宇宙最強の裏庭バーベキューと、星空を食べる秋の収穫祭
『深淵の森』が、見事な秋色に染まり始めたある日のこと。
ボロ小屋の縁側で、干し柿の隣に腰掛けた俺、ジンは、高く澄み切った青空を見上げながら大きく伸びをした。
「いやぁ、すっかり秋だなぁ。涼しくなってきたし、食欲の秋だし……よし! 今日は裏庭で、みんなでバーベキュー(収穫祭)をやろう!」
俺がポンと手を叩いて宣言すると、ボロ小屋の敷地内にひしめき合う「規格外の同居人(ご近所さん)たち」が一斉に反応した。
「ばーべ、きゅー……? ジン君、それは下界の新たな神事かい?」
ボロ小屋の裏庭に増設された『天界出張所(プレハブ小屋)』から、ヨレヨレのドテラを羽織った中年男性――宇宙のすべてを創り出した絶対存在たる『創造神』(通称:社長さん)が、寝癖を掻きながら顔を出した。
「社長! バーベキューとは、人間たちが火を囲み、供物を焼いて神に捧げる血と肉の儀式のことに違いありません! 私が直ちに祭壇を組み上げましょう!」
その背後から、ジャージ姿のエリート大天使長ミカエルが、なぜか巨大な大理石の柱を担いで飛び出してくる。
「いやいや、ミカエルさん。祭壇なんて大げさなものはいらないですよ。レンガを積んで網を乗せるだけですから。ゼフさんとゾルギアのお爺ちゃん、火起こし手伝ってもらえますか?」
俺が声をかけると、縁側で将棋を指していた大魔王ゼアノスと、古代邪神ゾルギアが「任せておけ!」と立ち上がった。
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(…………本日の、一錠目。……ええ、朝食後ですが、すでに胃が悲鳴を上げています)
キッチンからその光景を眺めていた元・暗殺者のルミナは、真新しい胃薬の瓶を開け、乾いた音を立てて錠剤を噛み砕いた。
彼女の視線の先では、バーベキューの「火起こし」という名の、宇宙崩壊の危機が始まろうとしていた。
「フハハハ! ジン殿の宴とあらば、我が魔界の『煉獄の業火』で一気に炭を熾してやろう!」
ゼアノスが指先にドス黒い炎を宿す。
『フォッフォッ。若いのぅゼアノス。炭の芯まで火を通すなら、儂の『深淵の黒炎』の方が適任じゃて!』
ゾルギアも負けじと、周囲の空間を歪ませるほどの熱線を吐き出そうとする。
「ちょっと待ってくださいませ! そんな邪悪な炎でジン様のお肉を焼くなど言語道断! 私の『聖なる浄化の炎』で、お肉の罪(雑菌)ごと焼き払いますわ!」
エプロン姿の聖騎士クラリスが、聖剣を天に掲げて神聖な光を放った。
暗黒の炎、深淵の熱線、そして神聖なる光。
三つの相反する絶対的なエネルギーが、レンガで組まれたバーベキューコンロの中心で激突し――なんと、空間そのものが耐えきれずに圧縮され、直径十センチほどの『極小のブラックホール(超高熱の特異点)』が生み出されてしまった!
「ヒィィィッ!? ダ、ダメですわ! 火起こしで次元が崩壊してしまいますぅぅッ!」
クラリスが自らの行いを棚に上げて絶叫する。
だが、大量の炭と「100円ショップの焼き網」を抱えたジンが、のんきな足取りで近づいてきた。
「おおー! すごい! みんなで協力してくれたんだね。赤くてパチパチ言ってて、備長炭みたいに最高の火加減だよ!」
ジンが、その『超高熱の特異点(次元の崩壊点)』の上に、無造作に市販の木炭をザラザラと流し込み、その上から100円の焼き網をポンと乗せた。
カァァァァァァッ……!!!
ジンの頭上に浮かぶ『神使の輪』が光り輝く。
すると、すべてを呑み込むはずの特異点が、ジンの「最高の火加減」という認識によって強引に書き換えられ……本当に、ただの『遠赤外線をたっぷり放出する、極上の炭火』へとデグレードされてしまったのである。
「よし、火の準備は完璧! あとはお肉と野菜だね!」
ジンが笑顔で親指を立てる背後で、魔王、邪神、聖騎士は「……俺たちの全力の魔法が……着火剤に……」と、揃って白目を剥いていた。
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「ジン君! お肉なら、私に任せてくれないか!」
プレハブ小屋から、創造神(社長)が満面の笑みで巨大な「何か」を引きずってきた。
「これはね、天界の最深部に封印されていた『星喰らいの暴食獣』の特上ロース肉だよ! 宇宙空間を泳ぎ、星の核を喰らうこの獣の肉は、一口食べれば細胞がビッグバンを起こすと言われているんだ!」
ドスゥゥゥンッ!!
庭に置かれたのは、ダンプカーほどもある巨大な肉の塊だった。表面には銀河の星屑のような光が脈打ち、ただそこにあるだけで、周囲の生命力を吸い取ろうとする恐ろしい瘴気を放っている。
「うわぁ……すごい霜降りだけど、ちょっと筋が多くて固そうなお肉だね。よし、ルミナ! あれ持ってきて!」
「あ、あれ……とは、まさか……」
「うん。魔界の闇市で買った『よく切れる包丁』!」
ルミナが震える手で差し出したのは、一振りで空間を切り裂くという魔界の国宝級魔剣『次元喰らい』だった。
「よし、まずは一口大に切って……と」
ジンが魔剣(包丁)を振るうと、神々すら傷つけることのできない暴食獣の肉が、まるで常温のバターのようにスパスパとサイコロ状に切り分けられていく。
「ちょっと固いお肉は、フルーツの酵素で漬け込むと柔らかくなるんだよね。すり下ろしたリンゴ(※一口で即死する殺人林檎)と、ハチミツ(※魔界蜂の猛毒蜜)、あとはお醤油を揉み込んで……」
ジンがジップロック(特大)に肉とヤバすぎる調味料を放り込み、素手でモミモミと揉み込み始めた。
『――警告! 宇宙の禁忌食材と猛毒が混合され、致死率測定不能の劇物が生成されています!』
創造神の脳内システムがエラー音を鳴らし続けるが、ジンが肉を揉むたびに、その致死性の瘴気が『食欲をそそる芳醇なバーベキューソースの香り』へと魔法のように変換されていく。
「はい、仕込み完了! さっそく焼いていこう!」
(…………本日の、三錠目。私の胃壁は、あの暴食獣の肉よりも先に消化されそうです)
ルミナは、胃薬をボリボリと食べながら、もはやツッコむ気力すら失っていた。
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ジュウゥゥゥゥゥゥッ……!!!
特異点(炭火)の上の網で、漬け込まれた特上ロース(星喰らいの肉)と、畑で採れた野菜たちが豪快な音を立てて焼け始めた。
煙と共に立ち昇るその匂いは、暴力的なまでの「旨味の暴力」。天界にまで届いたその匂いにより、プレハブの屋根の上には、おこぼれを狙う天使たちが鳩のように群がり始めている。
「ピロリロリン♪ マスター、灰や煙のお掃除(抹消)はお任せニャン♪」
足元では、天界の殺戮兵器がアップデートされた『お掃除ロボット』が、紙皿を頭に乗せてクルクルと走り回り、空気を清浄に保っている。
「よし、焼けたよ! 社長さん、まずは一つどうぞ!」
ジンが、こんがりと焼けた肉を創造神の紙皿に乗せた。
創造神は、震える手で箸を持ち、その肉を口へと運ぶ。
『…………ッッッ!!!?』
噛み締めた瞬間。
宇宙の絶対神の脳内に、言葉では言い表せない「ビッグバン(旨味の大爆発)」が巻き起こった。
『な、なんだこれはァァァッ! 暴食獣の凶暴な肉質が、リンゴの酵素(ジンの魔力)によって限界まで柔らかくなり、噛むほどに溢れ出す星の命の輝き(肉汁)が……バーベキューソースの甘辛さと完璧に調和しているぅぅっ!』
「美味しいですか?」
『美味い!! 美味すぎるよジン君! 私は宇宙を創ったが、これほど美味いものは創れなかった! 私の三億年の歴史は、このバーベキューを食べるための前フリだったんだァァァッ!!』
宇宙の創造主が、紙皿を握りしめ、顔面を涙と肉汁でドロドロにしながら号泣した。
「ずるいですわジン様! 私にも! 私にも『あーん』して食べさせてくださいませ!」
天界最高監査局長のヴェリタスが、頬を真っ赤に染めて口を開けて待機している。
「ヴェリタス様、抜け駆けは許しませんわ! ジン様、私にも!」
「ルミナさんも一緒に食べましょうね。はい、クラリスさんも」
ジンが笑顔で肉や野菜を配り歩き、大魔王や勇者も「ジン殿の焼いた肉、最高だぜ!」「ビール(※魔界の血酒)が進むっすね!」と大盛り上がり。
もはや、種族も、次元も、神格も関係ない。
そこにあるのは、ただの「美味しいお肉を囲む、最高の町内会(ご近所さん)」の風景だった。
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「ふぅ、お腹いっぱい。さて、食後のデザートといこうか」
ジンが立ち上がり、裏庭の隅――かつて宇宙のバックアップデータである『創生の種』を植えた花壇へと向かった。
そこには、ジンが「ちょっと珍しい観葉植物」として育てていた、茎の中に星々が瞬く『銀河の花』が、身の丈以上に成長してそびえ立っている。
「おっ、ちょうど実がなってるぞ。秋の収穫だね」
ジンが指差した先には、花の中心からこぼれ落ちるように実った、スイカほどもある巨大な果実があった。
果皮は透き通るような瑠璃色で、その内部には、文字通り「極小の星雲」や「銀河の渦」が、ゆっくりと回転しながら閉じ込められている。
「ひぃッ!? じ、ジン君! それは『宇宙の果実』! 創生の種が実らせた、新たな宇宙そのものだよ! 触れたら次元が……ッ!」
創造神が慌てて立ち上がるが、遅かった。
「よいしょっと。重たいなぁ。スイカみたいに切ってみようか」
ジンは、魔剣(包丁)を振るい、その『新たな宇宙』を、躊躇いもなく真っ二つにカパァッと割ってしまった。
パァァァァァァァァァッ……!!!
果実の中から、本物の星空のような圧倒的な輝きと、甘く爽やかな香りが庭いっぱいに広がる。
果肉には、星屑のシロップがたっぷりと詰まっていた。
「わぁ、綺麗! 中がキラキラしてるよ。みんな、デザートの『銀河メロン(仮)』だよ!」
ジンが、宇宙そのものを一口サイズに切り分け、みんなの紙皿に配っていく。
「…………本日の、五錠目。そして、これで最後の一錠です」
ルミナは、自分の紙皿に乗せられた「星空が詰まった果肉」を見つめ、静かに最後の胃薬を飲み込んだ。
「いただきます!」
ジンが、果肉をパクリと口に入れる。
「んーっ! 甘くてシャリシャリしてて、綿飴とメロンを合わせたみたいな味だ! 美味しい!」
ジンが笑顔を見せると、恐る恐る口に運んだ神々や魔王たちも、次々とその神聖な甘さに虜になり、「宇宙って……美味しいんだな……」と恍惚とした表情を浮かべ始めた。
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やがて、賑やかだったバーベキューも終わり、夕暮れ時。
西の空に沈む夕日が、ボロ小屋とプレハブ小屋をオレンジ色に優しく染め上げている。
庭のブルーシートの上では、お腹いっぱいになった天使たちや勇者レオが、幸せそうな寝顔で重なり合って眠っていた。
縁側では、大魔王と創造神が、麦茶を飲みながら「最近の若者は……」「いや、うちの天使なんかもっとひどくてね……」と、完全に近所のおじさん同士の愚痴をこぼし合っている。
「ルミナ、片付け手伝ってくれてありがとう。疲れたでしょ」
洗い物を終えたジンが、ルミナの隣に腰を下ろし、優しく微笑みかけた。
「……いえ。ジン様こそ、準備から何から、本当にお疲れ様でした」
ルミナは、空になった胃薬の小瓶をそっとエプロンのポケットにしまい、茜色に染まる空を見上げた。
(宇宙のすべてを創り出した神が、プレハブ小屋に住み着き。世界を滅ぼす魔王が、縁側でお茶をすする。そして、その中心には、いつもこの方が、何も知らずに笑っている……)
常識も、物理法則も、神の威光も、すべてが「ジンのスローライフ」という名のブラックホールに呑み込まれていく。
だが、なぜだろうか。ルミナの心には、恐怖や胃痛よりも、得体の知れない「温かい安堵感」が広がっていた。
「……ジン様」
「ん? なに?」
「明日の朝ごはんは、何になさいますか?」
ルミナが、暗殺者の冷たさを完全に捨て去った、一人の女性としての柔らかい微笑みを向ける。
「そうだね。少し冷えるようになってきたし、残ったお野菜で温かい雑炊にしようか。社長さんたちも喜ぶよ」
「はい。……ふふっ、本当に、大所帯になりましたね」
宇宙最強の戦力と、宇宙の創造主を「居候」として抱え込んだ、規格外すぎるお悩み相談所。
ジンが巻き起こす常識外れのデバッグ(勘違い)生活は、神々をも巻き込んだ新たな『家族の形』として、これからも果てしなく、そして平和に続いていくのであった。




