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飛行場から関東軍司令部へ緊急連絡が入った。所属不明機の搭乗者は全員日本人。日本政府の使節を名乗る。司令官との面会を要求。敵対行動なし。身分証明書類を所持。ただし、その書類に記載された政府名、組織名、人名の一部は確認不能。
最終的に、武装を厳重に警戒したうえで一行を司令部へ移すことになった。オスプレイには関東軍の兵が監視につき、乗員の一部が残された。特使団は軍用車両へ分乗して新京市内を進んだ。
車窓から見える街を、未来日本の一行はほとんど無言で眺めていた。現代の長春とはまったく違う。広い道路、石造りの建物、日本語と中国語の看板、軍服姿の日本兵、満州国の制服を着た警察官。道路を走る自動車の形も、人々の服装も、すべてが古い。しかし、映画のセットではない。人々が暮らし、店が営業し、路面には埃があり、煙突から煙が上がっている。
そして沿道の人々は、軍用車両の中にいる未来日本の特使など知らない。彼らの関心は、さきほど空を飛んでいた奇妙な航空機のほうへ向いていた。
関東軍司令部でも混乱は続いていた。
梅津美治郎大将のもとには、飛行場から送られてきた書類の写しと報告が届けられた。参謀長の吉本貞一中将をはじめ幹部たちが集められ、報告内容が検討された。
「日本国政府とは何だ」
幹部の一人が書類を見ながら言った。
「政府なら東京にある」
「内閣総理大臣、高畠君枝。該当者なし」
「女だというぞ」
「ふざけているのか」
「飛行機を見ても、まだそう思うか」
その一言で声が止まった。
すでに複数の将校がオスプレイを直接確認している。あの航空機を、この芝居のためだけに用意したとは考えにくい。
梅津はしばらく書類を読んでいた。
「日本人であることは間違いないのか」
「少なくとも言葉、姓名、所持品を見る限りでは」
「武器は」
「携行していません。ただし航空機内については十分な確認をしておりません」
「何をしに来たと言っている」
「説明したい、とだけ」
梅津は書類を机へ置いた。
「ならば聞こう」
こうして、未来日本の特使団と関東軍幹部との最初の会見が設けられた。
広い部屋の一方に梅津と吉本をはじめ関東軍側が並び、その向かいに特使団が座った。互いに日本人だった。通訳はいらない。それなのに、外国使節との会談以上に相手が何者なのか分からなかった。
特使は最初に、自分たちには関東軍へ命令を下す権限がないことを明言した。
「われわれは、皆さんの上級司令部を名乗るために来たのではありません」
梅津が静かに聞いた。
「では、何者だ」
「20XX年の日本国政府から派遣されました」
「その20XX年というのは何だ」
「西暦です」
「今年は1941年だ」
「はい。われわれも、現在が1941年11月であることを確認しています」
関東軍側の何人かが顔を見合わせた。
特使は、日本列島で起きた現象について説明を始めた。ある瞬間を境に国外との通信がすべて途絶したこと。人工衛星が失われ、天体観測の結果から現在が1941年であることが判明したこと。日本列島と周辺の一定範囲が、20XX年からこの時代へ移動したと政府が判断していること。
梅津は途中で遮らなかった。
特使はさらに続けた。
北太平洋へ派遣した哨戒機が南雲忠一中将率いる機動部隊を発見したこと。海上自衛隊の飛行艇が接触し、日本政府から真珠湾攻撃中止を要請したこと。南雲が作戦の秘匿性が失われたと判断し、機動部隊を反転させたこと。そして別の航空機がすでにハワイへ到着し、アメリカ政府との接触が始まっていること。
そこまで聞いたところで、吉本が初めて大きく身を動かした。
「待て」
特使は説明を止めた。
「南雲中将が、真珠湾攻撃を中止したと言ったのか」
「はい」
「真珠湾攻撃?」
室内の空気が変わった。
作戦の詳細を知る者と、そこまで知らされていなかった者とで反応が違った。
「なぜ君たちがその作戦を知っている」
「われわれにとっては、すでに歴史だからです」
誰もすぐには言葉を返さなかった。
「そしてアメリカにも教えたのか」
「はい」
「日本の軍事機密を?」
「攻撃を阻止するためです」
関東軍側の視線が一斉に厳しくなった。
それまで理解不能な珍客だった者たちが、突然別の意味を持ち始めた。
梅津だけは声を荒らげなかった。
「君たちの言う日本国は、アメリカの味方なのか」
「われわれの時代では、アメリカ合衆国は日本の同盟国です」
今度こそ、部屋の中から声が漏れた。
梅津の表情にも、初めて明確な変化が現れた。
「同盟国だと?」
「はい」
「日本とアメリカが?」
「そうです」
特使は持参した鞄へ手を伸ばした。
「口頭だけでは信用していただけないことは承知しています。そのため、資料を持参しました」
机の上へノートPCとディスプレイ付き再生機が置かれた。




