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挿絵(By みてみん)

 ホワイトハウスへ運び込まれた電文を、(*注1)フランクリン・D・ルーズベルト大統領はしばらく黙って読んでいた。

 机を囲んでいるのは、コーデル・ハル国務長官、ヘンリー・スティムソン陸軍長官、フランク・ノックス海軍長官らだった。ハワイから届いた第一報だけでは意味が通らず、すでに二度、追加の確認を求めている。しかし返ってきた報告は、訂正されるどころかますます奇妙なものになっていた。

 ルーズベルトは電文から顔を上げた。


「では、まず未来の話は忘れよう」

 全員の視線が大統領へ集まった。

「そんなものを信じるかどうかで一晩使うつもりはない。ここに書かれていることで、われわれが確かめられることは何だね?」

 ノックスが手元の資料へ目を落とした。

「日本海軍の空母です。使節は六隻の艦名を挙げています。赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴」

「その六隻はいまどこにいる?」

「それが問題です。正確な所在を把握できておりません」

 ルーズベルトは眼鏡越しにノックスを見た。

「つまり、未来人だという連中は、われわれが知らない日本空母の居場所を知っているわけだ」

「そう主張しています」

「出港した場所は?」

「千島列島の択捉島。単冠湾。昨日出撃した、と」

「確認できるかね」

「容易ではありません。しかし調べます」

「調べたまえ」


 ルーズベルトは電文を机へ置いた。

「次。12月7日という日付は?」

 今度はスティムソンが答えた。

「日本側がハワイを攻撃する予定日だとしています」

「方法は」

「空母航空隊による奇襲。潜水艦も参加する、と」

「六隻の空母が北から接近して、日曜の朝に真珠湾を叩く」

 ルーズベルトはゆっくりと言葉を区切った。

「馬鹿げているようには聞こえんね」

 誰も答えなかった。


「問題は、それを日本人自身がわれわれに教えに来たことだ」

 ハルが口を開いた。

「そこです、大統領。もし欺瞞なら、目的が分かりません。こちらを誤った方向へ警戒させるためという可能性はありますが、それにしては情報が具体的すぎます」

「日本政府の使節だというのは?」

「現在の東京にある政府とは別の政府だと主張しています」

 ルーズベルトの口元がわずかに動いた。

「未来の日本政府か」

「そうです」

「しかも、その未来ではわれわれと日本は同盟国」

「そう主張しています」

「それは日本大使に聞かせてやりたい話だ」

 誰も笑わなかったので、ルーズベルトもすぐ表情を戻した。


「アメリカ人が二人いるそうだね」

「少なくとも二人確認されています。一人はアメリカ軍大佐を名乗る男。もう一人はエミリー・カーターという若い女性で、東京の大学に留学して日米外交を研究していると」

「身元は?」

「確認できません」

「存在しない?」

「本人によれば、まだ生まれていないそうです」

 ルーズベルトはしばらくハルを見た。

「便利な説明だな」

「まったくです」

「軍人のほうは?」

「こちらも記録がありません。ただしハワイ側の報告では、英語は母語話者で、米軍の制度について相当詳しい。身分証も持っていますが、形式が未知のものです」

「偽造できる」

「できます」

「飛行機は?」


 ノックスとスティムソンが一瞬顔を見合わせた。

「それが最も説明困難です」

「プロペラがないというやつか」

「はい。四発の大型機です。Pー40が実際に迎撃しており、複数の操縦士が確認しています。日本の国籍標識を付けています」

「どこから飛んできた?」

「東京だと」

「給油は?」

「なし」


 ルーズベルトは椅子へ深く身体を預けた。

「未来から来たという話より、そちらのほうがよほど面白い」

 スティムソンが言った。

「大統領、われわれは彼らの話を信用する必要はありません。しかし警告そのものを無視する理由もありません。日本が軍事行動を準備しているという点では、われわれ自身の情報とも一致します」

「その通りだ」

 ルーズベルトはすぐに答えた。

「未来人だから警戒するのではない。日本空母の所在が分からず、その所在を知っていると称する者が現れたから警戒する。それで十分だ」

 ノックスがうなずいた。


「キンメルには?」

「警戒を続けさせる。だが、まだ艦隊を動かす具体的な命令は出さない。まず本人から直接話を聞きたい」

「ショートにも同様に?」

「そうしてくれ。それから――」

 ルーズベルトは机の上の電文を指で軽く叩いた。

「この奇妙な飛行機を、航空屋に見せたまえ。日本が本当にこんなものを秘密裏に作ったのなら、それはそれで未来旅行より重大な問題だ」

 ノックスがわずかに笑った。

「分解しますか」

「まだ駄目だ」

 ルーズベルトは即座に答えた。

「客人の飛行機を壊してしまって、本当に未来から来たと判明したら、私は未来の日本政府へ最初から謝罪することになる」

 今度は室内に小さな笑いが起こった。


 それが消えるのを待って、ルーズベルトは続けた。

「人を送ろう」

「ハワイへ?」

「そうだ。陸軍、海軍、国務省。航空機を調べられる技術者も必要だ。あとは日本を知っている人間だな。通訳だけでは足りん。彼らが何者で、何を考えているのか分かる者が欲しい」

 ハルがうなずいた。

「候補を探します」

「急いでくれ。もし彼らの話が本当なら、われわれには十一日しかない」

 そこでルーズベルトは一度言葉を止めた。

「いや」

 全員が大統領を見た。

「十一日ある、と考えるべきだな」


 その言葉を境に、会議の空気が変わった。

 真珠湾攻撃が本当に予定されているなら、まだ起きてはいない。

 未来から来たという話が嘘でも構わない。六隻の日本空母が北太平洋にいるという情報が本当なら、確認する時間は残されている。

 ルーズベルトは机上の報告書を閉じた。

「未来かどうかは、調べればいい。だが、12月7日は待ってくれん。ハワイへ調査団を送れ」


 決定が下された。

 人選はただちに始まった。

 国務省、陸軍、海軍、情報関係者、航空技術者。そして、日本語を理解し、日本そのものについて説明できる専門家。その候補の中に、31歳の若い研究者の名前があった。


(*注2)エドウィン・O・ライシャワー。

(*注1)フランクリン・D・ルーズベルト大統領(英語: Franklin Delano Roosevelt、1882年1月30日 - 1945年4月12日)は、アメリカ合衆国の政治家。ニューヨーク州議会上院議員(ダッチェス郡選出)、海軍次官、ニューヨーク州知事を歴任した。第32代アメリカ合衆国大統領(在任:1933年3月4日 – 1945年4月12日)。

(*注2)エドウィン・O・ライシャワー。エドウィン・オールドファザー・ライシャワー(英語: Edwin Oldfather Reischauer, 1910年10月15日 - 1990年9月1日)は、アメリカ合衆国の外交官、東洋史研究者、ハーバード大学教授[。1955年(昭和30年)から1963年(昭和38年)までハーバード燕京研究所所長を務める。1961年(昭和36年)から1966年(昭和41年)まで、駐日アメリカ合衆国大使を務める[1]。大使退任後はハーバード大学日本研究所所長として歴史に限らず日本研究を推し進め、後進の指導にも尽力した[1]。その功績から同研究所は1985年(昭和60年)にライシャワー日本研究所と改称されている。

Wikipediaより抜粋

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