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高畠君枝首相は寝不足の目をこすり、モニターに次々と表示される異常を示す報告を目で追っていた。普段なら人前で疲労を見せることを嫌う彼女が、今だけは目元を揉まずにいられなかった。昨夜から一睡もしていない。突然のネットの沈黙に、さらに自衛隊からの報告で官邸の中はきりきり舞いをしていた。すべての閣僚が呼び戻され、緊急閣議を招集することになった。官邸の外では記者たちがぐるりと取り囲み、報道の車が首相からの公式発表を一日千秋の思いで待ち構えていた。
すでに全国的にネット切断と、GPSの異常は広がっていて、警視庁幹部も臨戦態勢に入っていた。
地上波ではすわこそ! と国際情勢に明るいと言われる評論家、軍事専門家が呼び集まれ、緊急番組を放送していた。その論調のほとんどがテロによる切断を主張していたが、視聴率はふるわず、国内のSNSが活発な情報のやり取りを続けていた。
高畠が閣議を行われる部屋へ姿を現すと、その場の閣僚が一斉に立ち上がり彼女を出迎えた。みな、一様に不安を顔にうかべている。
無言で彼女は着席すると、居合わせた全員の顔を眺め渡した。
まず官房長官が口火を切った。
「警察庁長官からの報告では、ネット切断の原因はまだ特定されていないとのことです。サイバー部門からも海外からのサーバーが一切沈黙した状態は変わりありません」
「国内のネットは異常はないのね?」
「それが……」
と総務大臣が手を挙げた。
「沖縄にあるデータセンターからのリンクが切れております」
高畠首相の顔に一瞬怪訝な表情が浮かんだ。
「沖縄で何があったというの? 攻撃?」
総務大臣は否定の意味で首を振った。
「それが一切の連絡が取れないのです。仮に何らかの攻撃があったとしても、まったくの沈黙とはありえません。ただし……」
と一旦言葉を切り、力を込めてつづけた。
「北海道にあるデータセンターは無事のようです」
高畠は指を神経質に組み合わせた。
「アメリカとのホットラインはまだ繋がらないのね」
それまで沈黙を守っている防衛大臣に首相は目を向けた。
「防衛省ではどう理解しているの?」
防衛大臣は苦渋の表情を浮かべた。
「はっきりとしたことは分かりません。もしサイバー攻撃なら、国内のネットだけが無事なのが理由が付きませんし、あるいは太陽フレアなどの影響なら、全国の電子機器に異常がでるはずです。しかし我が国が保有する衛星と海外に繋がるサーバーだけが特定的にやられるなど、説明ができません」
その時、部屋にづかづかと入ってきた人物がいた。
文部科学省の次官だった。次官は大臣に近づき、あるメモを渡した。そのメモを読み進めた大臣の唇がすぼめられ、次官の顔を見つめた。次官は強くうなずき返した。
質問の形に眉を挙げて見せた首相に、大臣は立ち上がりメモを渡した。
そのメモを読んだ首相は「信じられない」というように、次官の顔をまじまじと見つめていた。
「みなさん。三鷹の国立天文台からの報告です」
何事かと、一同は首相の顔を見つめていた。
首相は言葉をつづけた。
「月・惑星および恒星の位置関係を照合した結果、観測された天体配置は1941年11月27日のものと一致します」




