魔界の観光センターと、呪いの特産品バーゲンセール
温泉で英気を養い、サファリパークで魔獣と触れ合った(※蹂躙した)町内会一行。
帰路につく前、大魔王ゼアノスが最後に案内したのは、魔界の主要都市にある巨大な市場『万魔の集い』だった。
「おおーっ! 活気があるなぁ! まさに観光地の商店街って感じだね」
ジンは、ドクロや鎖で装飾された禍々しい門をくぐり、目を輝かせた。
周囲には、角の生えた商魔たちが「グヘヘ、新鮮な魂はいらんかね」「この魔剣を握れば国が一つ滅ぶぞ」と、物騒な呼び込みを繰り返している。
(……ジン様。ここ、観光地ではなく、禁忌の呪物や非合法な魔道具が取引される『魔界最大の闇市』なのですが……)
元・暗殺者のルミナは、本日十一錠目となる胃薬を噛み砕きながら、虚無の瞳で周囲を警戒した。
勇者レオは「あんな魔剣がワゴンセールで売られてるなんて……」と震え、聖騎士クラリスは「邪悪な魔力の波動で、鼻が曲がりそうですわ……」と鼻を押さえている。
だが、ジンの【全言語翻訳(Lv.MAX)】スキルにかかれば、この地獄のような闇市も、脳内で「活気ある地方の物産展」へと完璧にデバッグされてしまう。
「ゼフさん、あそこの『包丁』、すごく切れ味が良さそうですよ! 相談所のキッチン用に一つ買って帰りましょうか」
ジンが指差したのは、禍々しい紫の炎を纏い、一振りで空間を切り裂くと言われる伝説の魔剣『次元喰らい』だった。
「なっ……!? ジン殿、あれは包丁ではなく、魔界の国宝級の魔剣……」
ゼアノスが止めようとするが、ジンはすでに店主の元へ歩み寄っていた。
「店主さん、これ、おいくらですか? うちのルミナが毎日料理するから、切れ味が落ちないやつを探してるんです」
「グ、グヘヘ……! 目が高いな人間。これは魂を喰らう伝説の魔剣……値段は貴様の寿命五百年分、あるいは一国の……」
『ギシシ! 奥さん、いいとこ見てるね! これは絶対に錆びない、最高級のステンレス包丁だよ! 今ならサービスで3,000円(※3000魔貨)だ!』
「3,000円ですか。安っ! じゃあ、これください。あ、あとその横にある『漬物石』も」
ジンが指差したのは、持ち主の精神を重圧で押し潰し、発狂させるという呪いの巨石『絶望の重石』。
ジンはそれを片手でヒョイと持ち上げると、お土産用のカゴへと放り込んだ。
「ひぃッ!? 精神を汚染する呪物を、重石代わりに……ッ!」
クラリスが悲鳴を上げる中、ジンは次々と「特産品(呪物)」を買い漁っていく。
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「おっ、あそこの『スノードーム』、ポチへのお土産にいいな!」
ジンが手に取ったのは、生きた悪霊が永遠に封じ込められ、振るたびに呪いの吹雪が吹き荒れるという『氷獄の監獄』だった。
「お兄ちゃん、これなーに?」
ヴァニアちゃんが覗き込むと、中の悪霊が「オォォ……呪ワレヨ……」と呻き声を上げた。
「これね、振るとキラキラして綺麗なんだよ。ほら。……あ、ちょっと汚れてるかな」
ジンが、神使の輪(管理者権限)を光らせながら、水晶の表面をタオルでキュッキュと拭いた。
カッ……!!!
その瞬間、水晶の中に閉じ込められていた数万の怨霊たちが、ジンの「最適化」によって一瞬にして浄化され、真っ白で可愛らしい『雪うさぎ』の精霊へと書き換えられてしまった。
「あ、可愛いー! ジンお兄ちゃん、これポチ喜ぶね!」
「だろ? 500円(※500魔貨)だったよ、安いよね」
(…………本日の、十二錠目)
ルミナは、ついに胃薬の瓶を空にした。
魔界の歴史を終わらせるほどの呪物が、ジンの手にかかれば「安物の雑貨」へと成り下がっていく。
闇市の商魔たちは、自分たちの自慢の呪いがジンの前でことごとく「便利グッズ」に書き換えられるのを見て、「あ、あの人間、ヤベェ……」「絶対に関わるな……」と、次々とシャッターを下ろし始めた。
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「ふぅ。いい買い物ができたな! これで相談所のみんなも喜んでくれるよ」
両手に大荷物(※世界を数回滅ぼせる規模の呪物セット)を抱えたジンは、満足げに微笑んだ。
大魔王ゼアノスも、自分の正妻(候補)たちがジンの買い物に付き合わされている光景を見て、「……我が魔界の闇市が、これほど平和なショッピングモールに見えたのは初めてだわ」と、遠い目をしていた。
「よし、じゃあそろそろバスに戻ろうか。お腹空いたし、帰りにサービスエリア(※魔界の補給基地)で何か食べて帰ろう」
「「「…………ハ、ハハァーーッ!!!」」」
こうして、町内会の魔界慰安旅行は、魔界の国宝と経済を少々混乱させながら、無事に(?)クライマックスを迎えようとしていた。
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一方その頃。
天界の最高監査局。
「……ヴェリタス様! 緊急事態です! エルディア星の『ジン』が、魔界の闇市で複数の特級呪物を購入した模様です!」
「な、なんですって!? ついにあの男、世界を滅ぼす兵器を揃え始めたというの……!?」
ヴェリタスが、顔面を蒼白にして立ち上がった。
「いえ……それが。購入された魔剣は『キャベツの千切り用』に、呪いの重石は『白菜の漬物用』に、それぞれ用途が上書きされています! 宇宙の因果律が……お料理のレシピに書き換えられています!」
「……はぁ? 意味が分からないわよ……」
天界の神々が再びパニックに陥る中、ジンたちのバスは、のんきな歌声を響かせながら深淵の森へと向かって走り続けるのであった。




