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第13話 明日終わったら電話する

 アキトさんを待つ時間が、妙に長かった。


 旧搬入口の冷気は変わらない。


 金属ケースは透明な保全カバーの中で固定され、青黒い結晶片は小さく光っている。

 端末画面には、事故報告書、搬出ログ、管理番号照合表が並んで開かれ、ケースの側面には赤黒い「返せ」の文字がある。


 全部がそこにある。

 足りないものは1つだけ。


 黄色いコーティング剤が、事故のあとではなく、事故の前からそこにあった証拠。

 アキトさんが持っているという事故前日の写真を見れば、足りなかった場所が埋まる。


 待っている間に、個人端末に短い通知が届いていた。


 姉からだった。

 休憩室のサボテンに水をやったことと、差し入れを置いたことだけが、短く書かれている。


 返事を打つ余裕はなかった。

 でも、その通知だけは消さずに残した。

 帰る場所が、まだ画面の中に残っていた。


 端末を包み込むように両手で握る。

 帰る場所が、まだ画面の中に残っていた。


「ミオさん」


 トウマさんが低く呼んだ。


 旧搬入口の入口側で、職員がひとり道を開ける。

 アキトさんが、松葉杖をついて入ってきた。


 昨日、石材の下から助け出したばかりだった。

 顔色は悪く、左脚には固定具がついている。

 それでも、背筋だけは折れていなかった。


 松葉杖の先が、旧搬入口の石畳で一度だけ止まる。

 アキトさんは杖を握り直して、保全カバーの前まで来た。


「アキトさん、無理をさせてすみません」


 トウマさんが頭を下げた。


 アキトさんは、すぐには答えなかった。

 視線が、下へと向かう。


 金属ケース。


 紙片に残った探索者登録番号。

 端末に表示された、弟の名前。


「ハルトの、ですか」


「はい」


 トウマさんは余計な言葉を足さなかった。

 慰めも、推測も、怒りも足さず、ただ事実を置く。


「3年前の事故に関連する資料として、保全しました。今から提示するものは、すでに記録済みです。アキトさんから新しい証言を引き出すためではありません」


「……はい」


「あなたに、確認してもらうためです」


 その順番なら、アキトさんを証言台へ引っ張り出さずに済む。


 弟さんの名前を、まず兄へ返す。

 私はそう思いたかった。


 彼はケースの側面を見た。

 返せ、という赤黒い文字。


 その瞬間、アキトさんの肩が小さく沈んだ。

 崩れるほどでも、泣き出すほどでもない。

 ただ、杖を握る手が、ほんの少しだけ下がった。


「あいつ、字が汚くて」


 アキトさんが言った。

 声は乾いていた。


「焦ると、もっと汚くなるんです。母さんに毎回怒られてた」


 私は何も言えなかった。


 返せ、の字はきれいではなかった。

 こすれて、歪んで、途中で力が抜けている。


 証拠として、誰の筆跡かをここで断定することはできない。

 でも、それを汚い字だと呼べる人がいる。


 「返せ」は、記録の上ではまだ誰の言葉とも確定していない。

 それでも、アキトさんには届いていた。


「写真を見せてもらえますか」


 トウマさんが静かに言う。


 アキトさんは頷き、スマホを取り出した。


 指先が少し震えている。

 怪我のせいか、そうではないのか、わからない。


「事故の前日です。夜に送ってきました」


 画面に、1枚の写真が開かれる。


 画面には、灰色の石畳と、白いペイントで描かれた区域番号『B-3』が映っていた。

 石畳の溝のフチには、黄色いコーティング剤が厚く塗られている。


 見た瞬間、私は石畳の白い区域番号から目を離せなくなった。


 ここだ。旧搬入口、今、私たちが立っている場所。ただし、3年前。


 区域番号を囲む白い枠の角度が同じ。

 石畳の溝の欠け方も同じ。

 エレベーター扉の下にある小さな錆も、同じ位置にある。


「この写真、拡大してもいいですか」


 私は聞いた。


「どうぞ」


 アキトさんがスマホを差し出しかけて、途中で止めた。

 それから、少し迷って、自分の手で画面をこちらへ向ける。


 渡したくないのだと思った。

 当然だ。


 これは証拠である前に、弟から届いた最後の写真だ。


「触りません。角度だけ、お願いできますか」


「はい」


 私は画面に触れず、ライトの位置を変えた。

 黄色いコーティング剤が、斜めに光る。


 色と艶から見て、コーティング剤はA-12。


 危険な残滓を一時的に閉じ込めるための、古い型のコーティング剤だ。

 乾くと黄色くひび割れる。それが、この写真ではまだ艶を持っている。


 事故前日には、塗りたてだった。


「事故後の通常補修ではありません」


 言葉が、ほとんど勝手に出た。


 職員のキーを叩く音が止まった。


 ヴァルト担当者の目が、こちらへ向いた。

 口元が、少しだけ動きかける。


 事故後の通常補修、旧型のA-12が残っていた、清掃時期の記録違い。そう言うための隙間なら、まだあった。


 でも、写真の日付は事故前日だった。


「ミオさん、根拠を」


 トウマさんが言う。


 私は頷く。


「まず、石畳の溝です。今の石畳と同じ欠けがあります。場所はここで間違いありません」


 私は足元の石畳の溝を指した。


 白テープの向こう。

 石畳の溝のフチが、一部だけ浅く欠けている。


「写真の左下にも、同じ欠けが写っています。あと、区域番号『B-3』の枠の角が丸い。塗装が剥げた形も一致しています」


 職員がすぐに現場写真と照合する。

 画面が2つ並び、3年前の写真と今日の写真で、区域番号の枠の角、石畳の溝の欠け、エレベーター扉下の錆が照合される。


 同じ場所だ。


「次に、コーティング剤の塗り方です」


 私はアキトさんのスマホを見つめた。

 黄色いコーティング剤は、溝に沿って細く塗られていない。


 溝をまたいで、べったりと盛られている。

 端は指でならしたみたいに波打っていた。


「通常補修なら、溝の底を残します。あとから水分や残滓が溜まっていないか確認できるようにするためです。でもこれは、溝に蓋をする塗り方です」


「3年前に、もう隠していた?」


 職員のひとりが呟いた。


「はい。少なくとも事故の前日に、誰かがここを危険だと知っていて、灰色の魔素汚染を溝ごと塞いでいた可能性が高いです」


 口にした瞬間、アキトさんの指が画面の端を強く押さえた。


 つまり、事故が起きてから隠したのではない。

 事故の前から、ここには隠すべきものがあった。


「メモもあります」


 アキトさんが言った。

 彼は写真の下にあるメッセージを開く。

 短い文章だった。


 兄貴、また塗ってあるんだけど。

 黄色いの、溝の中まで埋めてある。

 これ、普通じゃないよな。

 明日終わったら電話する。


 文面は明るく、少し軽い。

 兄に見せるための、いつもの調子が残っている。


 それが苦しかった。


 ハルトさんは、明日が来ると思っていた。

 終わったら電話する、と書けるくらいには。


「そのメモ、送信時刻は」


 トウマさんが聞く。


「6月16日、22時48分です」


「事故前日の夜ですね」


 トウマさんは記録端末へ目を落とす。


 事故は、6月17日、21時12分。

 写真は、その約22時間前。


 何を隠したのかは、まだ断定できない。

 けれどヴァルトは、事故の前からここを塞いでいた。


「事故後の通常補修という説明は、成立しません」


 トウマさんが言った。

 声は大きくない。


 その声で、担当者の視線が端末から上がった。

 画面の上端には、深層フェス安全説明会の通知が残っていた。


 ヴァルト担当者が、ようやく口を開く。


「写真の日付は、端末上の表示でしょう。後から変更された可能性も」


「原本端末の保全を依頼します」


 トウマさんは即答した。


「クラウド同期履歴、送信サーバー記録、受信端末ログを確認します。アキトさん、原本はあなたの手元に残したまま、複製で進めます」


「お願いします」


 アキトさんの返事は、短かった。

 スマホのフチを押さえる指だけが、まだ離れない。


 トウマさんは、その手を急がせなかった。


「ミオさん、写真から読み取れる範囲を続けてください」


「はい」


 私はもう一度、写真を見る。


 黄色いコーティング剤、白い区域番号、石畳の溝。

 その周りに、薄い灰色の魔素汚染が帯のように残っている。


「補助として、拭いた跡も見えます」


 私は言った。


「事故前日に?」


「はい。区域番号の枠の内側だけ灰色の魔素汚染が薄いです。外側はざらついているのに、コーティング剤の周りだけ丸く薄くなっています」


「順番がわかるんですか」


 アキトさんが聞いた。


 疑っている声。ではなかった。

 本当に、弟が見たものを知りたい声だった。


「写真だけで全部は断定しません」


 私は答えた。


「ただ、コーティング剤のフチの下に残滓が入り込んでいます。先に残滓があって、その上から溝をふさいだ可能性が高いです」


 アキトさんは、ゆっくり頷いた。

 わかったというより、受け取った、という動きだった。


「あいつ、変なところに気づくやつで」


 アキトさんが言う。


「配信向きじゃないって言われてました。画面の真ん中じゃなくて、端ばっかり見るから。床の汚れの違いとか、塗り直された壁とか、そういうのばかり気にして」


「清掃の手順も、よくメモにして送ってきました。足元の線や汚れの話で、俺には意味までは分からなかったんですけど」


 少しだけ笑おうとして、失敗した顔だった。


「でも、こういうのを撮ってたんですね」


「はい」


 私はそれしか言えなかった。


 アキトさんが話している間、私はハルトさんがどんな人だったかを少しずつ理解できた気がした。

 他の人には理解されにくい仕事を、1人でやり続けた人だった。


 私と、同じだ。

 ハルトさんが見ていた場所を、私は今、同じ視線で見ている。

 会ったことのない人なのに、私には想像できる。


 ハルトさんは、3年前にその作業の途中で止まったまま戻らなかった。

 その続きを、私が引き受ける。


 今、私が写真から読み取ったのは、コーティング剤のフチと、残滓の薄い帯だった。

 アキトさんの話と重なる。


 事故前日の区域番号とコーティング剤が、今ここに戻ってきた。


 写真で分かったのは、事故前にコーティング剤があったこと。

 でも、それを誰が「通常補修」と呼ばせたのか。

 その欄だけは、まだ埋まっていなかった。


「ハルトのメモに、続きがあります」


 アキトさんが言った。

 その声は、さっきより低かった。


 彼は画面を少し下へ送る。

 写真の数分後に送られた、もう1通のメモが開いた。

 画面には、ハルトさんの文面が3行で残っていた。


 深町さんが来た。

 聞いたら「通常補修だから触るな」って。

 明日、責任者に確認する。


 メモ本文は、そこで終わっていた。


 透明な保全カバーの向こうで、青黒い結晶片だけが小さく光っていた。


 深町リョウスケ。


 さっき見た管理番号照合表の責任者。

 その名前が、事故前日のハルトさんのメモにも残っている。


 写真の日付、ハルトさんのメモ、深町リョウスケの名前。

 その3つで、深町さんの名前は事故前日の現場へつながった。


 ヴァルト担当者が、半歩後ろへ下がった。


「一度、社内確認を」


「離れないでください」


 トウマさんの声は静かだった。


「深町リョウスケ氏への連絡は、事故調査課経由で行います。今この場で、あなたから連絡を取れば、証拠保全妨害として記録します」


 担当者の手が、上着の内ポケットの手前で止まった。

 スマホを取り出す前だった。


 でも、取り出そうとしたことは全員に見えた。


 アキトさんも見ていた。


 弟の最後のメモが読まれた瞬間、相手が最初にしたことが、確認ではなく連絡だった。


「その動きも、記録に入ります」


 トウマさんが言った。

 低く抑えた声に、怒りが残っていた。


「久我ハルト氏の事故前日メッセージ。深町リョウスケ氏、旧搬入口へ来訪。発言は「通常補修だから触るな」」


 職員たちが、メッセージの複製保全と深町リョウスケへの照会に動き出す。


 でも私は、アキトさんの手元を見ていた。


 スマホを持つ指が、画面の端をなぞっている。

 ハルトさんのメッセージを、消えないように押さえる手つきだった。


「アキトさん」


 私は呼んだ。


 何を言えばいいのかわからないまま。

 でも、呼ばずにはいられなかった。


 アキトさんは、こちらを見た。


「ハルトさんは、気づいていました」


 言った瞬間、肩に下げた清掃バッグが急に重くなった。


 言いやすい言葉はいくつもあった。でも、写真に写っているのは、戻ってこない人の仕事だった。


「石畳の異常を見て、写真を残して、誰かに確認しようとしていました。事故の前に、危ないと気づいていたんだと思います」


 アキトさんは黙っていた。

 長い沈黙だった。


「あいつ、怖がりだったんです」


 その言葉は、意外だった。


「でも、危ないって言えるやつでした。俺は兄貴なのに、平気なふりばかりしてた」


 スマホの画面が、アキトさんの手の中で少し傾く。

 黄色いコーティング剤が光る。


「危ないって思ったから、撮ったんですね」


「はい」


 私は頷いた。


「危ないと気づけるのは、安全な場所との違いを見ているからです」


 アキトさんの目が、一瞬だけ揺れた。涙は落ちなかった。代わりに、スマホを胸元へ引き寄せる手に力が入った。


「3年、あいつは無茶をしたんだと思ってました」


 アキトさんは言った。


「危険な場所に勝手に入って、戻れなくなったんだって。そう説明されて、そう思うしかなかった」


 彼は透明な保全カバーの中のケースを見る。


「でも、違ったんですね」


 誰も、すぐには答えなかった。トウマさんの端末には、写真とメモとログが並んでいる。


「その可能性が、非常に高いです」


 トウマさんが言った。

 ぎりぎりで、でも逃げない言葉だった。


 アキトさんは、ゆっくり頷いた。


「それだけで、今日は十分です」


 彼は、スマホを両手で抱え込むように引き寄せた。


「ハルトは、逃げたんじゃなかったんですね」


 旧搬入口の冷気の中で、その声だけが少し震えた。


 私は清掃バッグのベルトを、もう一度握り直した。

 白線の内側で、ゆっくり頷く。


 アキトさんの親指が、スマホの画面にあるハルトさんの名前の上で止まる。

 画面が暗くなりかけて、彼はもう一度点けた。


 アキトさんは、スマホを胸元に引き寄せたまま言った。


「この記録、使ってください。ハルトが気づいていたなら、今度は止めてください」


 その言葉は、頼みというより、引き継ぎに聞こえた。


 ハルトさんが撮った写真と、短いメモと、深町リョウスケの名前。

 それだけが、旧搬入口の冷たい画面に残っていた。


 職員のひとりが、アキトさんの隣に静かに椅子を運ぶ。

 アキトさんは松葉杖を脇に立て、ゆっくり腰を下ろした。

 スマホの画面はまだ、点いたままだった。


 トウマさんの端末が鳴った。

 職員から転送された深町リョウスケへの所在確認だった。


 画面を見たトウマさんの眉が、わずかに動く。


「どうしました」


 私が聞く。


「深町氏が、本日午後から深層フェスの安全統括説明会に出ています」


「第3試験区画の現況も押さえてください」


 トウマさんは、職員にすぐ指示した。


 深層フェス。


 毎年この時期にヴァルトが安全統括を務める、探索者と配信者の合同公開イベント。

 今年は安全確認済みの試験区画を使い、深層素材採取の新しい運用を見せると告知されていた。


 トウマさんの端末に、説明会の待機画面が開く。


 待機画面には、ロゴ、協賛企業の列、ヴァルト安全統括部の名前が並んでいた。

 その下の登壇者欄には、深町リョウスケ。


 3年前、旧搬入口で黄色いコーティング剤を「通常補修だから触るな」と言った人。

 久我ハルトさんが、明日確認すると書き残した相手。

 管理番号照合表で、素材搬出の責任者欄に名前を残していた人。


 その人が、今度は大勢の探索者と視聴者の前で、そこが安全な場所だと説明しようとしている。


 待機画面の赤い帯には、まもなく開始、と出ていた。


 コメント欄も、すでに動いている。


 《深町出るの?》

 《深町って誰》

 《安全説明って今やるの?》

 《深草迷宮の件、説明ある?》


 旧搬入口の空気が変わった。


 昨日までなら、配信画面の向こうで流れる文字だった。

 でも今は違う。

 その画面の向こうに、これから深層フェスへ入る人たちがいる。


 やがて、職員の端末に1枚の画像が追加された。


「事故調査課のマシロさんから現況写真です。深層フェス第3試験区画、搬入口手前」


 私はまず、画像の上端に載った緑色の枠を見た。


 第3試験区画、安全確認済み。


 その安全表示の下で、白い仮設ラインだけが少し手前へずれている。

 奥には、入場待ちの配信者たちの靴先が小さく写り込んでいる。


 そして、その手前。


 石畳の溝をまたいで、薄い黄色のコーティング剤が盛られていた。

 コーティング剤のフチから、乾ききっていない灰色の魔素汚染が細くはみ出している。


 私は息を止めた。


 3年前の写真と、同じだった。


 コーティング剤が、溝を完全に塞いでいる。

 水分も残滓も、閉じ込められている。

 補修ではない。


 中へ押し込めるための蓋だ。


「同じです」


 声が、思ったより早く出た。


 アキトさんが顔を上げる。

 トウマさんも、画面を見る目を細めた。


「安全確認済みの場所で、3年前と同じ隠し方をしています」


 私は画面から目を離せなかった。


 白い仮設ラインの下で、黄色い蓋が石畳の溝をまたいでいる。

 3年前の写真では、区域番号『B-3』の白い枠の先にエレベーター扉の下の錆が写っていた。

 今日の写真では、白い仮設ラインの先に搬出ゲートがある。

 目印の種類は違う。

 でも、どちらの写真でも、白いペイントの先は搬出側で、黄色いコーティング剤はその手前の石畳の溝を塞いでいる。


 ハルトさんは、これを見つけた。

 写真を撮った。

 兄に送った。

 深町リョウスケに確認しようとした。


 そして、戻らなかった。


 同じ蓋が、今。

 深層フェスの「安全確認済み」の下にある。


 もしこのまま説明会が始まれば、深町リョウスケは、3年前と同じ言葉を口にする。


 通常補修です。

 安全確認済みです。

 触らないでください。


 その言葉で、今度はもっと多くの人が、

 白い仮設ラインの奥、搬出ゲート側へ入っていく。


 アキトさんのスマホには、ハルトさんの最後のメモが残っている。


 明日、責任者に確認する。


 その明日は、3年前には来なかった。

 でも、記録は残っていた。

 写真も、メモも、黄色いコーティング剤も、深町リョウスケの名前も。


 私は足元の白テープを見た。

 旧搬入口の石畳に貼った線は、まだそこにある。


 ハルトさんが確認に行けなかったその場所へ。


 今度は、私たちが行く番だった。

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