14羽
「それじゃ、こういうことか?」
ギルドマスターの執務室で、バンガスが呆れたように話をまとめる。
「お前らには数十年に一度、群れの女王が番を求める時期がある……………。それで俺たちが誘拐したと思っていた奴は実は生きていて、お前の母親と結ばれていたと?」
「そうだよ〜」
「まだ、生きてるのか?」
「ううん。3年前に……………」
「それは……………、すまねぇな」
バンガスが気まずそうに言うが、アエローは微笑んで「最期は『我が、一生に一片の悔いなし!』って叫んで亡くなったよ」と言うと一瞬、場の空気が固まる。
「でも、ギルドマスター。一つ疑問が残りませんか?」
「何がだ、レン?」
「だって、ハーピーにさらわれたと記録されている冒険者は1人ですよね?俺が彼女たちに会ったときは何十羽もいたんです。1羽に1人の番がいるとすれば、もっと行方不明者がいるのでは?」
レンの疑問にバンガスたちは確かにと頷く。
「どうなんだ?」
「それは」
「アエローの父ちゃんは、わたしの父ちゃんでもあるからだぜ」
アエローが口を開く前に、ルルがサラリととんでもないことを発言する。
「……………えっ、何だって?」
「聞き間違いか?」
「だから、群れの女王の番は皆の番なんだよ」
「「「はぁ!?」」」
圭介は衝撃の事実に顔を真っ赤にして口をつぐみ、他の男たちは口を開けて固まる。
「待て待て待て、一夫多妻制なのか!」
「そうなの?」
「いや、そうなんだろ!」
バンガスは天井を仰ぎ見て深いため息をつく。
「それなら戻って来いよ」
「まったくだな、拘束もされずに生きているならば報告すれば良いものを」
「なぁ、ルル。なんで戻って来なかったんだよ、お前らの父親は?」
レンが不思議そうに尋ねる。
するとアエローとルルは、翼を腰と頭に当てるセクシーポーズを取る。
「カッカッカ!見りゃ、わかるでしょ」
「そうそう、あたしたちの容姿」
「まぁ、悪くはねぇな」
「わたしらは、まだちっこいけど、もっと成長すれば……………」
「ママたちみたいな、ボン!」
「キュッ!」
「ボンな身体になるからね!」
自慢気に話す2羽に一同は、想像する。
ボン、キュッ、ボンのナイスボディのハーピーに囲まれた冒険者の姿を……………
「……………まぁ〜、悪くはないな」
「うっ!鼻血が!」
「ゴホン!嘆かわしい……………」
「……………(顔を赤くしてうつむいている)」
何とも言えない空気が漂う中で、いったん場を仕切り直そうとカストーデス子爵が昼食を兼ねて休憩を挟むことを提案する。
そして、自身は頭を冷やすために部屋を出ていく。
そんな中で圭介はアエローの翼をつかむ。
『どうしたの?』
『ちょっと気になったんだけど、一ヶ月間の僕のご飯のことで……………』
『ああ!お肉や木の実のこと?』
『アエローたちに人間のお父さんがいたなら、人間が火で料理することも知ってたんじゃないの?』
『カッカッカ!圭介、父ちゃんはご飯のときは自分で狩りに行って食って帰って来てたんだよ!』
『そうそう。なんか、巣で火を使うのはどうのこうのって言ってて、あたしたちの前でたまに木の実を食べる以外に見たことないんだ!』
『そうだったんだ』
確かに言われてみれば、アエローたちの父親はプロの冒険者だったのだ。
燃えやすい巣の中で料理をするわけにもいかず、自分で食い扶持を確保していたのだろう。
『さっ、行こう!』
『なぁ、アエロー!知ってるか、焼いた肉の美味さを!』
『ええ!何それ!』
キャッキャと話しながら、階段を降りるアエローたちに圭介はもう一つの質問を出すタイミングを失う。
ーー僕で本当に良いの?
圭介は、その質問をまた今度にでも聞こうと呑み込んで2羽の後を追うのだった。
そして、午後の鐘が鳴り響く時刻に改めて一同は執務室へと集まる。
「さて、懸案事項については解消された、この認識で良いな」
「ああ、ギルドもその認識だ」
「では、改めてハーピーに依頼したい。内容は、危機的な状況にある我が領と辺境伯さまとの速やかなる情報の伝達。それと前線との伝令を頼みたい。頼めるかね、ケイスケ君、アエロー?」
「ハイ!」
「任せな〜い!」
元気よく、頷く圭介たちにカストーデス子爵はうむと応じる。
そして、細部を詰めていく。
「辺境伯閣下の兵に誤解を受けぬように書簡を運ぶハーピーには我が家の紋章を大きく写した服を着せよう」
「ハイ、そうシテもらえると助かりマス」
「大事な情報を持ったまま撃ち落とされたら、かなわねぇからな!ケイスケ、ハーピーはどのくらい居るんだ?」
「ソウデスネ、30羽、居マス!」
「そんなにか?」
圭介の答えにバンガスは目を丸くする。
「ふむ。では、服屋だけではなく、手の空いている夫人や女性冒険者にも声を掛けよう」
「ギルドマスター、子爵さま。辺境伯領にも事情を知る者がいた方が良いのでは?もし、必要なら俺が……………」
そこでレンは言葉を切り、何かを思い出したようにルルに顔を向ける。
「なに?」
「……………ウッ!」
「なになに!失礼じゃない!?」
レンは言葉に詰まらせる。
「……………確かに、そのとおりだ。だが、今から1人派遣する時間的な余裕はない。今は書状に経緯を書くのみに留めよう」
難しい表情で話し合う中で、徐々に計画の形が出来上がっていく。
「よし!だいたい、決まりましたね。あとは子爵さま」
「どうした?」
レンは続きを口にする前にアエローとルルをチラリと見る。
正確には彼女たちが着ている上品で可愛いワンピース。
「デザインは紋章が目立つようにシンプルな物で、かつ!手早く量産できる服を作りましょう!」
「いや、恐れ多くも辺境伯閣下の前に出るのだ」
レンの要請にカストーデス子爵は即答する。
「デザインは手を抜かぬように」
それが本当に辺境伯にハーピーが会ったときに失礼のないようになのか、それとも……………
レンは、それがわからずに何とも言えない表情になる。
その日のうちに街の服屋や手の空いている女性が招集され、定期的に採寸と試着のために、ハーピーの小さな群れが交代で訪れることになったのだった。




