表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全言語翻訳カンスト勢の悩み相談所 ~魔物の愚痴を聞くだけで世界征服しそうです~  作者: キュラス
天界からの超ブラック監査と、神様への極上ヘッドスパ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/55

営業妨害と、強行突破のキャリアコンサルティング

「……君たち、本当に余裕がないんだね」


深淵(しんえん)の森』のボロ小屋の裏庭。

地面に無残に散らばった温泉まんじゅうを見つめ、俺、ジンの声からいつもののん気さがスッと消えた。

俺の【全言語翻訳(Lv.MAX)】スキルは、彼らが放つ絶対的な死の気配を「生活の糧を求めて必死すぎる営業マンの殺気」と解釈しているが、それでも食べ物を粗末にする態度は見過ごせない。


『――ターゲットノ感情変動ヲ検知。精神汚染プロトコル、効果ナシ。物理的排除率、0.0001%以下……。出力ヲ、最大ニ固定』


漆黒のローブを纏った『冥府の執行官デス・エグゼキューター』たちは、俺の怒りを受けても一切の動揺を見せない。彼らは生命体ではなく、冥界という巨大なシステムの「末端」であり、プログラムに従って動く機械に等しいからだ。


三人の執行官が、同時に禍々しい大鎌を頭上に掲げた。

その瞬間、周囲の空間がガラスが割れるような音を立てて剥離し、ボロ小屋の周囲だけが「宇宙の理」から切り離された漆黒の特異点へと変貌していく。


『――奥義・『万象終焉(エンド・オブ・オール)』。対象ノ存在、および因果律を根底ヨリ消去デリートスル』


神々すらも存在を抹消されるという、冥界最凶の広域消滅魔法。

放たれた漆黒の波動が、津波となって俺を、そして背後のボロ小屋ごと呑み込もうと迫り来る。


(…………本日の、三錠目。……ああ、視界が歪んできました)


縁側の影に潜んでいたルミナは、もはや呼吸すら困難なほどの圧迫感に、震える手で胃薬を口に放り込んだ。

彼女の目には、世界そのものが「死」という名の黒いインクで塗り潰されていく絶望的な光景が見えていた。


「レオ君、クラリスさん! 庭の洗濯物を取り込んで! ちょっと『突風』が来るよ!」


俺は、迫り来る消滅の波動を、ただの「営業マンが持ち込んできた強引な契約書(物理的な風圧)」と解釈した。


「……いい加減にしてくれないかな。押し売りはお断りだって言ってるだろ!」


俺は、手に持っていたジョウロを、無造作にその漆黒の波動に向かって振り抜いた。


カァァァァァァァァッ……!!!!


ジンの頭上の『神使の輪(エンジェル・ヘイロー)』が、かつてないほどの激しい白銀の輝きを放つ。

ジンの「押し売りを追い払う」という強い意志が、宇宙の管理者権限を通して、冥界の奥義そのものを『書き換え(デバッグ)』した。


ズバァァァァァンッ!!!


すべてを消滅させるはずの漆黒の波動は、俺のジョウロに触れた瞬間、パッと爽やかな「ラベンダーの香り」を放つ、ただの『強力な消臭スプレーの霧』へと変質してしまったのである。


『――!? 奥義ノ概念出力……失敗。……対象ハ、宇宙の理を「日常」ヘト強制変換シテイル。論理的帰結……対話、および武力行使ハ無意味ト判定』


執行官たちは、自分たちの最強の攻撃が「芳香剤」に変えられたという事実すら、単なる「エラーログ」として処理した。

彼らは即座に大鎌を捨て、指先から実体化した『魂の鎖(ソウル・バインド)』を俺の四肢に巻き付けようとする。


「まだやるのか……。本当に、クビがかかってるんだな、君たちは」


俺は、彼らの粘り強い、というより「執着に近い」攻撃に、少しだけ毒気を抜かれた。

彼らの動きはあまりに正確で、あまりに悲壮感が漂っている。

ふと見ると、執行官の一人のローブが少しだけはだけ、その内側の「本体」がチラリと見えた。

それは……透き通るほどに痩せ細り、今にも霧散してしまいそうな、ボロボロの霊体だった。


(……えっ? この人たち、あんなに攻撃的なのに、中身はこんなにガリガリなの!?)


俺の翻訳スキルが、彼らの深層心理システムログの奥底にある、本当の叫びを初めて拾い上げた。


『――魔力残量、0.02%。……魂の配給停止カラ、四百八十時間経過。……この任務を遂行シ、再就職の優先枠(魂の魔力)を……得ナケレバ、我ラハ消滅スル……』


「…………」


俺は、胸の奥がチクリと痛むのを感じた。

彼らには感情がないのではない。あまりの空腹と、職を失う恐怖によって、感情を出す余裕すら奪われていたのだ。

いわば、ブラック企業の極限状態。


「……分かった。君たちは、ただの乱暴な営業マンじゃないんだね」


俺は、ジョウロを地面に置いた。

そして、逃げようとする執行官たちの肩を、音速を超えた動き(※本人はただの歩み寄りだと思っている)でガシッと掴んだ。


『――!? 回避不能。……接触。……対象ノ、圧倒的ナ「熱量」ガ流入シテ……』


「再就職したいなら、まずはちゃんと座りなさい。そんなにフラフラの体じゃ、いい仕事なんてできないよ」


俺が、最高管理者権限エンジェル・ヘイローをフル稼働させ、彼らの「存在の根底」に直接語りかける。

すると、あんなに無機質だった執行官たちの体に、無理やり「生命の温度」が注入され、彼らのシステムが一時的に「強制再起動リセット」された。


ドサッ、ドササッ!


三人の執行官は、糸が切れた人形のように、その場に崩れ落ちた。

そのまま、俺は彼らを強引に(丁寧に)抱え上げ、縁側の特等席へと座らせた。


「ルミナ! すぐに『お粥』を作って! 具材は魔界の元気が出るやつと、天界の滋養強壮にいいやつ、全部入りで! この人たち、完全に『欠食児童(餓死寸前の社員)』だ!」


「えっ……!? じ、ジン様!? 今まで私を殺そうとしていた刺客を、縁側で看病されるのですか!?」

ルミナが、お玉を持ったまま腰を抜かした。


「いいから早く! 倒産寸前の会社から逃げてきた失業者なんだ、まずは胃袋を満たしてあげないと、話も聞けないだろ!」


▼▼▼


数分後。

ボロ小屋の縁側には、漆黒のローブを纏ったまま、呆然と「お粥」の椀を持つ三人の執行官の姿があった。


『――……理解不能。……我ラハ、貴様ヲ殺スタメニ……来タ。……ナゼ、エネルギー(食事)を……提供スル……』


「いいから食べて。温かいうちにね」


ジンが優しく背中を叩くと、執行官の一人が、震える手でお粥を一口、口に運んだ。

その瞬間。

冥界の冷たい理で凍りついていた彼の霊体に、ジンの魔力がこもったお粥の「熱」が爆発的に浸透した。


『――!? マ、魔力出力……限界突破。……凍リツイタ魂が……融解、シテ……。……ア、アァ……』


無機質だった執行官の瞳から、一筋の、熱い『涙』がこぼれ落ちた。

機械だったはずの彼らに、ジンの「お節介」が、無理やり『心』を取り戻させてしまったのである。


「……落ち着いたら、聞かせてよ。君たちの会社(冥界)で、一体何が起きてるのか」


ジンの静かな問いかけ。

ついに、冥界が抱える「死なない世界(一回休み)」の歪みが、最前線の現場(執行官)の口から語られようとしていた。


その頃、冥界の閻魔庁では。

派遣したエージェントたちが「お粥を食べて号泣している」という信じられない監視映像(遠隔視覚)を見た冥界王ハデスが、絶叫と共に玉座から転げ落ちていた。


「バ、バカなァァァッ!! 我が最強の冷徹マシン共が……たった一杯のお粥で、人間臭く改竄デバッグされただとォォォッ!!?」


冥界の王の怒りと焦りが、いよいよ直接ボロ小屋へと向かおうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ