣から巣立つらしい。
その時に群れの中で親しいハーピーが一緒に付いて来て一つの新たな群れとして独立するとのことだった。
「お母さんは、まだあたしには早いって言ってたけど、あたしは外の空に興味があって、こっそり飛び出したの!」
「えっ?それって家出じゃ?」
「1羽でアウトロー的にたくましく生きてやるつもりだったけど、あたしの子分たちがいつの間に付いて来ててね」
子分と言うか、友達的なニュアンスだなと思った。
「どおりで大人のハーピーが居ないんだね」
「圭介!あたしたち、大人!」
アエローが更に頬を膨らませて訴える姿にフクロウみたいだと内心思い、ハイハイとなだめる。
「それじゃ、『言葉ノ続きをオシエテ』」
『任せなさい!ヒョッコくん!』
圭介が話題を変えるようにアエローに頼むと彼女はニッコリとして笑い偉そうにふんぞり返る。
こうして、アエローの授業が再開される。
そして、太陽が真上を過ぎてお昼を食べようかと話している時だった。
冒険者の様子を見に行っていたハーピーが慌てた様子で巣へと戻って来たのだ。




