12羽
「ウッ……………」
腰に響く鈍い痛みにアルフレッドは眉をしかめて重いまぶたをゆっくり開けた。
空が近く感じる。
いつもより大きく見える朝日を眺める。
一瞬、ここはどこだったかと疑問が頭をよぎる。
(ああ、そうだった……………。アエローたちの住処か)
レンたちが出発した後、圭介の提案でハーピーたちが住む大木へ、アルフレッドとルディを運んでくれたのだった。
(まったく、肝が冷えたな)
下手に動かせない彼を、ハーピーたちは地面に敷いた布ごと運ぶことにした。
布の四隅を4羽でつかみ、そのまま空へと吊り上あげたのだ。
そのときの感覚を思い出して苦笑する。
(まったく生きた心地がしなかったな)
ちなみにルディは、圭介が飛んできたのと同じ方法でツタのブランコに座り、楽しんでいた。
「あっ、起キテたんデスネ!おはようゴザイマス、アルフレッドさん」
頭に寝癖をつけた圭介がアルフレッドに声を掛ける。
「起こしてしまったのか?そうだったら、すまんな」
「イエ、もうオキテマシタ。……………身体はドウ?」
圭介に言われてアルフレッドは、つま先に力を入れようとする。
だが、足の指はピクリとも動かない。
それどころか相変わらず、感覚そのものがない。
アルフレッドは静かに首を振る。
「ソウですか……………。キット良くなりマス!頑張っテ、アルフレッドさん!」
「だと良いがな。ああ、そうそう。アルだ」
「?」
「アルと呼んでくれ。親しい連中には、それで通ってるんだ」
「ハイ、アルさん」
圭介はニッコリと笑う。
アルフレッドも、それに釣られるように笑うと彼の隣で寝息を立てていたルディがあくびをしながら起き上がる。
「ふぁ〜。ん、んん〜!あら、2人ともおはよう」
「おう」
「オハヨウゴザイマス!」
彼女はゆっくりと立ち上がると服についた細かい藁や泥を叩き落として辺りを見渡す。
「なんだか不思議な所よね」
「フシギ?」
「ええ、鳥の姿を何倍も大きくした住処なんですもの。なんだか、私たちも鳥になったみたい」
大木にはハーピーの数だけ巣が作られている。
圭介は、「そうですね」と相づちを打つ。
「ところでアエローたちは居ないのか?」
どの巣にもハーピーが居ないことに気付いてアルフレッドは圭介に問い掛ける。
「アエローたちハ出てマス、狩りへ」
圭介が片言の共通語で説明すると、アルフレッドはなるほどと納得した。
「タブン、帰ってクル。もうすぐ………ほら!」
そこまで言うと圭介は、ほらっと空を指差した。
ちょうど朝日を背にハーピーの群れが帰って来ていた。
彼女たちの足には、それぞれの獲物がぶら下がっている。
中には自分より大きな獲物を仕留めてフラフラ飛んでいるハーピーもいる。
そして、思い思いに自分の巣に獲物を投げ入れて降り立つ。
「ただいま〜!」
アエローが3人の前に舞い降りる。
彼女の足元にはキツネのような獲物と木ノ実が転がる。
「朝ごはんだよ!圭介とアルはこっちね。ルディは、あたしと半分こ!」
そう言って、アエローはキツネをルディの顔の前に突き出す。
「どうぞ〜!先に食べて!」
「え゙っ!?な……………生で?」
戸惑うルディにアエローは不思議そうな顔になる。
「えっ?ルディって雌だよね?」
「メッ、メスって……………アエローちゃん、私たちの言葉では女性って言うのよ。あと、生肉は食べないの」
「え?そうなの?」
「そうなの。ご飯なら、自分たちの荷物があるから大丈夫よ」
そう言って彼女は鞄から、乾パンと干し肉を取り出す。
「あっ、ソレを僕モ貰ってもヨイですか?」
圭介は目を輝かせてルディに頼む。
そのとき、遠くから「お〜い、帰ったよ〜」と明るい声が響く。
見ると昨日、アルガスへと向かったルルの姿があった。
「ルル!」
「早いな、もう帰って来たのか!」
アルフレッドは、驚いて声を上げる。
そして、ルルはバサッと翼を広げてアエローの巣に着地する。
「ただいま〜!」
「ルルだったよな?どうだっ」
「何、それ!!」
「うわぁ~、可愛いー!!」
「もっとよく見せて、見てせて!」
「良いなぁ〜、ミィも欲しい……………」
アルフレッドが声を掛けようとしたが、ルルの周りに他のハーピーが群がり出して彼の声は押しつぶされる。
「カッカッカ!気づいちゃったか〜!」
ルルは自慢気にくるりと回る。
ハーピーたちの歓声が上がる。
彼女が着ているのは昨日までの葉っぱで作られた服ではなかった。
彼女の青い髪と翼によく似合う、淡い青を基調としたシンプルなワンピース。
しかも、袖のない仕立てで、ルルの翼の動きを妨げないように工夫されている。
明らかに彼女のために用意されたのだろう。
「細いじいちゃんがくれたんだ!」
「「「良いなぁ〜」」」
カッカッカと笑うルルの服を皆が羨ましそうに見つめる。
余談だが、その細いじいちゃんが街の服屋を叩き起こし、高額な報酬と引き換えに徹夜で作らせた一品である。
「はいはい、皆!羨ましいのはわかるけど、静かにしなさい」
ルディがパンパンと手を鳴らすとハーピーたちは、「は〜い」と返事をして口を閉じる。
「ルル、オカエリ。ドウだった?」
改めて圭介が聞くとルルは楽しかったよと笑い、鞄から、1通の手紙を差し出す。
「これ、細いじいちゃんが圭介にって!あっ、ハンコかサインしてもらった方が良い?」
「ハハハ、大丈夫ダヨ」
圭介は、手紙の封蝋を破いて手紙を読む。
「……………」
「なんて書いてるの?」
アエローに尋ねられて、圭介は困ったように彼女に振り返った。
そして、日本語で口を開く。
『読めないよ。アエロー、代わりに読んでみてくれる?』
『ん〜、あたしも文字は読めないんだ。ねぇ、誰が読める?』
『ムリ〜』
『文字って興味ない〜』
『ミィもダメ〜』
『Aだけなら読めるよ〜!』
それぞれが翼で☓マークを表現する。
「……………もしかして読めないのか、お前ら?」
そこへ、反応を見ていたアルフレッドが圭介たちに尋ねる。
「ハイ。読めマセン」
「貸せよ、読んでやるから」
アルフレッドの提案に圭介は従い、手紙を渡す。
アルフレッドは手紙を一通り読むと軽く目を見開く。
「ドウですか?」
「ああ、俺たちを迎えに馬車が派遣されるみたいだ。あと、書簡を届けたことに感謝する。もし、その気があれば引き続き協力を求むとも……………」
「良かっタ!」
「まぁ、最後まで聞けよ。手紙では圭介と群れのリーダーに街へ来て、領主さまとギルドマスターに会って欲しいと書いてある」
「街ニ?」
「あたしも?」
読んだ手紙を圭介に差し出してアルフレッドは頷く。
「ああ、これは正式な領主の召喚状だ」
「召喚状……………」
手紙を受け取った圭介は街の偉い人に呼び出されたと知り、圭介の胸に緊張が沸き上がった。
「どうする?」
「……………行きマス。コレからの人間とハーピーのコトモありますカラ」
決意を胸に圭介は視線を上げる。
アルフレッドは、そうかと一言口にする。
そのとき、ルルが「そうだった」と声を上げる。
「細いじいちゃんが街に来るリーダーにって!」
そう言って鞄から少し、シワの寄った同じデザインのワンピースを取り出す。
「おっ!それ、あたしの?やった〜!」
アエローはルルからワンピースを受け取ると、ルディに手伝ってもらいながら嬉しそうに着替えた。
ルルの淡い青とは違い、アエローの翼の色に合った淡く明るく染められた栗色のワンピース。
『凄く似合ってるよ、アエロー』
圭介の言葉にアエローは満面の笑顔を浮かべる。
そして、ルルがひと休みする時間を設けた後、圭介たちはアルガスの街へ向かうことになった。
2羽のハーピーが朝の空へと舞い上がり、その間でツタのブランコが揺れる。
そこには、少し緊張した表情の少年が座っていた。




