星の終焉を告げる地殻変動と、便利な「床下収納」(後編)
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!
原初の魔竜(不燃ゴミ)が消去された地下迷宮の最深部。
その奥にそびえ立つ、巨大な黄金の扉がゆっくりと開け放たれた。
扉の隙間から漏れ出したのは、これまでの瘴気とは全く異なる、純粋で、暴力的で、絶対的な『神の威光』であった。
あまりにも高次元な光の奔流に、大魔王ゼアノスと勇者レオは目を焼かれまいと腕で顔を覆い、その場に伏せた。
「グオォォォッ……! な、なんだこの光は……! 触れただけで、我が『存在の定義』が揺らいでいくぞ……ッ!」
「ゼ、ゼフさん……俺、もうダメっす……! この部屋の中にあるモノ、絶対に見ちゃいけない『宇宙の根源』そのものっす……!」
暗殺者のルミナも、壁にへばりつきながらガチガチと歯を鳴らしている。
だが、ジンだけは、ランタン(※魔力で光る)を片手に、のんきな足取りで光の中へと進んでいった。
「キュイィィン♪ マスター、未知のお部屋、ホコリがないかチェックするニャ!」と、足元では白銀の掃除機ロボが陽気についていく。
部屋の中央には、宙に浮く巨大な水晶の祭壇が鎮座していた。
その祭壇の中心で、まばゆい光を放ちながら鼓動している、拳大の「黄金の結晶」。
それこそが、天界がこの星の最深部に隠匿していた、宇宙がバグで崩壊した際にすべてを「初期化し、再構築」するための最終バックアップデバイス――『創生の種』であった。
▼▼▼
同じ頃。天界の『創造神の管理中枢』。
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃッッ!!!」
最高監査局長ヴェリタスの悲鳴が、システム空間に響き渡った。
巨大モニターに映し出されたジンが、『創生の種』へと無防備に近づいていくのだ。
「あ、あ、あああっ……! なんであんなモノが剥き出しになっているの!? しかも、ジンが触ろうとしている……ッ!」
天使たちが頭を抱え、モニターの前でパニックに陥る。
「ヴェリタス様! 人間が『創生の種』に触れれば、宇宙の因果律がリセットされ、この星のみならず天界すらも『ビッグバン』に巻き込まれます!」
「終わりだ! 我々の宇宙は、あの麦わら帽子の男の手によって終わりを告げるのだァァッ!」
ヴェリタスは涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、モニターに向かって必死に叫んだ。
「触るな! お願いだから触らないでぇぇぇッ! ジン、あんた自分のやってること分かってんのォォォッ!?」
神々の悲痛な叫びは、当然ながら地下室のジンには届かない。
「ん? なんだこれ」
ジンは、祭壇に安置された『創生の種』を、なんの躊躇いもなく、素手で「ヒョイッ」と摘み上げた。
▼▼▼
カァァァァァァァァァッ……!!!!
種に触れた瞬間、宇宙全体が「ドンッ!」と大きく脈打った。
エルディア星の空が一瞬にして星屑に包まれ、時間の流れが停止しかける。
だが、ジンの頭上の『神使の輪』が、それ以上の輝きを放ち、宇宙の強制リセットプログラムを、力技で「ジンの解釈」へと書き換えた。
「おおー。なんかピカピカ光って綺麗な『種』だなぁ。こんな地下の奥底にポツンと置かれてるなんて、大家さん、植え忘れたのかな?」
ジンは、手のひらで光る『宇宙のバックアップ』をまじまじと見つめた。
「ちょっと干からびちゃってるみたいだし、早く土に植えて水をあげないと。よし、地下室の掃除も終わったし、庭に戻ろう!」
『――祭壇の清掃完了ニャ! これで地下室は完璧な「床下収納」になったニャン♪』
掃除機ロボが、祭壇のホコリを吸い取って満足げに回る。
「……ゼフさん、レオ君! 終わったよー! 帰ろう!」
ジンが振り返ると、大魔王と勇者は、白目を剥いて泡を吹いて気絶していた。
「あれ、二人ともどうしたの? 疲れたのかな。まあいいや、ポチに運ばせよう」
▼▼▼
地上、ボロ小屋の裏庭。
地下からの瘴気が完全に浄化され、爽やかな秋風が吹く庭先で、ジンは小さなスコップを手にしていた。
「よし、日当たりのいいこの花壇の隅にしよう。えーっと、種を植えて、土を被せて……」
ジンは、宇宙を再編する『創生の種』を、大根やトマトの隣にポイッと放り込み、土をポンポンと被せた。
「最後に、たっぷりお水をあげないとね」
ジンが、ジョウロ(※魔力最適化により『生命の源泉』を散布する神具へと変貌している)を傾け、種に水をかけた。
その瞬間。
ピキッ……ドシュゥゥゥゥゥゥッ!!!!
土の中から、信じられない速度で「芽」が飛び出した。
いや、それは植物の芽という生易しいものではない。茎の内部には「星々の瞬き」が内包され、葉脈には「銀河の渦」が流れている。
みるみるうちに成長したそれは、ジンの背丈ほどまで伸びると、先端に巨大で、宇宙そのものを凝縮したような『銀河の華』をパッと咲かせたのだ。
花びらの一枚一枚が星雲のように輝き、中心からは神々しいオーロラが立ち昇っている。
「うわぁぁぁっ! なんだこの花!? すごい、花びらの中で星がキラキラ動いてるよ!」
ジンは、麦わら帽子を押さえながら、その圧倒的な美しさに歓声を上げた。
「これ、新種の観葉植物かな? 夜になったら天然のイルミネーションみたいで綺麗だろうなぁ。来年の村の品評会に出したら優勝できるかも!」
ジンは、宇宙の運命を司る神話級アーティファクトを、「ちょっと珍しいイルミネーションフラワー」として完全に庭の景観に組み込んでしまったのである。
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(…………本日の、五錠目。……私の胃壁は、あの花びらの中のチリと同じです)
気絶したゼアノスたちを引きずりながら地上へ戻ってきたルミナは、庭に咲く「銀河」を見て、完全に悟りの境地に至っていた。
「終わりました……。宇宙のバックアップシステムは、ジン様のお庭を彩る『観葉植物』へとデグレードされました……。天界の神々は今頃、ボロ小屋の花壇に自分たちの命運が握られていると知って、発狂していることでしょう……」
ルミナの予言通り。
天界のシステム中枢では、ヴェリタスをはじめとする天使たちが、「宇宙のコアが……ボロ小屋の庭に植えられたァァァッ!?」と絶叫しながら、集団で気絶していた。
「よし、地下室も綺麗になったし、これで魔界で買った『漬物石』も『包丁』もたっぷり収納できるぞ! みんな、今日は地下室完成記念の鍋パーティーだ!」
ジンののんきな声が、銀河の花の下に響き渡る。
かくして、星を滅ぼす地下迷宮は、ジンの手によって完璧で便利な『床下収納』へとリノベーションされ、ボロ小屋の圧倒的なスローライフは、宇宙の次元すらも飲み込んでいくのであった。




