魔界の地獄宴会と、魂を揺さぶる(?)神話級カラオケ
地獄のマグマ風呂(※ジンにとっては名湯)ですっかり温まった一行は、旅館の最上階にある大宴会場へと案内された。
「おおーっ! 広いなぁ! 畳敷きで舞台まであって、まさに日本の温泉旅館の宴会場って感じだね!」
ジンが襖を開けると、そこには千人は収容できそうな広大な空間が広がっていた。
……もっとも、床に敷かれているのは畳ではなく、不浄な魔力で編まれた『吸魂のムシロ』であり、天井からはシャンデリアの代わりに、怪しく発光する『嘆きの目玉水晶』が吊るされているのだが。
「ジン殿、喜んでくれて何よりだ! さあ、魔界が誇る至高の珍味を存分に味わってくれ!」
大魔王ゼアノスがパチンと指を鳴らすと、炎を纏う悪魔の給仕たちが、次々と料理を運び込んできた。
運ばれてきたのは、ドクドクと脈打つ巨大な肉の塊や、七色に光る得体の知れない液体が詰まったボトル。
「ひぃッ……!? こ、これは……絶滅したはずの『冥界クラーケン』の心臓の踊り食い……! それに、一口飲めば精神が魔界に幽閉されるという『忘却の血酒』……ッ!」
勇者レオが、箸を持つ手をガタガタと震わせる。
聖騎士クラリスも「これ、食べたら聖騎士としての資格(と命)を失う気がしますわ……」と遠い目をしていた。
だが、ジンの【全言語翻訳(Lv.MAX)】スキルにかかれば、この地獄の献立も、脳内で親しみやすいメニューへと変換されてしまった。
「おっ、新鮮な『イカの姿造り』に、ちょっと変わったラベルの『地ワイン』かな? 贅沢だなぁ、いただきます!」
ジンが、脈打つクラーケンの心臓(※イカ)に醤油を垂らし、パクリと口に運ぶ。
その瞬間、ジンの頭上の『神使の輪』がピカッと輝き、食材に含まれていた猛毒と呪いが、一瞬にして『極上のアミノ酸と美容成分』へと書き換えられた。
「うまっ! 歯ごたえがすごくて、噛むほど甘みが出てくるよ! ゼフさん、このイカ最高だね!」
「なっ……!? あの猛毒の塊を、これほど幸せそうに……! ジン殿、貴様の胃袋はブラックホールか何かなのか……!?」
ゼアノスは驚愕しながらも、ジンの「美味い」という言葉に気を良くし、自らも酒(※呪いの血酒)を煽り始めた。
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宴もたけなわ。
酒が回り、気分が良くなってきたところで、宴会場の舞台がせり上がってきた。
「さあ、ジン殿! 余興の時間だ! まずは我が魔界が誇る『破滅の歌姫』たちの合唱を聴いてくれ!」
舞台の上に、背中にコウモリの羽を生やした美しい悪魔たちがズラリと並んだ。
彼女たちが口を開き、発せられたのは……聞く者の精神を直接破壊し、魂を肉体から引き剥がす禁忌の歌声『絶望のセレナーデ』。
ドォォォォォォォォン……ッ!!!
凄まじい音圧と負のエネルギーが、衝撃波となって会場を揺らす。
「あ、あああああ……っ! 魂が……魂が持って行かれますわぁぁっ!」
クラリスが白目を剥いて倒れかけ、レオも必死に耳を塞いで耐え忍んでいる。
だが、ジンの耳に届いたのは、全く別のメロディだった。
「おお……。しっとりとした『演歌』だねぇ。声にすごくこぶしが効いてて、なんだか心に染みるなぁ」
ジンの翻訳スキルが、魂の破壊音を『情緒あふれる昭和のソウル・ミュージック』へと完全にデバッグ(最適化)してしまったのだ。
「いいよー! 日本一! 演歌の女王!」
ジンがノリノリで手拍子を始めると、殺意に満ちていた歌姫たちが「……エ?」と戸惑い始めた。
自分たちの『死の歌』を聴いて、死ぬどころか笑顔で手拍子をする人間。
彼女たちは、ジンの持つ圧倒的な「受容性」の前に毒気を抜かれ、次第にその歌声は本当の演歌のような、切なくも美しい旋律へと変化していった。
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(…………本日の、九錠目)
宴席の隅で、ルミナは空になった胃薬の瓶を見つめながら、静かに涙を流していた。
「終わりました……。魔界最高の暗殺歌が、ジン様の手拍子一つで『ご当地ソング』へと変貌しました……。もはや、この空間にジンの許可なく『死』は存在できないのです……」
そんなルミナの絶望をよそに、宴会はさらにカオスな後半戦へと突入する。
「フォッフォッフォ! 若いモンばかりに舞台を任せておけんわい! 儂も一曲披露させてもらおうかのう!」
古代邪神ゾルギア(お爺ちゃん姿)が、千鳥足で舞台に上がった。
彼が手に取ったのは、伝説の魔楽器『断末魔の竪琴』。
一掻きすれば一国の国民がすべて発狂死するという、神話級の呪物である。
ジャラァァァァァァァァァン……!!!
空間がひび割れ、次元の裂け目から無数の亡霊の手が這い出してきた。
「ひぃぃぃっ!? 邪神様、それはダメですわ! 旅行が『終末』に変わってしまいますわぁぁっ!」
クラリスの悲鳴が響く。
だが、ジンはそれを見てポンと手を叩いた。
「おっ、爺さん、次は『カラオケ』かな? スモークの演出まであって、本格的だね!」
カッ……!!!
ジンの頭上の輪っかが激しく輝くと、次元の裂け目から出てきた亡霊たちは、瞬く間に『カラオケのバックダンサー(ハッピ姿のタヌキ)』へと姿を変えた。
邪神が奏でる呪いの音色は、軽快な『マツケンサンバ』のようなリズムへと上書きされ、会場は一気に狂喜のダンスホールへと変貌したのである。
「ええい、俺も歌うぞ! ジン殿、デュエットだぁぁぁッ!!」
大魔王ゼアノスが、黄金のマイク(※呪いの魔拡声器)を握りしめ、舞台へと飛び出した。
「いいですねゼフさん! 盛り上がっていきましょう!」
魔王と邪神、そして麦わら帽子の人間が、肩を組んで舞台の上で大熱唱する。
その背後では、地獄の番犬ケルベロスが「ワンワン!(※合いの手)」と吠え、悪魔の仲居たちがタンバリンを叩いて盛り上がっている。
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「…………」
ルミナは、何も言わずに、レオの持っていた麦茶を奪い取って飲み干した。
「レオ殿……。私は今、何を見ているのでしょうか。大魔王と古代邪神が、ジン様と一緒に『世界の平和』について歌いながら踊っているのですが……」
「……ルミナさん。考えたら負けっす。……あ、ほら、シメのラーメン(※魔界龍の髭麺)が来ましたよ。食べましょう、美味しいっすよ……」
もはや、勇者も暗殺者も、世界の常識を捨て去るしかなかった。
地獄の温泉旅行の宴会は、宇宙の法則をいくつも破壊しながら、最高にハッピーで、最高に異常な盛り上がりのまま、夜更けまで続いていくのであった。




