表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全言語翻訳カンスト勢の悩み相談所 ~魔物の愚痴を聞くだけで世界征服しそうです~  作者: キュラス
天界からの超ブラック監査と、神様への極上ヘッドスパ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/55

星の終焉を告げる地殻変動と、便利な「床下収納」(中編)

『原初たる混沌の牢獄タルタロス』。

その入り口に足を踏み入れた瞬間、勇者レオと大魔王ゼアノスは、肺が凍りつくような冷気に襲われた。

松明の火すらも呑み込む濃密な闇。壁には、触れた者の肉体を腐敗させる呪詛の文字が刻まれ、奥からは数万年の恨みを孕んだ亡霊の啜り泣きが聞こえてくる。


「ひ、ひぃぃ……。ゼフさん、これマジで洒落になってないっすよ。一段下りるたびに、俺の聖剣が『ここから逃げろ』って震えてるんすけど……」

「……我が魔力も、この深淵の瘴気に食い荒らされておる。ジン殿、せめて我の背後に……」


ゼアノスが警告しようと振り返った、その時だった。


「あー、やっぱり空気が澱んでるね。湿気もひどいし、これじゃあお米や味噌を置いたらすぐにカビちゃうよ。レオ君、そこにある『空気清浄機(換気扇)』、スイッチ入れてみて」


「……え? かんきせん?」


ジンが指差したのは、通路の天井に設置された、巨大な刃が回転する「断罪の処刑鎌(ギロチン・ファン)」だった。

本来は侵入者の首を一瞬で跳ね飛ばす、不可視の魔風を纏った死の罠である。


「よし、僕がやるよ。……よいしょっと」


ジンが、麦わら帽子の上の『神使の輪(エンジェル・ヘイロー)』をひょいと手に取り、回転する刃に向かって投げつけた。


カッ……!!!


聖なる光が物理法則を強引に上書きする。

処刑鎌から放たれていた殺戮の魔風は、瞬時に『爽やかなミントの香りがするサーキュレーターの風』へとデバッグ(最適化)された。


「おお! 動き出したね。うん、いい風だ。これで換気はバッチリだね」

「…………」


ゼアノスとレオは、首を刈るはずの旋風を顔に浴びながら、絶句した。

迷宮のトラップが、ジンの手によって「空調設備」として再利用された瞬間であった。


▼▼▼


(…………本日の、二錠目。……いや、三錠目でしたか)


ルミナは、ピカピカに磨き上げられた階段を(掃除機ロボのおかげで)下りながら、胃薬を喉の奥へ押し込んだ。

彼女の暗殺者としての勘が、この迷宮の「本当の恐怖」を告げていた。

ここはただの迷宮ではない。奥へ進むほど、物理的な空間そのものが「悪意」に満ちて歪んでいるのだ。


「キュイィィン♪ 汚れ、発見ニャ! 徹底的に抹消おそうじするニャン!」


先頭を走る白銀の円盤ロボットが、ガシャガシャと『粒子分解レーザー(クリーニング・モード)』を乱射し、通路に巣食う怨霊や亡者たちを「塵芥」として一瞬で消去していく。

もはや、迷宮の住人たちにとっては、この掃除機こそが「死の神」そのものであった。


だが、迷宮の「核心」は、そんな彼らの前へ、ついにその巨大な姿を現した。


ズズゥゥゥゥゥンッ……!!!


通路が急に開け、広大なドーム状の空間に出た。

そこには、神話の時代に創造神に牙を剥き、地下深くに封印されたという伝説の原初の番人――『死の魔竜(ネクロ・ドラゴン)』マルファスが鎮座していた。


全長百メートルを超える、骨と腐肉に覆われた巨大な体。

その眼窩には紅蓮の炎が宿り、ただそこに存在するだけで周囲の生命エネルギーを吸い尽くす、宇宙最凶の「バグ(怪物)」である。


「グォォォォォォォォォォォォッッ!!!」


魔竜の咆哮が迷宮を揺らし、レオとゼアノスは強烈な威圧感にその場に膝をついた。


「ま、マルファス……ッ! 実在したのか! 天界の禁忌目録に記された、世界を一度滅ぼしかけた死の権化が……ッ!」

「……終わった。我らの命も、ジン殿の日常も、すべてこの竜の息吹で塵に……」


だが。

懐中電灯ランタンでその巨体を照らしたジンは、眉をひそめてこう言った。


「うわぁ……。これ、ひどいなぁ。地下室を放置しすぎたせいで、こんなに大きな『ネズミの死骸』が転がってるよ。不衛生だなぁ」


「…………ねずみ?」

ゼアノスが、裏返った声を上げた。


「これじゃあ臭いも出るし、何より場所を取りすぎだよ。よし、お掃除機くん! これ、早めに『不燃ゴミ』として処分しちゃってくれる?」


『了解ニャ! 巨大な不衛生ゴミ、直ちにデリートするニャン♪』


円盤ロボットのセンサーが、魔竜マルファスを『粗大ゴミ』としてロックオンした。


「グ、グオォ……!?(な、なんだこの円盤は……!? 殺気が、殺気が私の存在概念を消去しようとして……ギャ、ギャアアアアアッ!?)」


殺戮兵器(掃除機)から放たれた、フルパワーの『存在抹消波動(デリート・ウェーブ)』。

神々すら封印することしかできなかった原初の魔竜は、戦う間もなく、一瞬にして『チリ一つない光の粒子』へと分解され、掃除機ロボの内蔵タンク(異次元空間)へと吸い込まれていった。


「ふぅ。スッキリしたね。やっぱり定期的に大掃除しないとダメだなぁ」


ジンは、魔竜がいた場所をホウキでサッサッと掃きながら、のんきに笑った。

世界を滅ぼす災厄が、ジンの手にかかれば「掃除の邪魔な大型ゴミ」に過ぎなかった。


▼▼▼


(…………四錠目。……ああ、胃液が逆流してきました)


ルミナは、魔竜という概念すら消え去った平坦な地面を見つめ、静かに崩れ落ちた。


「終わりました……。宇宙創生の負の遺産が、ジン様の発言一つで『不燃ゴミ』として処理されました……。ジン様にとって、この迷宮の恐怖は、ただの『片付けの面倒くささ』でしかないのです……」


「よし、広いスペースが確保できたぞ! ここを棚にして、魔界の漬物石(呪いの石)を並べようかな」


ジンが楽しそうに壁の寸法を測り始める。

だが、その時。


ゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!


迷宮のさらに奥、魔竜が守っていた背後の巨大な扉が、ゆっくりと開き始めた。

そこから漏れ出してきたのは、先ほどの魔竜すら前座に思えるほどの、冷徹で、絶対的な『神の意志』。


「……ん? まだ奥に部屋があるのかな。大家さん、随分と広い地下室を作ったんだなぁ」


ジンの好奇心は止まらない。

だが、天界のヴェリタスがその映像を見て「そこは開けてはダメェェェッ!」とモニターに向かって絶叫していることを、彼はまだ知らなかった。


床下収納リノベーション(迷宮踏破)は、ついに「迷宮の主」が待つ最深部へと、土足で踏み込んでいく――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ