表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全言語翻訳カンスト勢の悩み相談所 ~魔物の愚痴を聞くだけで世界征服しそうです~  作者: キュラス
天界からの超ブラック監査と、神様への極上ヘッドスパ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
31/55

町内会合同・魔界の秘湯慰安旅行と、地獄の観光バス

「――よし、戸締まりよし! 火の用心よし! ポチ、お留守番頼んだぞ」


雲一つない秋晴れ(※魔界の瘴気が漏れ出しているだけ)の朝、俺、ジンは、お気に入りの麦わら帽子に『神使の輪』を輝かせ、リュックサックを背負って玄関に立った。


「ワフッ!(※任せとけ、お土産忘れるなよ!)」

縁側で留守番を買って出てくれたポチ(フェンリル)が、威風堂々と尻尾を振る。


「ジン殿、準備は整ったぞ! 我が魔界が誇る至高の癒やしスポットへ、いざ出発だ!」

「楽しみっすねジンさん! 俺、旅行なんて勇者時代に魔王城へ殴り込みに行った時以来ですよ!」


隣では、ピカピカのスーツ姿(※魔王の礼装)の大魔王ゼアノスと、アロハシャツに浮き輪を持った元勇者レオが、遠足前の小学生のようにハシャいでいた。


「レオ君、行き先は温泉だから浮き輪はいらないと思うけど……まあ、備えあれば憂いなしだね。ゼフ(ゼアノス)さん、幹事ありがとうございます」


俺が笑顔で礼を言うと、ゼアノスは「フハハ! ジン殿のためなら、魔界の理を捻じ曲げてでも最高の宿を用意して見せるわ!」と豪快に笑った。


(……ああ。終わりました。また一つ、世界の禁忌が塗り替えられようとしています)


一行の最後尾。

元・暗殺者のルミナは、すでに本日一錠目となる『特効薬(胃薬)』を飲み込み、虚無の瞳で空を見上げていた。


彼女の隣では、同じく居候のクラリスが「聖なる日焼け止め」を全身に塗りたくり、最近すっかり常連となった古代邪神ゾルギア(お爺ちゃん姿)が、水筒を持って「腰痛に効く温泉ならいいんじゃがのう」と腰を叩いている。


今回、大魔王ゼアノスが提案した『町内会・親睦慰安旅行』。

その行き先は、魔界の最深部に位置し、一秒浸かれば金剛石すら融解するという伝説の焦熱海(しょうねつかい)――『奈落の果ての紅蓮泉(ヘル・ゲート・スパ)』。

神話の時代より、魔族の王のみが入ることを許された、文字通りの『禁断の地』である。


▼▼▼


「あ、バスが来たみたいですよ」


ジンの声に、ルミナが顔を上げると、森の奥から『それ』が姿を現した。


ゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!


空間を物理的に引き裂き、地鳴りを立ててやってきたのは、全長数十メートルに及ぶ漆黒の多脚魔獣『影の暴君(シャドウ・ベヒーモス)』だった。

背中には、数万の魂の怨嗟(えんさ)が結晶化したような、禍々しい装飾が施された客室キャビンが鎮座している。

一歩進むごとに周囲の植物が腐敗し、次元が歪む、まさに『動く地獄』そのもの。


だが。

ジンの【全言語翻訳(Lv.MAX)】スキルは、この絶望の化身が放つ咆哮を、脳内で爽やかにこう変換してしまったのである。


『プシューッ(※扉が開く音)。お待たせいたしました! 止まり木町内会御一行様! 豪華サロンバス、魔界観光がお迎えに上がりました! 酔い止め、エチケット袋完備! 安全運転で秘湯までご案内いたします!』


「おお、カッコいいバスだなぁ! 最近の観光バスは、足がいっぱいあって悪路にも強そうだし、レトロなデザインで味があるね」


ジンは、ベヒーモスの巨大な牙(※タラップ)を「おっ、手すりがしっかりしてる」と掴みながら、ひょいひょいと乗り込んでいった。


「ひぃぃぃっ!? ジン様、それはバスではありません! 触れただけで存在を喰らう影の暴君ですわぁぁっ!」

クラリスが叫ぶが、ジンは「クラリスさんも早く。おやつ、300円分まで持ってきた?」とのんきに手招きしている。


「……ハハ。もういいのよ、クラリス。ジン様にかかれば、宇宙を滅ぼす魔獣も『はとバス』と同じなのよ……」

ルミナは、もはやツッコむ気力もなく、殺気を放つ魔獣の口の中(入り口)へと、自ら進んで飲み込まれていった。


▼▼▼


バス(ベヒーモス)の車内は、外見の禍々しさとは裏腹に、驚くほど快適……というより、ジンの好みに合わせて完全に『昭和の観光バス』のインテリアへと魔改造されていた。


「おっ、カラオケセットもあるのか! 邪神さん、後でデュエットしましょうよ」

『フォッフォッ、儂は「魔界の夜は更けて」しか歌えんぞい』

「レオ君、そこにある冷蔵庫の麦茶、みんなに配ってくれる?」

「了解っす、ジンさん! 車内販売の売り子なら任せてください!」


魔王、勇者、邪神が、狭いバスの座席に並んで座り、お菓子を広げてワイワイと騒ぎ始める。

窓の外では、魔界へ向かうための『次元断裂ディメンション・スラッシュ』が発生し、空が真っ二つに割れて、無数の亡者(もうじゃ)の手が這い出してきている。


だが、ジンが窓をガラリと開けて一言。

「あー、風が気持ちいいねぇ。でもちょっと、外の景色が『ハロウィン』みたいで派手だなぁ」


その一言で、バスに群がろうとしていた数万の亡者たちが「ヒィィッ!? 翻訳スキル(管理者権限)で『カボチャの置物』に固定されるぅぅッ!」とパニックになり、霧散していった。


▼▼▼


(…………本日の、三錠目)


ルミナは、バスの最後尾の座席で、揺れに耐えながら胃薬を噛み締めていた。

彼女の視線の先では、大魔王ゼアノスが「ジン殿、これが魔界への入り口、『絶望の門(デス・ゲート)』だ!」と、漆黒の巨大門を指差している。


「へぇー。大きなトンネルだね。これを抜ければ温泉街かな?」


「温泉街……。ええ、そうですわねジン様。あれを抜けた先には、血の池と針の山が広がる、最高のレジャーランドが待っておりますわ……」


ルミナは白目を剥きながら、ジンの「楽しい旅行」という名の『魔界蹂躙』が、いよいよ本番を迎えることを悟った。


「よし、みんな! トンネルを抜けたら、まずはソフトクリーム(※魔界の猛毒果実)を食べに行こう!」


「「「おーっ!!」」」


世界最強の戦力たちを乗せた観光バスは、世界の理を置き去りにして、いよいよ魔界の深淵へと突っ込んでいくのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ