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密室トリック②

「結構です。ご協力、感謝します。では、我々、忙しいのでこれで。西条俊一から連絡があれば、直ぐにご連絡ください」柊が人並みに礼を言った。

 二人が応接室を出て行くと、沖は永田に向かって言った。「二人共、君の脚本に出て来るまんまの人物だったな」

「そうでしょう。取材で話を聞いて、これは使えそうだ――!と思いました」

「君の脚本に、一見、名探偵に見えるが、実は助手の方が名探偵だと言う台詞があったな。まさにそんな感じだ。だが、実名はまずいだろう。脚本で名前くらい、変えておいてくれよ」

「あっ!すいません。柊っていう刑事さん、印象が強烈だったものですから、ついついそのまま名前を使ってしまいました。何て名前にしましょうか?」

「そうだな・・・柊だから、木の名前がいいな。楠でどうだ?」

「いいですねえ。楠、姓は楠で名前は何にしましょうか?」

正義(まさよし)だったよな。彼の名前。刑事にぴったりの名前だ。じゃあ、一字変えて、正成でどうだ?」

「それだと楠正成になっちゃいますよ。南北朝時代の有名な武将の名前じゃないですか!?後醍醐天皇の建武の新政の――」

「ああ、そうか。道理で直ぐに名前が浮かんだ訳だ。やっぱり、僕に脚本は無理だな。まあ、君、適当につけておいてくれ。とにかく、実名はまずいよ。刑事さんだしな」

「分かりました」と永田が頷いた。


 全ては茂木が仕組んだ罠だった。

 話は数日前に遡る。柊と茂木は別荘にいた。

 茂木が窓を開けたので、冷たい空気がどっと部屋の中に押し寄せてきた。茂木は窓から首を伸ばし、下を見下ろした。そして、窓から頭を出したまま、動かなくなった。

 部屋の温度が下がって行く。だが、柊は無言のまま茂木の様子を見守っていた。

「密室の謎が分かったかもしれません」と柊に告げると、「現場で説明しろ!」と言われ、別荘まで車を飛ばしてやって来た。

 西条春禰は二階にある寝室で絞殺された。寝室は密室になっていた。ドアにはサムターンと呼ばれる鍵がかかり、窓は全て内側から鍵がかかっていた。

 柊は「合鍵を使って密室にしたのだ」と、密室の謎にあまり感心がない。犯人を検挙さえすれば、そいつが合鍵を持っているはずだというスタンスだ。

 合鍵の存在については、事件後に家政婦の飯田勝子から事情聴取を済ませてある。「合鍵があるのではないか?」と言う質問に対して、きっぱりと「それはありません」と否定した。

 門や玄関、裏口の鍵は合鍵を作って、春禰と俊一が持っている。――とは言え、田舎のことだ。顔見知りばかりの村だ。村人は玄関に鍵をかける習慣がない。春禰と俊一も別荘に滞在している時は、戸締りを気にしていなかった。

 そんな有様だ。別荘の中の部屋の鍵など、無用の長物だった。春禰と俊一、それに日中、飯田がいるだけなので、部屋に鍵をかける必要などなかった。

「そんなもの、必要ありませんから」と飯田は言う。

 飯田に邪魔されたくなければ、部屋の中からサムターンを回して、鍵をかければ良い。それだけだ。別荘として利用している屋敷なので、貴重品も多くない。外から部屋に鍵を掛ける必要がなどないのだ。

 春禰が別荘を使用しない時、飯田は月に一度、掃除にやって来る。あまりに長い間、遊びに来ない時は、用心のため部屋に鍵をかけることがあった。だが、ここ数年、春禰は頻繁に屋敷を訪れていた。「もう何年も部屋に鍵はかけたことはありません」と飯田は言い切った。

 飯田が断定的に言い切るので、柊がむきになって尋ねた。「なるほど。あなたがここ数年、部屋の合鍵を使っていないことは分かりました。では、誰かに鍵を貸し出したことがあったのではありませんか?例えば、俊一さんに頼まれて、寝室の合鍵を貸したとか?

 今回のように、なかなか起きて来ないので、心配になって合鍵を使って部屋の中に入ったことはありませんか?自宅のトイレの鍵が壊れて、中に閉じ込められるという事故が意外に多いのですよ」

 この質問にも、飯田は「いいえ、そんなことは一度もありませんでした」と否定した。

「本当ですか・・・」柊は信用していない様子だったが、飯田の言葉が正しいとするならば、俊一に合鍵を作るチャンスは無かったことになる。

 キーボックスの鍵についても同様で、「いいえ。私の命に代えても、人に貸したことなんてありません」と飯田は毅然と答えた。

(合鍵を使って密室をつくったのではなければ、どうやって部屋を密室にしたのか?)茂木は考えた。

 部屋の暖気がどんどん逃げて行ってしまう。流石に、寒くなってきた。腕組みして茂木の様子を見守っていた柊が寒さに耐えかねて、「どうしたんだ?」と批難すると、「すいません。ちょっと考え事をしていました」と茂木は言って、慌てて窓を閉めた。

「密室の謎が解けた――ような気がします。謎を解いてみると、犯人が誰なのか、西城春禰さんを殺した人物が誰なのか、分かりました」

「ほ、ほう~面白い。で、誰なんだ?」

「はい。先ずは密室の謎について、説明します。よろしいでしょうか?多分、僕の話を聞けば、柊さんなら、犯人が誰なのか、聞かなくても察しがつくと思います」

「余計な前置きはいい。さっさと密室の謎とやらを、説明しろ」

「はい。結論から言います。この部屋は密室ではなかったのだと思います」

「密室ではなかった⁉ 我々の眼が節穴だということか?」どうにもやり難い。

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