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呪い谷に降る雪は赤い  作者: 西季幽司
第三幕「阿房宮」
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遺言③

「そうでしょう。きっとその金が原因で夫婦喧嘩でもして、あいつ、奥さんを殺したんですよ。そして、どこかに遺体を隠した。そうに違いない。そして、金を使い果たし、生活に困ったもんだから、奥さんが行方不明になったことにして、秋香からまた金を搾り取ろうとした。それを断られて、逆上し、秋香を殺した。いや、或いは奥さんを殺害したことを、秋香に悟られて、口封じで殺したのかもしれませんね」

「東城さん。一体、どこからどこまでが、東城社長から聞いた話なのですか?あなたの想像を交えて話されては困りますね」柊の言う通りだ。

「すいません。でも、百万払ったことまでは事実です。ああ、その後も、十万円が二回くらい、秋香から奥さんに払われています。確かです。秋香の銀行明細を見たことがありますから。きっと、口止め料として、秋香を恐喝していたのだと思います」

「それも、また想像ですね」

「ええ、まあ。でも、当たらずといえども遠からず、僕は、あの男が怪しいと思っています。きっと隠し事があるに決まっています」

「人は誰でも人に言えないことがあるものです。あなたもそうでしょう?さて、古市さん以外で他に怪しい人物はいますか?」時々、真っ当なことを言う。

「正春君は、そもそも秋香に対して母親の愛情など、感じていなかったでしょう。彼女が死ねば、膨大な遺産を相続することが分かっていたはずです。だから、名前を書いておきました。刑事さん、聞いたでしょう。先ほどの遺言書の内容を。きっと彼の想像以上だったと思いますよ。秋香が死んで最も得をした人物です」

「ええ、それはあなたも同じだと思います」

「嫌だな~刑事さん。僕の取り分なんて、想像より全然、少なかった。むしろ損をしたくらいだ」

「損をした?そうですか?この先、東城社長に離縁され、放り出されていたら、あなたの取り分は慰謝料になっていたかもしれませんよ」

「刑事さん。失礼だなあ。夫婦仲はいたって円満で、僕と秋香の関係は良好でした。離婚なんて――そうそう、夫婦といえば関口夫婦、彼らも怪しいと思います。彼ら、ここに来た理由をどう説明していました?」

「ああ、確か、年賀状を出したら、返事が来て、上杉湯に招待されたと言っていました。株で失敗して金に困っていたようです」

 柊の言葉に、誠一は「ははん!」と笑って言った。「年賀状!?とんでもない!あいつらの方から秋香に接触して来たのです。やつら、八田正剛が死んで、もう脅される心配がないと思ったのでしょうね。金に困って、秋香を再び、強請って来たのです。ところが、秋香にしてみれば、八田正剛が死んでしまえば、不倫の事実が公になっても、困らなかった。

 先ほども良いましたが、彼女、八田正剛に義理立てして、二人の関係が公にならないようにしていただけですからね。実際、二人の関係を知っている人間は大勢います。関口夫婦は思惑が外れた訳です」

 誠一は「けっけっ!」と笑い続ける。遺言の内容がよほどショックだったようだ。「それにね――」と嬉々として話を続ける。「秋香は、いざとなったら、あの夫婦を黙らせる手段をちゃんと確保していたのです」

「ほ、ほう~それは面白い。一体、どういう方法で関口夫婦を黙らせるつもりだったのですか?」

「はは。人の口を塞ぐ、一番、良い方法は何だか分かりますか?刑事さん」

「そりゃあ、勿論、殺害して黙らせることでしょう」

「ああ、確かに。でも、殺すのはダメでしょう。じゃあ、二番目に良い方法は何です?」

「二番目?相手の弱みを握ることですかね?」

「正解!秋香はあの通り、目先の聞く女ですからね。何時かまた、あの夫婦が強請ってくることくらい、ちゃんと予想していました。そこでね。人を雇って、あの夫婦の状況を絶えず調べていたのです。あの夫婦、このところ相当、金に困っていたみたいですね」誠一は楽しそうだ。

「最近、株で失敗したと言っていました。違うのですか?」

「株で失敗したのは事実でしょう。でもね、他にもあるのです。秋香に里親失格の烙印を押され、正春君を取り上げられてから、あの夫婦、生活の糧を失ってしまいました。電気屋を廃業した時や、里親をやっていた時に、秋香からせしめた金があったはずですが、流石に、それだけでは先行きが不安だったのでしょうね。

 あの親父、電気屋をやっていた経験を生かして、近所の家電量販店に働きに出ていました。派遣ですから、給料は良くなかったみたいです。まあ、奥さんもパートに出たりしていましたから、二人で生きて行くだけなら何とかなったのでしょう」

「ほ、ほう~詳しいですね」

「言ったでしょう。秋香が人を雇って調べていたのです。あの親父、たちの悪いやつなのですが、所詮、小悪党でね。電気屋時代には、免許もないのに電気工事をやったり、近所の飲み屋の女と不倫関係になったりしていました。その辺の証拠もちゃんと揃えてあります。電気屋時代の犯罪なんて、もう時効でしょうし、不倫も犯罪ではありませんからね。決定的な弱みとはいえませんでした。

 それがね、刑事さん。聞いて下さい。ついに決定的な犯罪の証拠を掴んだのです。あの親父ね、最近、金に困ったからでしょう。留守宅や空き家から、エアコンの室外機を盗み出していたのです。エアコンの室外機なんて、売れるのですかねぇ~」

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