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15羽

「あ・ん・た!」

「すみません!」

「花瓶を割るのがメイドの仕事とか思ってるんじゃないの!?」


 割れた花瓶を前に怒り心頭の先輩メイドにマージはしょんぼりと立ち尽くしていた。


「だいたい!昨日から、集中力無さすぎなのよ!」

「はっ、はぃ〜!」

「キチンと『はい!』でしょ!」

「はい!」

「さっさと片付けなさいよ!あと、花瓶代はお給料から天引きだからね!」


 ガミガミと怒鳴って先輩が出ていく。


「はぁ〜〜〜〜……………。私だって集中してやりたいんだけどな〜」


 マージは深いため息をつくとチラリと窓辺を見る。


「本当、何だったんだろ?」


 きっと気のせいだったんだ、疲れてたからだと自分に言い訳をする。

 そして、振り向いて花瓶の破片を取り除こうとしてしゃがみ込む。


「たっのも〜」

「ひぃ~!」


 突然、窓の方から声を掛けられてマージは破片に伸ばしかけた手を止める。

 そして、恐る恐る「アエローちゃん?」と振り返る。


「アエロー?ミィは、ミィだよ〜」


 4階の窓の外から、見たこともないデザインの青い帽子を被った赤毛の天然そうな可愛い顔の少女が頭だけをひょっこり出し、マージを覗き込んでいた。


「ミッ、ミィ………ちゃん?」

「うん!ミィは辺境伯さまって人を探してる!どこに居るか知ってる、オネェさん?」


 まるでアエローとの会話を繰り返しているような気分になりつつ、マージはミィに「辺境伯さまに何の用なの」と問い掛ける。


「辺境伯さまにお手紙を届けに来たの〜」

「あなたもお手紙を?」

「うん!」


 マージは迷った。


(どうしよ?アエローちゃんのときは思わず教えちゃったけど?本当なら辺境伯の警備のことを思えば、良いとは言えないだろうな)


 マージは間を置いて尋ねる。


「私が代わりにもらって、辺境伯さまに渡そうか?」

「ぶっぶ〜!手紙は本人に直接渡すのが決まりだよ〜!」


 ミィの返事にマージは悩む。

 そして、意を決したようにミィに提案する。


「それじゃ、私がミィちゃんを辺境伯さまのお部屋に案内しようか?」

「案内?良いの〜?」


 無邪気な笑顔で言われてマージは頷く。


(この子が私の幻覚だったり、ゆっ、幽霊だったとしても、正体が分からないままじゃ放っておけないわ!)


 なによりモヤモヤが残って仕事が手につかない今の状態は困るとマージは変な開き直りをする。


「ちょっと待ってね〜」


 マージの気持ちを知らないミィは一言前置きをする。

 そして、ガツッと音を鳴らして窓枠に鋭い鉤爪が現れる。

 次にニョキッとミィの姿が窓から身を乗り出して現れる。

 頭と胴体は普通の少女。

 しかし、本来両腕がある位置には鉤爪がついた赤い翼が生えている。

 そして、両足は細い鳥の足であり、翼より大きく鋭い鉤爪が自己主張している。

 何か服を着ているようだが今のマージには、そこまで意識がまわらない。


「…………………………」

「ふぃ〜!ずっと石に鉤爪を引っ掛けるのは疲れるねぇ〜!オネェさん?」

「あっ、こっちです」


 ミィの姿に思考が停止したマージは彼女の前を歩き出して案内を始めるのだった。





 ーーその日、グラハム辺境伯は執務室で1人、物思いにふけっていた。

 あのハーピーが手渡してきた子爵の書簡。

 あれのおかげで辺境伯軍の派遣先を決定でき、迅速に軍を動かすことができる。

 しかし、モンスターが持って来た物を完全に信用できるかと言えば、そうではなかった。

 先程までの軍議でまずは小規模の偵察隊を派遣して真意を確かめることが決まっていた。


「閣下!!」


 そこへ、護衛騎士が慌てて入って来た。


「どうした?」

「城内にハーピーが侵入しております!」

「なに、ハーピーだと?」

「ハッ!現在、城のメイドを盾にここまで侵攻しております!」


 報告にグラハムの表情は厳しくなる。


「そのメイドは無事か?」

「今のところは!ですが時折、コッチデス、コノサキデスと呟いているとの報告が!」


 それは、そのメイドがハーピーを案内してるのではないかという言葉をグラハムは呑み込む。


「続報です!」


 そこへ、別の騎士が慌てて入って来る。


「件のハーピーは服を着て、帽子を被っています!」

「服と帽子を?」


 グラハムの脳裏に子爵の書簡を届けに来たハーピーの姿が浮かぶ。


「服を着ているからなんだ!そんな下らん報告など、いらん!」


 先に入って来た騎士が叱責する。


「ハッ!申し訳ありません!ですが、ハーピーが被っている帽子にアルガス子爵閣下の紋章があるとのことです!」

「子爵のだと?」


 グラハムは報告を聞くと騎士の制止を聞かずに扉へと歩みを進める。

 そして執務室から出るとちょうど、騎士や衛兵に剣や槍で囲まれた件のメイドとハーピーが目についた。

 確かに、そのハーピーは服を着ていた。

 見慣れない青い服だった。

 翼の動きを妨げないように背中が大きく開いたノースリーブの上着に、赤茶色の革帯を斜めに掛けている。

 その革帯には、小さな革製の鞄が取り付けられていた。

 報告にあった青い帽子の正面にはアルガス子爵の紋章が目立つ金糸で刺繍されている。


「あっ。ちょうど、お出ましになったわ。良かったね、ミィちゃん」

「うん!ありがとうね、マージのお姉さん!」


 栗色のハーピーではないが、小さな鞄を下げたハーピーがメイドに礼を言ってグラハムの前に歩み寄る。

 ガチャッと一斉に剣や槍がハーピーに集中する。

 グラハムは片手で、それらを止める。

 そして、ガサゴソと翼の鉤爪で鞄の中からアルガス子爵の封蝋の押された1通の手紙を差し出す。


「どうぞ〜」

「……………うむ」


 グラハムは手紙を受け取る。

 ハーピーは、それを確認すると鞄から手帳を新たに出して、空白のページをグラハムに広げる。


「ここにハンコまたはサインをお願いしま〜す」

「……………では、サインで」


 グラハムは、1人の騎士にペンとインクを持って来させるとサラサラと名前を書く。


「んし!確認〜!」

「あ〜。もしかして返信も頼めるか?」

「良いよ〜、ミィに任せて〜!」


 廊下にハーピーの明るい声が場違いに響く。

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