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呪い谷に降る雪は赤い  作者: 西季幽司
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性に合った仕事③

 それに、もうひとつ、結婚の際、春禰から言われたことがあります。『あなたとの間で、子供はつくらない』ということです。『自分には母性がないから』というのが、その理由でした。私には、『あなたの子供は欲しくない』と言われたような気がしました」

 西城俊一は祖先の名声に酔う、プライドの高い人物だったようだ。

 俊一からの事情聴取を終えて、茂木は言った。「西城春禰さんは誰かに殺されたかったのかもしれませんね」

「どういうことだ?」柊が尋ねる。

「俊一でなくても、誰でも良かった。誰かに自分を殺してもらいたかった。俊一の事件が公になれば、その妻である西城春禰さんの役者生命は終わりだったでしょう。例え、そうならなくても、一緒にいて何も気づかなかった――という罪悪感が彼女を苦しめ続けたでしょう。だから、彼女は別荘の近くの旅館に、彼女に恨みを持っている人間を集めた。彼らの誰かに殺してもらいたかった――ふと、そんな風に思いました」

「それは違うな。旅館の招待客のリストは、西城俊一により書き換えられていた。そのことからも、俊一の犯罪が計画的であったことが分かる。計画を練った上で春禰を別荘に呼び寄せ、殺害したのだ。自らの犯罪を隠匿する為に、俊一は西城春禰が作った招待客のリストに春禰に恨み持つ人間を書き加えた」

「容疑者は多い方が良いですからね」

「しかもご丁寧に、春禰宛の脅迫状を作って、新宿北郵便局まで行って投函している。やつは周到に準備をしていた」

「そうですね。でも、僕にはやっぱり、西城春禰さんは殺されることを覚悟していたように思えてならないのです」

「それはお前の感想に過ぎん」柊は冷たく突き放した。


 今田良子は柊の顔を見て、喜びを爆発させた。

「あら~刑事さん。本当に来てくれたのね~嬉しいわあ~」

「捜査でお邪魔した時に、良い旅館だと思ったもので、寄らせてもらいました。お姉さんの事件が片付いて、時間が出来ましたのでね」

「あら、嬉しいこと言ってくれるわね、刑事さん」

 良子は柊の手からボストンバッグをひったくった。

 西城春禰殺害事件の捜査が一段落したので、柊は良子の勤める旅館に宿泊に来ていた。

「しかし、あんた。西城春禰さんの遺産を相続して大金持ちになったはずだ。何で、旅館の仲居なんて、まだ、やってるんだ?」

「嫌だ、刑事さん。大金持ちだなんて。お姉さんからもらったお金は、ありがたく使わせてもらいますけどね。私はやっぱり、ここでこうして働いているのが性に合っているのよ。金持ちぶって、ふんぞり返るつもりなんて出来ない。そうそう刑事さん。事件があった、あのお屋敷、覚えてる?」良子が尋ねる。

「ええ、あのお屋敷も、あなたが相続されたはずです。あそこを改装して二世帯住宅にして、ご両親と一緒に住む予定だと、聞いた気がします」

「ええ、そのつもりだったんですけどね。止めました」

 良子は柊を「柿崎の間」へと案内して来た。ボストンバッグを置くと、てきぱきとお茶の準備を始めた。良い部屋だ。日本庭園となっている庭が一望できる。柊は庭を眺めながら言った。「ほ、ほう~それで?」

「やっぱり、お姉ちゃんが殺された家に住むなんて、ぞっとしますからね。私はそこまで悪趣味じゃない。それに、この村、温泉以外に何もないでしょう。だから、あのお屋敷を西城春禰記念館として、改築することにしたのよ。お姉ちゃんは郷土の誇りですもの。もらったお金で立派な記念館を作って、観光客にじゃんじゃん来てもらうの。そうすれば村のみんなが喜ぶし、番頭さんも喜ぶし、お姉ちゃんもきっと喜んでくれると思う」

 柊は番頭の丸く綺麗に禿げ上がった頭を思い浮かべた。

「ほ、ほう~それは面白い。まあ、あんたらしくて、良いんじゃないか。あんた、頭が良くないから、誰かちゃんとした人間と相談した方が良いぞ」相変わらず遠慮がない。

 だが、良子は気にした様子はない。「そうなのよ~金田先生、覚えてる?お姉ちゃんの高校時代の教師だった人。あのセクハラ教師。あの人が協力してくれるって言うの。先生だったから、頭は良いはずよね、ふふふ。

 ねえ、夕食はこちらにお持ちしましょうか?海の幸、山も幸を盛り合わせた豪華特盛りセットがお勧めなの。是非、私にご馳走させて下さい」

「ああ、みなさんと一緒で良いです。宴会場で、みなさんと同じものをお願いします。お代はちゃんと払います。警察官ですからね。そう言う接待はご無用に願えますかな」

「あら、意外に固いわね。私、大金持ちだから、おごらせてもらいたかったんですけどね」

「温泉に入って、のんびりさせて貰えれば、それで結構です」

「ふふ」と言って良子は笑うと、きちんと正座をして、「刑事さん。この度は姉の事件を解決して頂いて、ありがとうございました。刑事さんのことは、一生、忘れません」と頭を下げた。

「結構です。仕事ですから。それに、私にとって、事件を解決することは、あなたにとっての中居と同じように、性に合った仕事なのです」

 柊は子供のように胸を張った。


                                           了

 澤井信一郎監督、薬師丸ひろ子さん主演の「Wの悲劇」という映画がある。夏樹静子女史の「Wの悲劇」が原作なのだが、小説の方は映画の中で劇として登場する。所謂、劇中劇だ。

 映画が面白かったのもあるが、この劇中劇、一度、やってみたいと思っていた。どうせならと少々、やり過ぎてしまった。容疑者として十三人、用意しようと無謀なことを考えたせいで、登場人物が多くなり過ぎてしまい、しかも名前が似通っているので自分でも分からなくなって、書いていて気が狂いそうになってしまった。

 後半は一気読みしてもらいたくて、怒涛の展開を用意したつもり。果たしてうまく行ったかどうか・・・

 前に「七軒屋の悪魔・あとがき」で書いた通り、限られた空間で殺人事件が起こり、関係者の中に犯人がいるパターンで、読者をあっと言わせるようなトリックは出尽くしてしまった感があり、反則まがいの荒業を持って来るしかなかった。「これは無いよ!」とお叱りを頂いても仕方がない。

 犯人は誰かということより、途中の仕掛けと何故、どうやって殺されたのかを楽しんでもらえたらと思う。

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