性に合った仕事②
種市結衣を殺害した俊一は、一気にカタをつけようと思った。少女の存在が重荷になっていた。――かと言って、このまま開放する訳には行かない。
俊一は部屋に押し入ると、少女を絞め殺した。
二人を殺害した俊一は遺体を車に乗せると、別荘の裏山へ向かった。妙仏山が売りに出されているという話を聞いて、春禰が買い取ってくれていたのが幸いした。(要は地元の強欲な地主が二束三文のクズ山を高値で春禰に売りつけただけだ)と思っていたが、口には出来なかった。春禰のことだ。そんなことは百も承知だっただろう。
妙仏山に二人の遺体を埋めた。
実家の指紋や血痕は綺麗に拭き取られていたが、外から鍵がかかるようになったドアや窓の鉄格子はそのままになっていた。ほとぼりが冷めた頃、西城俊一は再び、少女を監禁するつもりだったのかもしれない。卑劣な男だ。
種市結衣が行方不明になったことに、西城春禰は疑念を抱いた。(何かがおかしい。俊一が絡んでいるのではないか?)野崎から紹介された探偵を雇って調べてもらったが、結局のところ、肝心なことは何も分からなかった。だが、疑念は深まった。
そんな時、思いもかけず、別の情報ソースから情報がもたらされた。
殺害現場に、西城春禰の携帯電話が無かった。俊一は『知らぬ存ぜぬ』とシラを切り通したが、品川のマンションの家宅捜査で春禰の携帯電話が見つかった。奇しくも俊一が言った通り、「犯人が持ち去っていた」のだ。自宅に持ち帰って、隠し持っていた。
ロックがかかっており、俊一は携帯電話の内容を見ることができなかった。それでも、いずれ何とかするつもりで隠し持っていたようだ。
携帯電話を押収して調べてみたところ、昨年の夏頃に春禰は自信のSNSのアカウントを閉じていたことが分かった。遺言を書き換え、俊一の相続分を減らした頃だ。当時のアカウントを復活させて調べたところ、ファンからの書き込みの中に、『わたしの友だちが、あんたの旦那に誘われてついて行ったまま、行方不明になっているの。あんたの旦那の仕業に違いない。彼女をどうしたの?彼女を返して』という書き込みがあった。
春禰はSNSのアカウントを閉じた後、書き込みを行ったファンと連絡を取り合っていたようだ。早速、少女を探し出して話を聞いた。書き込みを行ったのは岡村という名の少女だった。
田舎から坂本という名の同級生の友人と一緒に家出してきて、渋谷のセンター街で男から声を掛けられた。「すっごいイケメン」と岡村は言った。「一緒に遊ぼうよ」と声を掛けられ、友人がついて行った。彼女は「よしなよ。危ないやつかもしれないよ」と止めたが、友人は「大丈夫。きっと悪いやつじゃない」と言って聞かなかった。
その後、「やだ~こいつ。品川にマンション持っているとか言っていたのに、千葉の田舎のダッサイ家じゃん。ガッついてるし、もう嫌」と坂本からメッセージがあった。そして、それきり音信不通になってしまった。
携帯電話を取り上げられたのだ。坂本の携帯電話は遺体と一緒に埋められ、遺体の傍から見つかっている。
岡村は「西城春禰の大ファン」だと言うことだ。男の正体に気がついていた。「西城春禰の旦那だよ。間違いない。売れない映画監督なんで、みんな顔を知らないのね」と言い、友人が戻って来ないので、心配になって春禰のSNSのアカウントに書き込みを行ったのだ。
その後、何度か連絡を取り合い、年末に直接、春禰と会って話をする機会を得た。
「もう、感激~西城春禰と会って話をしたんだから。すっごい美人だった。優しかったしね。焼肉食べたいって言ったら、高給そうなお店に連れて行って、店で一番、高い肉を食べさせてくれたの。しかも、個室よ。サカモっちゃん、きっと探し出すって、約束してくれたの。話が終わってからね~お礼だと言って、万札もらったのよ、刑事さん」岡村は悪びれもせずにそう言った。
春禰は種市結衣の失踪と少女の事件を結び付けたようだ。
夫婦のことだ。西城春禰は俊一の犯行に気づいたに違いない。ある日、俊一は春禰が俊一の携帯電話を盗み見ている姿を目撃する。やはり夫婦だ。春禰に気付かれたことに、俊一も気がついた。
そして、先手を打った。早く殺してしまわないと、このまま離婚され、無一文で放り出されてしまう。警察に突き出されてしまうかもしれない。俊一はそれを恐れた。
西城春禰の殺害動機について、俊一は更にこんな話をしている。
「結婚の際、婿入りして西城姓への改姓を求められたことは屈辱でした。私の旧姓をご存じですか?旧姓は山名と言って、源氏の一族である由緒正しき姓なのです。山名氏と言えば、室町時代には山陰地方を中心に、十一カ国を有する守護大名でした。当時、全国で六十六カ国しかなかったそうで、天下の六分の一を領有した為、六分の一殿と呼ばれていたそうです。まあ、その傍流の傍流ですが、春禰なんかと比べたら、うちの方が由緒正しい家系です。正直、婿入りで改姓させられたことは嫌で嫌で仕方ありませんでした。両親も大反対でしたしね。




