密室トリック①
西城俊一が応接室を出て行くと、入れ替わりに二人の男がやって来た。
一人は額が抜けるように広く、鼻筋の通った、なかなかの美男子だ。もう一人はやや年若で角張った顔に角張った体の四角い男だ。
「いかがでしたか?これで、良かったでしょうか?」沖が二人に尋ねる。
「まあ、良いんじゃないかな」と年配の男が答えた。
群馬県警の柊と茂木だ。実際の事件を題材にしているとあって、二人の刑事は、ちゃんと永田の書いた脚本に出演していた。
茂木は沖に向かって、「流石に映画製作会社さんですね。隣の会議室で一部始終、拝見させて頂きました。お二人共、堂に入った演技でした。今の会見の模様は全て録画されているとお聞きしています。録画データを頂けますか?」と尋ねた。
「ええ、録画してあります。部下に言って、焼いてもらいましょう」
沖は身軽に立ち上がると、応接間を出て行った。
広い応接室だ。柊と茂木が空いたソファーに腰を降ろすと、永田が尋ねた。「刑事さん。今の会見で何か分かったことがありますか?」
警察の捜査に協力することなど、滅多にない。これを脚本に生かさない手は無い。
「分かったこと?そうですねぇ~西城俊一は徹底して、自分が犯人だと書かれた箇所を変更しようとしていましたな」柊が答える。
「やっぱり、彼が犯人なのでしょうか?」
「どうですかね。そこはやっぱり、自分が殺人犯だと自白するような映画を撮りたくないからでしょう」
「そうですか?殺人犯が自分の犯行を自白する、そんな映画があれば、面白いと思うのですけどね。きっと大評判になります」
永田の言葉を聞いて、(やっぱり、芸能関係者は、一般人とは違った感覚を持っているんだな)と茂木は妙な感心をした。
「面白い!?捜査は遊びではありません。人が一人、殺されているのです!」こういう時、柊はズバリ、言いたいことを言ってくれる。
「すいません」と口先だけで謝ってから、永田は「そうですか。刑事さんたちのような犯罪の専門家でも、今の会見からは何も得るものがなかった訳ですね」と挑発するかのように言った。
永田の嫌味など、聞き流しておけば良いのに、柊は子供のようにむきになって反応する。「無論、分かったことはあります」
「どんなことですか?」
「会見中、一度、西城俊一が妙なことを言いましたね。それに気がつきましたか?」こちらも、なかなか挑発的だ。
「いえ、私のような素人には、分かりませんでした」
これに柊は気を良くしたようだ。「ははあ~気がつきませんでしたか。まあ、あなたは素人ですから、仕方ありません。彼、セクハラ教師の話を春禰さんの幼馴染から聞いていたのに、聞いていなかったと惚けましたよね?」
「あ、ああ~確かに。僕も変だと思いました」
「永田さん。今更、言ったってダメですよ。後だしジャンケンだ」何処までも子供っぽい。
「そ、それで、そのことから何が分かったのでしょうか?」永田が身を乗り出す。
「今回、マネージャーの加藤に招待客の名簿を渡したのは俊一です。春禰さんは、懐柔の意味もあったのでしょうが、自分に恨みを持っている人間を温泉宿に招待する傾向があった。だが、それが今年は、あまりに露骨だった。
旅館で、過去の宿泊客のリストを見せてもらいました。仕事絡みの芸能関係者が一人、二人、必ずいたのですが、それが今年はいませんでした。何時もなら接待の意味で芸能関係者を招いていたのでしょう。それが今年は、皆無で、春禰さんに恨みを持つ人間だけが集められていたのです」
「ええ、ええ」と永田が期待の篭った目で柊を見つめる。柊は得意満面だ。「どうです?分かりましたか?えっ、まだ、分からない。聞きたいですか?良いですよ。では、お教えしましょう」と焦らせておいてから、「西城俊一が加藤に渡す名簿を書き換えたとしたらどうです?仕事関係者を排除して、個人的に春禰さんに恨みを持つ人物だけを旅館に集めた。そう考えることが出来るのです。セクハラ教師の金田はその一人だった。俊一が書き加えた人物の一人だった。だから、知らない振りをしたのです」と言った。
永田が弾けるように言った。「な、な~るほど!流石は刑事さん。目の付け所が違いますね。あんなちょっとした会話から、そこまで分かるんですね。いや~勉強になりました」
「いや、何。この程度」柊の自慢はさておき、(確かに柊さんの説は一理ある)と茂木は思った。そして、茂木が続けて思ったことを、永田が聞いてくれた。「そうなると、やはり西城俊一が犯人なのですね?」
「そこまでは分かりません」あっさりしたものだ。柊が誰のことを疑っているのか、茂木は聞いていたが、部外者に教える訳には行かないのだろう。当然だ。
「名簿に細工をしたとなると、彼が怪しいことになりませんか?少なくとも、私の書いた脚本通り、彼が共犯者である可能性が高くなったような気がします」
「どう、考えようと、あなたの自由です。我々はあくまで事実を、証拠を追い求めるだけです」格好をつけ過ぎだ。
自ら推理を披露しておいて、結論から逃げているだけだ。
その時、「やあ、やあ。随分、話が弾んでいるみたいじゃありませんか。永田君、良い話が聞けたようだね。後で僕にも教えてくれよ」と言いながら、沖が戻って来た。そして、「刑事さん。はい、これ。会見の模様を録画した映像データを保存してあります。これで良いですか?」と言って、USBメモリを柊に渡した。




