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午後になると、新聞各社は号外の発行を決めた。印刷拠点から刷り上がった号外が次々と送り出され、駅前や繁華街で配られ始めた。同時にテレビは通常番組を中断し、ニュースサイトや動画配信、スマートフォンの速報通知にも同じ見出しが流れた。
大きな活字で、真珠湾攻撃の阻止と日本海軍機動部隊の反転が報じられていた。テレビでは臨時ニュースが流れ、ニュースサイトや動画配信にも政府発表が転載された。北太平洋で1941年の日本海軍艦艇が実際に確認されたこと、現代日本から派遣された部隊が接触したこと、真珠湾へ向かっていた艦隊が攻撃行動を中止したこと。
それまで「政府がタイムスリップしたと言っている」だけだったものに、突然、赤城や加賀という教科書の中の固有名詞が現実のニュースとして加わった。
「本当にいたのかよ」
駅前で号外を受け取った若い男が、紙面を見たまま言った。隣にいた友人がスマートフォンを操作しながら返事をした。
「政府が嘘ついてなきゃな」と返したが、その声には以前ほど冗談めいた響きがなかった。
「赤城って、あの赤城?」
「たぶん、その赤城」
「沈んだ船だろ」
「まだ沈んでないんだろ。1941年なんだから」
二人ともそこで黙った。言葉にしてしまうと、その意味が急に現実味を帯びたらしい。若い男はもう一度号外の日付を見た。
「じゃあさ、俺たち、本当に……」
「らしいな」
友人もスマートフォンから顔を上げた。
「過去にいるらしい」
量販店では壁一面のテレビが同じニュースを映していた。買い物途中の夫婦が立ち止まり、その前にはいつの間にか人垣ができていた。
「真珠湾、なくなったってこと?」
妻が尋ねると、夫はしばらく考えてから答えた。
「攻撃がなくなった、だろ。その後どうなるかは分からない」と答えた。
「じゃあ戦争もなくなるの?」
「それも分からないよ」
近くにいた老人が画面を見ながら言った。
「わしの親父が戦争へ行ったのは、もっと後だったな」
誰も返事をしなかった。テレビの中では、アナウンサーが「これにより、従来知られていた歴史とは異なる展開となる可能性があります」と慎重な表現を繰り返していた。
しかし、タイムスリップが現実だと受け入れられ始めると、別の問題も急速に現実味を帯びた。
ある家庭では、母親が何度目か分からない電話を娘へかけていた。画面には呼び出し中ではなく、接続できないという表示が出るだけだった。
「まだ駄目?」
父親が聞くと、母親は首を横に振った。
「沖縄へ着いたって、昨日の夜に連絡あったのよ。ホテルの写真も送ってきたのに」
「旅行会社には?」
「ずっと話し中」
テーブルには娘から最後に届いた写真が表示されたままのタブレットが置かれていた。青い海を背景に笑っている。写真が撮られたのは、彼らにとって昨日だった。しかし、その沖縄が同じ昨日を迎えている保証はもうなかった。
別の会社では、人事部の会議室に海外駐在員の名簿が広げられていた。
「ニューヨーク三名、ロンドン二名、シンガポール四名。出張者を入れるともっと増えます」
担当者が読み上げると、部長が「家族には?」と聞いた。
「順番に連絡しています。ただ、こちらも説明できることがありません」
「死亡扱いにはできないよな」
「当たり前だ」
「じゃあ行方不明?」
「居場所は分かってる。時間が違うだけだ」
誰も続く言葉を思いつかなかった。名簿には最初「安否不明」と書かれていたが、それも正確ではないように思えた。おそらく本人たちは20XX年のニューヨークやロンドンで生きている。突然、日本列島だけが消えた世界で、こちらと同じように混乱しているかもしれない。しかし、それを確認する方法がない。




