創造神の過労死アピールと、ボロ小屋裏庭の天界出張所
「さて、社長さん。まずはたっぷり、お話を伺いましょうか」
『深淵の森』のボロ小屋の裏庭。
俺、ジンは、ブルーシートの上で正座させられている『宇宙の創造主』を見下ろし、お玉を片手に静かに問いかけた。
「社員が逃げ出したからって、会社(星)ごと初期化(倒産)させるなんて、経営者として短絡的すぎます。彼らがどうして逃げ出したか、考えたことはありますか?」
『グッ……! き、貴様ァ、タダノ人間ガ、我ニ向カッテ……!』
「言い訳は聞きません。彼ら、ここに来た時、ボロボロだったんですよ? 休みも与えず、何万年も過重労働させてたんでしょう。彼らが飲んでるその豚汁、見てくださいよ」
俺が指差すと、シートの上で縮こまっている天使たちがビクッと肩を揺らす。
「塩むすびと豚汁だけで、みんな泣いて喜んでるんです。普段、どれだけブラックな環境で働かせてるんですか! 社員の健康管理もできないで、何が『創造神』ですか!」
『…………ッ!!』
宇宙の法則そのものであるはずの創造神が、ジンの言葉に押されて口をつぐむ。
ジンの言葉には、宇宙の真理すらも上書きする『労働基準法』という絶対的な強制力が込められていた。
「いいですか。会社(宇宙)を維持するのは大変かもしれません。でも、それは下で働く社員たちのおかげで成り立っているんです。それを『不良品だ』『初期化だ』と簡単に切り捨てるなら、あなたにトップに立つ資格はありません。今すぐ彼らに謝りなさい!」
ジンのガチ説教が、秋の空に響き渡る。
大魔王ゼアノスも、勇者レオも、古代邪神も。そして逃げてきた天使たちも。
全員が、宇宙で最も偉大な神が、割烹着姿の青年にこってりとお説教されている光景を、息を呑んで見守っていた。
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(…………本日の、四錠目)
ルミナは、お玉の入った鍋の横で、完全に光を失った瞳で胃薬をボリボリと咀嚼していた。
「終わりました……。ジン様は、ただの正論(お説教)で、宇宙の創造主の『攻撃コマンド』を封殺し、あまつさえ反省を促しています……。神の威光より、ジン様の説教の方が宇宙のシステムレベルで優先されているのです……」
『うぅっ……!』
突如、創造神の巨大なシルエットから、すすり泣くような声が漏れた。
「……えっ?」
俺が戸惑っていると、無数の銀河が渦巻いていた強大なシルエットが、ズルズルと前のめりに崩れ落ち、両手で顔(?)を覆った。
『わ、私だって……好きでブラック企業にしたわけじゃないんだよォォォッ!!』
突然の、あまりにも人間臭すぎる絶叫。
創造神のシルエットがシュルシュルと音を立てて縮んでいき……現れたのは、目の下に真っ黒なクマを作り、シャツの裾がはみ出した、ヨレヨレのスーツ姿の『疲労困憊の中年男性』だった。
『宇宙の拡張が早すぎて、人手が全然足りないんだよ! 俺だってカンブリア爆発の頃から三億年くらい有給取ってないし、毎日毎日バグの報告書ばかりで胃に穴が空きそうなんだ! ワンオペなんだよォォォッ! お前ら(天使)ばっかり豚汁食べてズルい! 俺にも、俺にもその豚汁を食わせろォォォッ!!』
「…………」
俺は、絶対的なワンマン社長だと思っていた男が、実は『宇宙で一番の社畜(過労死寸前)』であったという事実に、思わず天を仰いだ。
「……社長さんも、大変だったんですね」
俺は、怒りをスッと収め、お玉でたっぷりと豚汁をよそい、大根や豚肉を多めに入れて、ヨレヨレの創造神に差し出した。
「ほら、熱いうちに食べて。お説教の続きは、お腹がいっぱいになってからにしましょう」
『ウワァァァァァンッ!! お前、めっちゃいい奴だなァァァッ!!』
宇宙の創造主が、豚汁の椀を受け取り、鼻水を垂らしながら子供のように号泣し始めた。
そして、ズズッと汁をすする。
『…………ッ!? な、なんだこれはァァッ!?』
創造神の瞳が見開かれる。
ジンの無自覚な『魔力最適化』が施された豚汁は、神の失われた活力(三億年分の疲労)を、暴力的なまでの旨味と温かさで癒やしていく。
『五臓六腑に……宇宙の真理が染み渡る……! 大根が……大根がめちゃくちゃ柔らかいぃぃぃっ! こんな優しい味、宇宙創生以来だぁぁッ!』
創造神は、文字通り涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、一心不乱に豚汁と塩むすびを貪り食った。
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食後。
すっかり落ち着きを取り戻し、縁側でジンから注がれた熱い緑茶をすする創造神。
「どうですか、社長さん。少しは落ち着きましたか?」
『ああ……。すまなかったね、ジン君。君の言う通りだ。私は経営者として、少し周りが見えなくなっていたよ。このお茶も最高だね……』
すっかり丸くなった創造神が、ほっこりと微笑む。
庭では、天使たちが「社長が……あの鬼の社長が笑ってる……!」と奇跡を目の当たりにして震えていた。
『決めたよ、ジン君』
創造神が、急に真剣な顔つき(ヨレヨレスーツのまま)で立ち上がった。
『冷たくて殺風景な天界のシステムサーバーで一人仕事をするから、心に余裕がなくなるんだ。これからは、私もこの素晴らしい環境(ボロ小屋)で業務を行うことにする!』
「え? ここでですか?」
『そうだ!』
創造神がパチンと指を鳴らす。
すると、ジンのボロ小屋のすぐ隣、昨日完成したばかりの「床下収納(元・地下迷宮)」への入り口を覆うように、突如として立派な『プレハブ小屋』がドォォォン!と出現した。
「うおっ!? なんだこの建物!?」
「驚くことはない。今日からここが、『天界エルディア星・ボロ小屋出張所(仮)』だ!」
創造神がドヤ顔で言い放つ。
プレハブの入り口には、ご丁寧に『天界本社・相談窓口』という手書きの看板までぶら下がっていた。
『天使たちよ! 我々は今日から、このプレハブを拠点として宇宙の管理を行う! 疲れたらジン君の麦茶を飲み、夜はみんなで豚汁を食べるのだ!』
「う、おおおおおォォォッ!! 一生ついていきます、社長ォォォッ!!」
天使たちが、歓喜の涙を流してプレハブ小屋へと駆け込んでいく。
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(…………本日の、五錠目)
ルミナは、突如として庭に出現した「天界のプレハブ出張所」を見つめながら、静かに胃薬を飲み込んだ。
「終わりました……。宇宙の最高存在が、ジン様に胃袋を掴まれ、あまつさえボロ小屋の裏庭にプレハブを建てて『共同生活』を始めてしまいました……。もはや、このボロ小屋そのものが、宇宙のへそ(中心)です……」
「いやぁ、ご近所さんが増えて賑やかになりそうだね。ルミナ、今日の夕飯は多めに作らないとね」
ジンがのんきに笑う横で、大魔王ゼアノスと勇者レオは「俺たちの居場所(魔界と人間界)のトップが、プレハブ小屋って……」と遠い目をしていた。




