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呪い谷に降る雪は赤い  作者: 西季幽司
第三幕「阿房宮」
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容疑者十三・謎の脅迫者③

「ああ、ナオさん。茂木です・・・はい、はい。柊さんと事件関係者から事情聴取を行っています・・・はい、分かりました」

 茂木は事情聴取の内容を直江に伝えた。そして、最後に柊から頼まれた八田楓、飯塚茉莉、西岡工の三人のアリバイ捜査を頼んだ。

 生真面目な直江のことだ。直ぐに捜査員に指示して、手分けをして、調べてくれるはずだ。

 直江への報告が終わり、部屋に戻りかけたところ、二階から誠一が降りて来た。意外に時間がかかった。柊が待ちくたびれていることだろう。

「刑事さん、ありました」と言いながら誠一が階段を降りてくる。「中でお伺いしましょうか」と誠一を応接間へ誘った。

 丁度、その時、コツコツと扉を鳴らして、来客があった。誠一がドアを開ける。外気が吹き込んできて、一瞬、玄関ホールを凍らせた。

 ドアの向こうに、近田翔子と石田正春の二人が立っていた。

「何でも私どもにご用事だとか。忙しい中、駆けつけて来ましたよ」誠一の顔を見るなり、翔子が嫌味を言った。誠一は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 翔子の隣では、正春が所在な気に立っていた。

「すいません。お忙しいとこと、わざわざお呼び立てして。取りあえず、中にお入り下さい。寒かったでしょう。ちょっと立て込んでいて、直ぐに用事を片付けますので、リビングでお待ち下さい」

「あら、そう。呼びつけておいて、取り込み中なのね。まあ、いい。折角だから、お姉様が大好きだったハーブティーを飯島さんに煎れてもらって待っています。さあ、正春さん、中に入りましょう。風邪を引きそう」翔子は正春の腕を引っ張って、ずんずん中に入って行った。屋敷の勝手は分かっている。

「はは、刑事さん。ご覧の通りですので、手短にお願いします」

 茂木と誠一は応接間に戻った。案の女、柊は待ちくたびれていた。「やあ、お二人とも、もう戻って来ないのかと思っていました」茂木にまで嫌味を言った。

「すいません」茂木が慌てて言う。

 謝るのは茂木に任せて、誠一は「刑事さん。ありました。この手紙です。これが秋香宛に届いていた脅迫状です」と白い封筒を柊に渡した。

 長形四型と呼ばれる縦長の普通の白い封筒だ。阿房宮の住所だろう。封筒には呪い谷の住所が印字されていた。消印は新宿北郵便局のものだ。都内で投函されたものだ。

「ああ、ちょっと待って下さい」柊は胸ポケットから手袋を取り出すと、封筒を受け取った。封筒から便箋を抜き出して、慎重に開く。柊の手元を茂木が覗き込む。


 東城秋香様


 時間だ。

 お前がやってきた数々の悪行を悔い改める時がきた。金儲けのために、お前が踏みにじってきた人々に対して、命をもって償うのだ。

 天に代わって、制裁を加えてやる。

 呪い谷は、お前の死に場所として相応しい場所だ。お前のために泣かされた人々の呪いを受けて、苦しみながら死ぬのだ。

 死ね。死ね。死ね。

 お前のようなやつは、生きていれば人を苦しめるだけだ。死んだ方が世の中のためだ。

 呪い谷の屋敷で、お前は死ぬのだ。

 それがお前の運命なのだ。


 同じプリンターを使ったのだろう。封筒と同じような字体で、秋香の殺害予告が印字されていた。文面からは秋香に対する強い殺意を感じた。だが、脅迫者の身元に繋がるような表現は一切無かった。ただ、秋香に対する恨み辛みが書き連ねてあるだけだ。

「これを見ただけでは、事件に関係があるのかどうか、分かりませんねぇ~まあ、鑑識に調べてもらいましょう」そう言って、柊は脅迫状を茂木に渡した。

 茂木が大事そうに胸ポケットに仕舞う。

「ところで、東城さん。お待ちかねの客人が到着したようですね。いよいよ東城社長の遺言書が公開されるのですね」

「はい。ですので、この応接間を使いたいのですが・・・」

「我々も、その遺言書の公開に立ち合わせてもらって、構いませんか?」

 柊は遠慮がない。誠一は「えっ!」と複雑な表情を浮かべた。明らかに迷惑そうだ。

「そ、そうですね・・・プライベートなことですので、出来れば私たち、関係者だけにして頂いて、ご遠慮頂きたいのですが・・・」誠一が渋ると、「ええ、勿論、無理にとは申しません。東城社長が亡くなり、誰が一番、利益を得るのか、それを知りたかっただけです。当然、最も利益を得る人間が疑わしいことになります」と柊がねじ込んだ。

「そう言われましても・・・では、中森先生と相談してみます」

 自分からは断りづらいので、中森に断ってもらうつもりなのだ。

 柊と茂木は応接間で待たされた。やがて、誠一に連れられて、中森、翔子、正春がぞろぞろと部屋に現れた。

「刑事さん。東城秋香氏の遺言書の公開に立会いたいそうですね」中森が部屋に入ってくるなり言った。

「いけませんか?」柊は挑発的だ。

「あくまで私的なものですので、本来はご遠慮頂きたいのですが、東城社長があのような形で亡くなられたことですから、遺言書の内容が事件に絡んでいるのではないかと心配しています。そこで、どうでしょう?皆さん。皆さんの同意があれば、刑事さんたちが同席できることにしてはいかがでしょうか?」

「ああ、それで結構です」と柊が賛同する。柊の同意は必要ない。

「近田翔子さん」と中森に指名された翔子は、「私は構いませんよ。あのお姉さんが私に遺言したことなんて、どうせ説教がましいことに決まっていますから。それに、この刑事さん、しつこいから。ダメだと言ったって、どうせ、後からあれこれ聞かれるに違いありません。だったら、今、一緒に聞いてもらった方が早い」と言って、柊を見てにっと笑った。

 柊は無表情だ。

「石田正春さん、あなたはいかがですか?」中森に名指しされた正春は「俺はどっちでも良いよ。刑事さんたちが聞きたければ、聞いてもらって構わない」と同席を認める発言をした。

 残りは誠一だ。

 翔子と正春が同席を認めてしまったので、断り難い雰囲気になってしまった。誠一は渋々といった感じで、「僕も刑事さんたちに聞かれて困ることはありません」と同席を認めた。

「よろしいでしょう。では、刑事さんたちの立会いのもと、東城秋香氏の遺言書を公開しましょう」中森が宣言をするように言った。

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