浮気調査③
「ふふん。種市結衣の失踪のことですね。西城俊一が種市結衣の失踪に係わっているのかどうか、調べて欲しいと頼まれたのでしょう」
「ああ、流石に刑事さん。ご存知のようですね。でしたら、話が早い。事が事ですので、その件は私が自ら調べました。いくつか分かったことはあったのですが、結局、はっきりとしたことは分からなかったのです」
「分かったことだけで結構ですので、教えて頂けませんか?」
「う~ん。守秘義務がありますからね~」今更だ。案の定、柊が言う。「西城春禰さんは亡くなっているのですよ。それも殺されたのですよ。殺人事件の捜査です。今更、守秘義務も、へったくれも、ないでしょう」
「ですが、西城俊一さんはご健在ですからね~」丸田が渋る。
柊をからかって遊んでいるかのようだ。(後が怖いぞ)と茂木が思った途端、柊が言った。「丸田さん。先ほど、問い詰められれば喋ると言っていませんでしたか?もし、西城俊一が春禰さん殺害の犯人であったならば、あなたを証拠隠滅、いや、共犯として逮捕しますよ。こう言えば話してもらえますか?」
丸田は「うへっ!それは堪らないなあ~」と大袈裟に驚いて見せてから、已む無しと言った体を装って言った。「まあ、良いでしょう。警察では俊一さんが犯人だと疑っている訳ですね?」
当然、柊は答えない。「さあ、何が分かったのか、最初から、西城春禰さんか依頼があった時点から、順を追って話して下さい」と話を促した。
「はは、分かりました。野崎さんから紹介があって、西城春禰さんとお会いしました。日時を指定され、彼女の芸能事務所で、二人切りで会いました。そこで、西城春禰さんから、西城俊一が種市結衣さんの失踪と関係があるのかどうか、調べて欲しいと頼まれました。
種市結衣さんはフリーの雑誌記者で、西城春禰さんの周辺を探っていたようです。掴んだネタを雑誌社ではなく、春禰さんのもとに持ち込み、買い取ってくれないかと言ってきたそうです。体の良い恐喝ですよね」
「種市結衣が西城春禰に持ち込んだネタが何なのかも知っているのでしょう?」
「ええ、それも西城春禰さんから聞きました。芸能界のドン、八木正大と不倫関係にあって、隠し子までいるそうですね。それを聞かされた時には驚きましたが、その時はもう、八木正大は故人になっていましたので、彼女、気にしていませんでした。今更、隠し立てする必要などありません!――って強気でしたよ。たくましい女性でした」
「それで?」
「八木正大のネタを持ち込んだ雑誌記者に、夫の俊一の素行調査を依頼したそうです。浮気を疑っていたようで、最近、様子が変なので、調べて欲しいと金を渡したそうです。ところが、その雑誌記者が行方不明になった。
そこで、先ずは失踪までの種市結衣さんの足取りを洗いました。いやあ、苦労しました。彼女、取材ノートを持ったまま行方不明になっていましたからね。目立つ人物じゃないし、秘密主義で取材のことは雑誌社や知人にも一切、秘密にしていました。足取りがまるで掴めなかった。そこで、発想を変えてみた。反対に西城俊一の行動範囲内で、彼女の目撃情報が無いか調べてみたのです」
「ほ、ほう~まるで刑事のようですね」
「はは、刑事さんから褒められるなんて、光栄だな。彼女、失踪する直前に、ある場所で頻繁に目撃されていました。そこはまあ、刑事さんとは違って彼女は素人ですから、尾行や張り込みに慣れていなかったからでしょうね」
「ある場所とは何処です?」
「西城俊一こと、山名俊一は一人っ子で、千葉県船橋市に実家がありました。西城春禰と結婚して、婿養子に入ったのでしょう。両親が健在ですが、西城春禰と結婚した際に、都内にマンションをプレゼントされ、二人はそちらに移っています。俊一の実家は俊一名義になっていて、空き家の状態です。
一戸建てですが、表通りから細い路地を入ったとことにあって、車で出入りするとなると、かなり不便です。しかも、前にでっかいマンションが建ってしまって、日当たりも悪い。マンションとは日照権の問題でモメたようですが、まるで陽が当たらない訳ではないし、住宅地として再開発が行われている地域でもあり、結局、泣き寝入りだったようです。
老人夫婦の二人暮らしだと、マンションの方が楽だったりする。西城俊一の両親は息子の嫁に感謝しながら、引っ越して行ったそうです」
「ほ、ほう~その西城俊一の実家周辺で種市結衣の目撃情報があったという訳ですね」
「いやだな~刑事さん。そう先回りされちゃあ。順を追って説明しろと言ったくせに――」と丸田が恨み言を言う。それを「ふん」と柊は聞き流す。
「一戸建てとは言え、民家がひしめき合っているような場所ですからね。身を隠そうにも、隠す場所がない。そんな場所でした。だからでしょうね。
最初はね。西城春禰さんから教えられた場所を調べていたのです。日頃、西城俊一が頻繁に顔を出すと言うレストランやジム、ブランド・ショップなんかをね。でも、種市結衣さんの目撃情報は出て来ませんでした。
それが、『ひょっとしたら――』と西城春禰さんから、西城俊一の実家の住所を教えられて、近所を聞き込んで回ったところ、もう出るわ、出るわで、目撃情報が出てきました」
「ほ、ほう~それは面白い。西城俊一は実家で何をしていたのでしょうか?」
「それは分かりません」丸田はあっさり答えた。
「分からない!それだけ調べて、分からなかったのですか?」
「私どもは警察ではありませんからね。調査には限界がありますよ。空き家同然でしたから、西城俊一の実家にこっそり潜入して調べてみたかったのですが、家宅侵入になってしまう。そういう訳には行きませんしね。
それに私どもが調査を行っている時期、西城俊一は実家に立ち寄っていません。
種市結衣さんは西城俊一の浮気調査をしていて、やつの実家に何かがあるのを嗅ぎ付けた。そこで、実家を見張っていた。そして、ある日突然、行方を絶ってしまった。西城俊一は実家にあった何かを、始末してしまったのでしょう。今はもう、実家に行く必要がなくなった。
そんなところですね。残念ながら、種市結衣の失踪と西城俊一との間に、関連があるのかどうか、はっきりとは分からなかった。そう西城春禰さんには報告しました」
「あなた自身はどう考えています?種市結衣の失踪と西城俊一との間に関連があると思いますか?」
「はは。それを調べるのは刑事さんの仕事でしょう」丸田が突き放したように言った。




