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「横須賀からアメリカ空母が出港したと?」
「はい、現在種子島沖に達して沖縄へと向かっています」
「ほかの米軍基地の動きは?」
「ぞくぞくと南西諸島に向かって集結しています。グアムからも艦隊が出動、韓国とも緊密な連絡がなされています」
自衛隊の作戦室では緊迫の度合いが高まっていた。
いよいよ台湾有事が始まったのである。
いままで何度も噂にのぼり、そのたびに否定された緊急事態が今この瞬間動き出しているのであった。壁に設置された無数のモニターには、監視衛星の画像がリアルタイムに表示され、同時にAIの分析による記号がいくつものシンボルとなって重なっていた。
中国の人民解放軍が台湾海峡に向かって何隻もの艦艇を出動させ、大陸沿岸にはあきらかな軍隊の移動と物資の集積が認められていた。
この動きは首相官邸にも報告され、現在緊急事態を発令するかどうか鳩首談合を重ねているはずだった。分析結果はあきらかな軍事行動ではあるが、中国側はなにも声明をだしておらず、たぶん追及されたらただの演習だと答えるはずだった。
だが、今の動きは言い訳がきかないほど明白であった。
いよいよ中国側は最後の一線を越え、危険な賭けに出ると判断されていた。
いわばこれは中国の*(注1)ルビコン川ともいえた。
作戦室では数人のオペレーターがさかんに米軍や、オーストラリアとのやりとりをやっていた。早口の英語が飛び交い、作戦室は騒然となっていた。
参謀の胃がきりきりと痛んだ。
震える手で胃薬の瓶をつかみ上げ、一気に数錠を口に放り込んで手近のコップの水で流し込む。
これから先、薬瓶は手放せないな……と、参謀はぼんやりと意識していた。
*(注1)紀元前49年1月10日、ローマの将軍ユリウス・カエサル(シーザー)が、軍を率いてこの川を渡り当時のローマ法では死罪に当たる重罪だった。つまり引き返せない重大な決断を指す言葉。




