遺言④
「ほ、ほう~それは面白い。窃盗ですか。立派な犯罪ですね。エアコンの室外機には銅やアルミニウムなどの金属が使われていますからね。金属の廃材市場で売れます。海外に持って行けば高く売れます。カバーだけを使って、メイド・イン・ジャパンのダミー商品を作るのに使われたりもするようですね」
「へえ、そうなんですか。それにね、あの親父。家電量販店に勤めていますからね。室外機を盗まれると、当然、エアコンを買い替えなければならなくなりますよね。そうすると、お店の売上が伸びる。しかも、室内機だけ持っていても仕方ありませんから、これを『無料で廃棄しておきます』と引き取って、会社に黙って室内機も売り払っていました」
「ほ、ほう~それはあくどい。しかし、証拠はあるのですか?」
「無論、証拠があるから、弱みになるのです。あの親父が室外機を盗む様子を撮影した動画があります。それもね、三件。どうです?常習犯ですよ。きっと、余罪がもっとありますよ」
「ほ、ほう~それは面白い。その動画、頂けますか?地元の警察署に連絡して調べてもらいましょう」
「ああ、良いですよ。DVDに焼いてありますので、後でお渡しします」
「ご協力、感謝いたします」柊が律儀に言う。
警察官だ。捻じ曲がった性格だが、人一倍、正義感は強い。
誠一が話を続ける。「さて、残りを片付けておきましょう。次は・・・近田翔子、秋香の妹さんですね」
「ええ、何故、彼女の名前を書いたのですか?」多少、批難がましい口調なのは、柊が翔子のことを気に入っているからかもしれない。
「姉妹仲が悪いことは、秋香から聞いていたのですがね。まさか、秋香があの妹に、こんな莫大な財産を残すとは思いもしませんでした。私の相続分は大半、彼女に持って行かれてしまいました。このままでは・・・」はたと誠一が口をつぐんだ。口が滑ったようだ。
「このままでは――何です?東城さん、あなた、まさか、よからぬことを考えているのではないでしょうね?」すかさず、柊が釘を刺す。
「違いますよ、刑事さん。彼女が遺産相続のことを知っていたとしたら、秋香殺害の動機になりませんか?」巧に話題を逸らす。
「知っていたのですか?」
「さあ、分かりません。そうそう、彼女の名前を書いた理由でしたね。もう二、三年前になりますかね。秋香と彼女が大喧嘩をしましてね。その時、彼女、『煩い!黙れ!ぶっ殺すぞ!!』と秋香に怒鳴っていました」
「姉妹喧嘩ですか?激昂して、つい物騒な台詞を口走ってしまうこともあるのではないですか?身内ですから」
「まあ、そうでしょうね。でも、その時の記憶が強烈だったものですからね。名前を書きました」
「分かりました。さて、残りは金井明と堀口久典の二人です。堀口が秋香社長を逆恨みしていたことは分かりましたが、金井明はどうです?彼の話によれば、セクハラ騒動は事実ではなく、二人はプラトニックな関係だったということです。例え、セクハラが事実だったとしても、恨んでいるのは東城社長のはずで、彼ではないのではありませんか?」
「はは。あの男が、刑事さんに何て言ったのか知りませんけどね、学生時代のセクハラ騒動以外にも、問題がありました。あの男、秋香に異常に執着していたのです」
「それは最近の話ですか?」
「そうですねえ、かれこれ、一年くらいになるかと思います。秋香が雑誌のインタビューで漢籍に詳しいことを聞かれ、『学生時代に、漢文の先生から色々、教えてもらって興味を持ちました』と答えたのです。そしたら、刑事さん、あの男から秋香に手紙が来たのです。それも、自宅宛にですよ。きっと、昔のつてを辿って、秋香の住所を同級生から聞いたのでしょう。執念深いやつです。
秋香も『気持ち悪い』って言って、返事を出しませんでした。あの男、それを逆恨みしたのかもしれません。可愛さ余って憎さ百倍、そう言ったストーカー被害は、世の中、枚挙に暇がありませんからね」
「ほ、ほう~それは面白い。金井さん、その話は言っていませんでしたね」
リストにある容疑者たちが、事情聴取で全て正直に話してくれた訳ではない。みな、他にも人に言えない秘密を抱えているのかもしれない。
「もうひとつだけ――」と柊が前置きして尋ねた。「寝室に東城秋香さんの携帯電話がありませんでしたけど、何処にあるのがご存じありませんか?お忙しい人でしたので、携帯電話は肌身離さずお持ちだったのではありませんか?寝室に無いのは変ですね」
(ああ、そうか!)と茂木は思った。寝室を調べた時に感じた違和感の正体が分かった。携帯電話が無かったのだ。(流石は柊さんだ)と素直に思った。
誠一は首をひねりながら答えた。「寝室に無かったのですか⁉変だなあ~おっしゃる通り、秋香は携帯電話を肌身離さず持っていました。無いなんておかしいですね。きっと秋香を殺した犯人が持ち去ったのですよ!」
東城誠一からの事情聴取を終えて、屋敷を出た。
「柊さん。あれ!」茂木が庭の隅の木を指さす。
「うん」と茂木の指さす方向を見て、柊は「くえっ!」と妙なうなり声を上げた。
昨日、朝方に舞った雪が木の枝に多少、残っていて、保護色になっていたが、よく見ると鳥が止まっていた。真っ白だ。結構、大きい。
「あれ、噂の白いカラスじゃないですか!本当にいるんだ。真っ白ですね。とてもカラスに見えない」茂木が言うと、「おい、よせ」と柊が返事をした。
何をよせと言っているのか分からなかったが、柊は「いいから、早く車を出せ」と茂木をあおった。どうやら、この場から逃げ出したいようだ。
車に乗り込み、スタートさせると、ほっとしたように柊が言った。「ああゆうのは見ない方が良い。禍のもとだ」
よほど怖かったようだ。




